97 / 102
番外編:多分、もう愛だった
(3)-2
しおりを挟む
克巳が小さな小包を鞄から出した。
「なに?これ」
「今更、迷惑とも思ったけど…約束、したからどうしても渡したかった」
そう言われ、奏は唐突に思い出した。
まだ恋人だった頃、クリスマスプレゼントは必ず送り合おうと約束していた。
「迷惑だよね?下心とかあって渡したわけじゃないんだ。ただ、自分で捨てるのもなんか嫌だったから…迷惑承知で奏がもらってくれるなら嬉しい、です」
「ちなみに中身、なに?」
「…ケーキ」
「それ、狡いって克巳。だって俺が食べ物に弱いって知ってんだろ?」
言うと克巳が罰の悪そうな顔をした。その顔に以前、付き合っていた頃のことを思い出す。
昔から都合が悪くなると眉を八の字にしてまるで叱られた犬のようになるのは、今でも変わっていない。
「ハハっ、克巳、お前、変わってなさすぎ」
思わず、笑ってしまった。気まずさは吹き飛んで懐かしさが上回る。
「…奏は変わったね」
「そうか?」
「よく、笑うようになった。彼のおかげかな?」
「ああー…そうかな?」
「…本当は僕が奏を笑わせてあげたかった」
見つめられ、気付けば克巳の手が奏の頬に触れた。
「克巳、それ、どういう」
「奏は今、幸せ?」
問われ、答えようとして、けれどその目の切なさに言葉が出ない。
克巳に対して自分も悔いがあるように、もしかしたら克巳も奏に対して悔いがあるのかもしれない。
悔いがあったとしても解決することはできない。過去には戻れない。けれどもしこの瞬間、何かできるのだとしたら。
何かしなければきっとお互い、悔いが残る。それはしこりになって根深く残る。
克巳の顔に手を伸ばした。頬に触れそうなところまで手を伸ばしたそのとき、
「奏ッ!」
声が聞こえ、振り向くとエプロン姿のユウリがこちらを見つめて店の前に立っていた。
「なに?これ」
「今更、迷惑とも思ったけど…約束、したからどうしても渡したかった」
そう言われ、奏は唐突に思い出した。
まだ恋人だった頃、クリスマスプレゼントは必ず送り合おうと約束していた。
「迷惑だよね?下心とかあって渡したわけじゃないんだ。ただ、自分で捨てるのもなんか嫌だったから…迷惑承知で奏がもらってくれるなら嬉しい、です」
「ちなみに中身、なに?」
「…ケーキ」
「それ、狡いって克巳。だって俺が食べ物に弱いって知ってんだろ?」
言うと克巳が罰の悪そうな顔をした。その顔に以前、付き合っていた頃のことを思い出す。
昔から都合が悪くなると眉を八の字にしてまるで叱られた犬のようになるのは、今でも変わっていない。
「ハハっ、克巳、お前、変わってなさすぎ」
思わず、笑ってしまった。気まずさは吹き飛んで懐かしさが上回る。
「…奏は変わったね」
「そうか?」
「よく、笑うようになった。彼のおかげかな?」
「ああー…そうかな?」
「…本当は僕が奏を笑わせてあげたかった」
見つめられ、気付けば克巳の手が奏の頬に触れた。
「克巳、それ、どういう」
「奏は今、幸せ?」
問われ、答えようとして、けれどその目の切なさに言葉が出ない。
克巳に対して自分も悔いがあるように、もしかしたら克巳も奏に対して悔いがあるのかもしれない。
悔いがあったとしても解決することはできない。過去には戻れない。けれどもしこの瞬間、何かできるのだとしたら。
何かしなければきっとお互い、悔いが残る。それはしこりになって根深く残る。
克巳の顔に手を伸ばした。頬に触れそうなところまで手を伸ばしたそのとき、
「奏ッ!」
声が聞こえ、振り向くとエプロン姿のユウリがこちらを見つめて店の前に立っていた。
1
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
消えることのない残像
万里
BL
最愛の兄・大貴の結婚式。高校生の志貴は、兄への想いが「家族愛」ではなく「恋」であったと、失恋と同時に自覚する。血の繋がりという境界線、そして「弟」という役割に縛られ、志貴は想いを封印して祝福の仮面を被る。
しかし数年後、大貴の息子が成長し、かつての兄と瓜二つの姿となったとき、止まっていた志貴の時間は歪な形で動き出す。
志貴(しき):兄・大貴に長年片思いしているが、告げることなく距離を置いていた。
大貴(だいき):志貴の兄。10歳年上。既婚者で律樹の父。無自覚に人を惹きつける性格。志貴の想いには気づいていない。
律樹(りつき):大貴の息子。明るく素直だが、志貴に対して複雑な感情を抱く。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
窓のない部屋の、陽だまりみたいな君
MisakiNonagase
BL
都心の高層ビル、その「内臓」とも言える地下一階のメール室。
そこで働く山﨑智之は、目立たず、期待されず、淡々と郵便物を捌く「透明人間」のような毎日を愛していた。自分は低スペックで、華やかな地上には居場所がない。そう、諦めていた。
そんな彼の静寂を破ったのは、二十二階の住人、若きエース・風巻隼人だった。
完璧なルックス、圧倒的な成果、羨望の眼差しを一身に浴びる彼が、なぜか地下のメール室に足繁く通い始める。
「五分だけ、ここにいさせてくれないか」
一通の郵便物から始まった、五分間だけの秘密の共有。
次第に剥き出しになっていく隼人の孤独と、それを無自覚に包み込んでしまう智之の温度。
住む世界が違う二人が、窓のない部屋で見つけたのは、名前のつかない「救済」だった。
エスポワールに行かないで
茉莉花 香乃
BL
あの人が好きだった。でも、俺は自分を守るためにあの人から離れた。でも、会いたい。
そんな俺に好意を寄せてくれる人が現れた。
「エスポワールで会いましょう」のスピンオフです。和希のお話になります。
ハッピーエンド
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる