魔王を倒した半人半魔の男が、エルフ族の国で隠居生活を送っていたら、聖女に選ばれた魔王の娘を教え子に迎えて守り人になる。

八魔刀

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第三章 後継者

第60話 魔女2

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 グリゼルの魔法陣が、今度は俺の周囲を取り囲んだ。脚力を魔力で強化し、その場から即座に跳び退き、グリゼルへと迫る。

 グリゼルは俺を近付けまいと魔力による砲撃を乱射する。その乱射によりグリゼルへと近づきづらくなった俺は、只管砲撃をかわすだけになってしまう。

 何とかして突破口を斬り開かなければ、戦いが長引いて消耗戦に持ち込まれてしまう。この戦いが終わっても、俺にはまだ光の試練が待っている。此処でこれ以上力を大きく消耗する訳にはいかないのだ。

 相手が典型的な魔法使いタイプなら、俺の手持ちの魔法道具のいくつかは有効か……。
 雷神と風神の力が使えない以上、魔法道具を活用するしかない。

 俺はポーチに手を突っ込んで、小さな包み玉をいくつか取り出した。その包み玉をグリゼルへ向けて投げ付ける。

 グリゼルはその包み玉を砲撃で迎撃し、包み玉は破裂した。破裂した側から、内包されていた粉塵が舞い、グリゼルの周囲を漂う。

「これは……!?」
「痺れ粉だ! 魔力の阻害効果もある、ララのお手製の道具だよ!」

 旅の準備の段階で、ララにいくつかの道具の調合を任せていた。その内の一つがこれだ。
 複数の霊草と魔石を粉塵状態で混ぜ込むと麻痺毒へと変わる代物であり、調合するのにかなりの技術が要るが、ララはその技術を有する天才だ。

「くっ……小賢しい!」

 グリゼルは霞となってその場から離脱しようとするが、麻痺毒が効いて上手く魔法が発動できないようだ。

 チャンスだ。俺は左手に火の玉を生み出し、粉塵の中にいるグリゼルへと投げ付けた。
 痺れ粉は可燃性の粉だ。それが大量の粉塵を生み出している。その中へと火種を投げ付けるとどうなる?

 答えは爆発だ。

「爆ぜろ」

 ――ドォォンッ!

 火の玉が粉塵の中に入ると、爆発が引き起こりグリゼルを呑み込んだ。
 これである程度のダメージを与えられていればいいんだが。

 爆煙を眺めていると、その中からローブの翼を煤だらけにしたグリゼルが飛び出してきた。

「チッ、あまり喰らってないか……」
「いえ、氷の盾が間に合わなければどうなっていたか……」

 剣を構え、次の一手を考える。
 だがその前にグリゼルが今度は攻めに入った。

「今度は此方の番です……炎よ、竜となれ――アサルト・フレイム!」
「っ!?」

 グリゼルの両手から炎が掃射され、それが一つ首の竜へと変わる。炎の竜は縦横無尽に動きながら俺に襲い掛かる。剣を前に出して炎の竜の顎を受け止め、後ろに押される。剣で顎を逸らすと、炎の竜は再び宙を舞い襲い掛かってくる。

 剣に渾身の魔力を込め、上段に構える。炎の竜が迫った時、剣を兜割の要領で振り下ろし、炎の竜を両断する。
 だが炎の竜の顎は固く、俺の攻撃でも両断できなかった。

「くそっ!」
「まだまだいきますよ! 三元素よ、竜となれ――トリプル・アサルト!」

 グリゼルから雷と氷の竜が出現した。

 マジかよ、炎の竜だけでも少々厄介だってのに、もう二つ!?
 いや、だが落ち着け。対処方法はある。雷、氷、火の属性に対して有効な反対属性をぶつければ良い! 魔力の消耗が激しいが、回復の手段ならある!

「三元素よ、竜となれ――トリプル・アサルト!」
「なっ!? 私と同じ魔法を!?」
「こちとら親父に魔法を徹底的に叩き込まれてんだ! 魔族の魔法なら尚更な!」

 グリゼルが雷、氷、火の三属性を召喚したことに対して、俺は地、火、水の三属性を召喚する。地は雷に、火は氷に、水は火に対抗させてぶつける。

 魔力の消耗は激しく、同時に三つの属性を操る為、かなりの集中力が必要になる。
 おそらくだが、魔法力に関してはグリゼルのほうが上だろう。少しでもその差を埋めるべく、俺はポーチから液体の入った小瓶を取り出す。

 これはララが作ったエーテル。魔力を一時的に回復、増強させる薬だ。それを一気に飲み干し、失われた魔力を回復させる。その回復した魔力を、召喚した三属性の竜へと更に加えて巨大化させる。

「ぐっ……!?」

 魔力を増強させたことで威力は増大したが、その分コントロールが難しくなる。
 だがここでミスをしてはグリゼルの魔法に対抗できない。
 意地でもコントロールを離さず、グリゼルの魔法にぶつけていく。

「いっけぇぇぇ!」

 ――グゴォォォォ!

 俺が召喚した竜が、グリゼルの竜を噛み千切る。そのままグリゼルへ向けて竜を放つ。

「素晴らしい……此処まで私に対抗するとは……」

 グリゼルはそのまま三つの竜の顎に呑み込まれ、魔力の爆発に消えていった。

「ハァ……ハァ……!」

 ポーチからエーテルを取り出し、一気に飲み干す。あまり多用することは控えるよう、ララから厳命されているが、そうも言っていられない。

 何故ならまだ戦いは終わっていないからだ。

 爆煙の中からまだまだ健在なグリゼルが姿を現した。
 フードはボロボロで、薄気味悪いほど美しい顔にも傷が付き、灰色の髪も煤で汚れているが、まだ戦意は喪失しておらず、寧ろ力が高まっている。

「しつこいな……!」

 俺は剣を構える。

 次はどうする? どう出てくる? まったく厄介な奴だ。

 俺が戦う気満々でいると、グリゼルが戦意が小さくなっていくのを感じた。
 不審に思っていると、グリゼルは床に降り立ち、ローブを元に戻した。

「もう宜しいでしょう……貴方様は力を示しました。この先に進んでもきっと大丈夫でしょう」
「あ……? 何を言ってやがる?」

 グリゼルは微笑む。

「最初に言ったはずです。お力を試させていただくと。私の此処での目的は、貴方様が光の試練を受けても乗り越えられるか、そして我が君のご信頼にお応えできるかどうかを確かめることです」
「何様のつもりかは知らないが……お眼鏡にはかなったようだな?」
「はい」

 グリゼルは身体を徐々に霞へと変えていき、その場から姿を消した。
 声だけがホール全体に響く。

『我が君は貴方様が光神の力を手にすることを望んでおられます。その時、再び我らと相見えましょう』
「待ちやがれ! 我が君ってのはアーサーか!? アイツは何を考えてる!?」

 返事は無かった。気配も完全に消え、この場からグリゼルは完全に逃げ果せた。
 俺は己の無力さに憤った。力が使えなければ結局グリゼルを倒せなかった。何もできない、ただの半人半魔の男だった。

「くっそぉぉぉぉぉ!」

 怒りでどうにかなりそうで、ホールの床を殴り砕いた。

 結局相手の目的も分からず、ただいいように翻弄されただけ。
 これで何が守れる? 誰を守れると言うんだ!?

「……くそが。今度会ったらただじゃ済ませねぇ」

 ポーチから鞘を取り出して剣を腰に差す。

 この城を上っていけば光の試練の間に辿り着く。そこで試練を乗り越えてララとリインを助け出す。
 今はそれだけを考えよう。

 一度気持ちを落ち着かせ、今優先すべき事を考える。
 俺はホールを走り、先へと進んだ。

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