多分、愛じゃない

ゆきの(リンドウ)

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愛じゃない気持ちのこれから先。

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「ごめん、違うよ、奏。ただ、びっくりしたっていうか。奏、こういうの人前では嫌だと思ってたから」
「いつの話してんだよ」
「だよね、そうだよね。本当にごめん」

 真剣に謝られて、聞く耳を持たないほどバカではない。ほっとしていると、次はユウリから手を握られた。

「ねえ、奏」
「なんだ?」
「馬鹿な事、聞いてもいい?」
「いいけど、何?」
「…克巳さんともこうして手を繋いで歩いたこと、あった?」

 一瞬、聞かれた意味がわからなかった。記憶を手繰り寄せて、町から離れたところではあったかもしれないな、と素直に応える。

「それがどうかしたか?」
「…いや、なんていうか。わかってたけど、やっぱり奏が僕以外の人とそういうことしてたんだなってちょっと、いや、結構ショックで」

 顔に熱が集まる。ユウリの言うことはわかる。俺だってユウリの過去に嫉妬する。
 けれど、嫉妬するということはそれだけ相手のことを好きだということだろう。しっかりと恋人なのだ。そのことに酷く安堵した。

「だから、なんていうか。格好悪いけど、恋人らしいことするの躊躇ってたんだよね」
「なんでだよ」
「だって、恋人らしいことなんて克巳さんと散々してたんだろうなって。僕としても結局、克巳さんとしたんだなって奏の中にあるなら、僕はそれを超えられないかもしれないなって」

 ああ、もう。いちいち、可愛くて仕方がない。

「呆れた?なんか、格好悪いよね、ごめんね?」
「いや、むしろ可愛い」
「え、ちょっとそれは、喜んでいいの?」
「…俺は克巳に可愛いと思ったことはない」

 顔から火が出そうで、首に巻いたマフラーにすっぽりと顔を隠した。

「奏、今からすっごい情けないこと、言ってもいい?」
「なんだよ」
「奏が克巳さんとしたことないこと、全部、僕としてほしい。いい?」

 気付けば歩みは止まっていて、繋いだ手は離され、代わりに頬をユウリの大きな手で両方から包まれていた。
 少し、あと少し、と顔が近づいてくる。

「…いいよ」
「ありがとう」

 吐息が混ざる。冷たくなった風に混ざって温かい風が二人のわずかな間を埋め尽くす。

 冷たくなった唇に温かい体温が触れた。触れるだけのキスだった。

「帰ろうか」
「そうだな」

 手を繋いでまた歩み進める。
 繋いだ手から伝わってくる温もりが、言葉にできない感情を伝えてくる。

 結局、俺たちの間にあるものはまだ愛ではないのかもしれない。
 愛とはいろいろな形をしている。守りたい愛、守るべき愛、貫きたい愛。
 時に形を変えすぎて、一方的なものになってしまうこともあるだろう。
 時に、自分を守る愛のために、人を傷つけてしまう愛もあるかもしれない。

 けれど、そのどれもが尊い愛で、それは誰にも傷つけることも蔑ろにすることもできない。

 これから俺たちが紡ぐ「愛」が、どんな形になるのか、俺はまだ知らないけれど、きっと、また新しい愛の形になる。

 そのとき俺は、その愛を正面から受け止められる人でありたい。

 繋いだ手から見上げたユウリの顔は、やっぱり優しく微笑んでいて、ああ、好きだなと思わされた。

 いつか愛になる日も、こいつの隣にいたい。

 強く願った。その願いはきっと、その日の月しか知らないと俺は思った
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