上 下
5 / 13
Vtuber暴虐編~美少女なら問答無用で優遇して貰えると思うな~

第五話「一難去ってまた一難とはよくぞ言ったものだ。……洒落にならん」

しおりを挟む
 自分めの名は、七都巳大竜。


「ねぇ~? そこのイカした全裸ハダカ貴男あなたぁ? こっちで私と楽しいコトしなぁ~い?」
(これはどういうことだ……一体何がどうしてこうなった!?)

 得体の知れぬ建造物の内部にて全裸で目覚め困惑していた所を見知らぬ女子オナゴにすり寄られ、
 厄介な状況になったな、と内心頭を抱える無様な追放者に御座います。


 ( ◎甘◎)<落ち着いて冷静になろうにもなりようがありませんでな……


 勇者江夏の攻撃を受けた自分めは、そのまま何かに引っ掛かったり、或いは受け止められたりするでもなくエルセ洋沖合に落水……
 高高度からの自由落下であったが為でしょう、自分の意識は着水と同時に明後日の方位へ吹き飛ばされてしまったので御座います。

 それから暫くの間、恐らく自分は意識を失ったまま海を漂い続け……

 どこかに漂着したか、或いは何者かに拾われたのか定かではありませんが、察するに何処かの段階で何者かによって身包みを剥がれ、
 一糸纏わぬ全裸の状態でこの謎めいた建造物の内部へ放逐され、そして目覚めて今に至る……との推測が妥当に御座いましょう。

(然し全く何なのであろうな、この建造物は……内装から察するに商業施設や企業の社屋とは考え難く、どちらかと言えば自治体によって運営される公共施設……教育機関の学舎か医療施設といった所か)

 とは言え、この施設が何であるにせよ奪われた装備を奪還、若しくはその代替品を確保しつつ脱出せねばならんのは紛れもない事実に御座います。

 何せ自分は江夏率いる勇者一団パーティを追放された身の上であり、江夏を召喚し勇者一団を組織・運営せしはエニカヴァー随一の歴史と国力を誇る大国"ヴィンクルマモリス神聖王国"……

 より厳密に言うならば、勇者一団とは同国の次期王位継承者たる王女"アイリ・ウェザヌス・コプオー・ヴィンクルマモリス"の傘下に属す、世界最強クラスの戦闘部隊なものですから……。

(神聖王国の権威と諸方に対する影響力は絶大。逆らえる者などほぼ存在せん……。そして江夏は計算高く狡猾な男故、肉眼で完全な死体を確認する迄は自分の死を確信せず、
 王女に頼み込み自分を賞金首として国際指名手配でもする可能性が高かろう。
 何故なのか理由は皆目見当もつかぬが、江夏は自分を相当憎悪しているようだしな……)

 其の様な抜き差しならぬ事情もあるものですから、自分は一先ず身を隠しうるものと脱出経路の確保を試みたので御座います。
 然し……


「あぁ~ら♥ 新しいお客さんじゃないっ♥ しかもわりとイケメンで私好みの細マッチョだしィ~♥
 ねぇ~? そこのイカした全裸ハダカ貴男あなたぁ? こっちで私と楽しいコトしなぁ~い?」


 この施設に深く関わっているらしき十代後半程度の女子オナゴに絡まれてしまいました。
 この小娘、顔は比較的別嬪の域にあり、身体つきもそれなりに見事なもの……大勢の男を魅了しうる美貌の持ち主ではあるのですが、目付きがどうにも怪しく、気に障る喋りで態度も不愉快、加えて言えば身に纏う雰囲気からして不穏そのもの。

 粗方、一般人かたぎでない破落戸ごろつきの類いか、仮に一般人であっても到底真面まともとは言い難い性根の腐ったろくでなしなのは疑いようのない事実に御座いました。

(こんな奴に付き合っていたのでは、どうなるかわかったものではないな……)

 経験から即座にそれを見抜いた自分めは、どうにか小娘を煙に巻きやり過ごそうと試みましたが……何分状況が悪過ぎました。
 何せ向こうは身なりの整った、一見して民間人にしか見えぬ女子おなごであり、対する此方は全裸の男……言わば不審者に御座います。

(警備員なり警察官なりが駆け付けでもすれば、破滅するのは紛れもなく此方であろうな……)

 異世界エニカヴァーにも色々ありますが、往々にして公務員公僕なる連中は飯の種たる納税者の中でも取り分け社会的弱者を甘やかす傾向にあり、
 更に連中の倫理観・社会観もまた(部分的にではありますが)遥か昔からまるで進歩しておらず、正直な所粗だらけなのは語るに及ばぬ事実に御座います。

 即ち『弱者とは女子供や高齢者であり、それ以外は強者である。弱者は助けるべき善であり、強者は挫くべき悪である。それらはいつ何時も絶対の価値基準であり、例外はない』と、公僕はじめ世俗の多数派はそう信じ込み、そして連中はそのことわりを微塵も疑おうとはしないので御座います。

 故に自分は困り果てました。この小娘めに従ってはならぬ、なれど逆にこの小娘へ逆らったり、
 或いは明確に反抗せずとも機嫌を損ねるような真似も断じて出来ぬ……ある意味では飛行帆船上での戦いよりも難局かもしれません。

 然しそれでもどうにかこの苦境を打開しなければ、到底自分に未来などありませぬ。故、この七都巳大竜は決断致しました。


(そうだ……何も躊躇うことはない。この程度の小物如き相手に、一切の慈悲も遠慮も不要ではないか……!)

 我乍ら何故今迄気付かなかったのやら……己が行く手を阻む障害ものなど、取り除いてしまえばよいので御座います。
しおりを挟む

処理中です...