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ハローワールド1
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フッと意識が浮上して目覚めた時思ったのは、『あれ、なぜ起きたんだろう?』だった。
寝返りを打った時に触れたパジャマの感触は、敏感肌対策として着ていた綿のパジャマとは違っていて。
ひどい乾燥肌対策として、保湿のために塗っているボディクリームの匂いもしていない。
何がなんだか分からず上体を起こすと、そこは一風変わった空間だった。
1LDKひとつ分の部屋には、巨大なウィルトン織りの絨毯が隙間なく敷かれている。
自然光が入り込む窓のふちでは、色彩豊かなゴブラン織りカーテンが揺れている。
キングサイズのベッドにぴったりの大きさのフカフカの掛け布団は、おそらく羽毛が入っている。
まるでイギリスのドラマで見た、貴族の屋敷みたいだ。
着心地のいいパジャマは、非常にやわらかく艶やかな素材でできている。
きっとシルク製だ。
どうやら変わった夢を見ているようだ。
いつだったか見た、ドジっ子刑事のドラマを元にした夢らしい。
年下上司の机に押収したインコ置いて睨まれてたのは、めちゃくちゃ笑った。
カチャリ。
ドアノブを回す音とともに重厚なドアが開かれた。
黒に近いこげ茶色のドアから現れたのは、紺色の髪のスラッとした男性だった。
こんな変わった髪色の人は、ドラマにも原作にも出てこなかった。
「失礼します」
ターコイズブルーのパッチリとした目にパッツンボブカットのサラサラストレート。
男に美人と言うのはおかしいと思うが、仕事のできる美人といった容貌だ。
ただほうれい線がくっきりし始めているから、30代後半ぐらいとみた。
ボーッと男性を観察していると、なぜかおでこに手を当てられた。
熱を計るときにする、あの仕種だ。
それからパッツン美人さんの手は、首をギュッギュッと押し、胸部に当てられた。
おそらく扁桃腺と肺の状態を見てるのではないかと思う。
手元の紙に何やら書きこんで、ベルを鳴らした。
ハンドベルよりさらに小さい、手の平サイズのベルだ。
リリンという涼やかな音が響いた。
間髪を入れずにふたたびドアが開かれ、ガラガラとワゴンを押した人が入ってきた。
ナイチンゲールが頭にしていたヘッドドレスで茶髪をまとめた、つり目の子だ。
まだ小さく、児童労働に確実に引っかかる年齢の子だ。
ヤバい。
このパッツン美人さん、見かけによらずかなりヤバい人だ。
それとなく距離を取ろうとしたが、布団にはばまれた。
そうこうしているうちに、つり目くんがパッツン美人さんにマグカップをさしだした。
「どうぞ」
「ありがとう、下がっていいよ」
つり目くんは一礼して、ワゴンのガラガラ音とともに部屋の外へ去っていった。
パッツン美人さんに渡されたマグカップは、なぜか僕に出された。
「飲んでください」
茶色く濁ったマグカップの中身は、どう見ても美味しそうではない。
パッツン美人さんを見ると、こちらを真顔で観察していた。
「どうぞ」
有無を言わさず、この得体の知れない液体を飲ませようとするのは止めてくれ。
…。
どうせ夢なんだから、一気に飲んでみよう。
「う」
グイッと一口でいった泥水は、甘ったるいのに苦いというおかしな味だった。
漢方の甘草に似た、かなり独特の味だ。
甘草といえば、消炎や抗菌。
風邪の際に舐めるトローチに入っている成分だ。
パッツン美人さんの行動は、風邪をひいた患者に対する漢方医としては何らおかしくない行動だ。
飲みましたよ、とパッツン美人さんを見れば、鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔をしている。
あなたが飲めって言ったんですよ、この泥水もどき100ml。
「あの、私風邪なんですか?」
沈黙に耐えかねて、思わずたずねてしまった。
我ながら小心者だ。
「キミ、今何と?」
ちょうど聞き心地のいい高さの声は、すこし震えていた。
「私、風邪を引いたんでしょうか?」
そういえば、この声に違和感がある。
自分の声とは似ても似つかない、子供のような声だ。
「いえ、風邪ではありません。今ご家族を呼んで来ましょう」
「お願いします」
お願いします、と言った途端、心底困惑した表情になったパッツン美人さん。
彼は逃げるようにこの部屋から出て行った。
思わず『お願いします』って言っちゃったけど、この夢で家族って誰だ?
寝返りを打った時に触れたパジャマの感触は、敏感肌対策として着ていた綿のパジャマとは違っていて。
ひどい乾燥肌対策として、保湿のために塗っているボディクリームの匂いもしていない。
何がなんだか分からず上体を起こすと、そこは一風変わった空間だった。
1LDKひとつ分の部屋には、巨大なウィルトン織りの絨毯が隙間なく敷かれている。
自然光が入り込む窓のふちでは、色彩豊かなゴブラン織りカーテンが揺れている。
キングサイズのベッドにぴったりの大きさのフカフカの掛け布団は、おそらく羽毛が入っている。
まるでイギリスのドラマで見た、貴族の屋敷みたいだ。
着心地のいいパジャマは、非常にやわらかく艶やかな素材でできている。
きっとシルク製だ。
どうやら変わった夢を見ているようだ。
いつだったか見た、ドジっ子刑事のドラマを元にした夢らしい。
年下上司の机に押収したインコ置いて睨まれてたのは、めちゃくちゃ笑った。
カチャリ。
ドアノブを回す音とともに重厚なドアが開かれた。
黒に近いこげ茶色のドアから現れたのは、紺色の髪のスラッとした男性だった。
こんな変わった髪色の人は、ドラマにも原作にも出てこなかった。
「失礼します」
ターコイズブルーのパッチリとした目にパッツンボブカットのサラサラストレート。
男に美人と言うのはおかしいと思うが、仕事のできる美人といった容貌だ。
ただほうれい線がくっきりし始めているから、30代後半ぐらいとみた。
ボーッと男性を観察していると、なぜかおでこに手を当てられた。
熱を計るときにする、あの仕種だ。
それからパッツン美人さんの手は、首をギュッギュッと押し、胸部に当てられた。
おそらく扁桃腺と肺の状態を見てるのではないかと思う。
手元の紙に何やら書きこんで、ベルを鳴らした。
ハンドベルよりさらに小さい、手の平サイズのベルだ。
リリンという涼やかな音が響いた。
間髪を入れずにふたたびドアが開かれ、ガラガラとワゴンを押した人が入ってきた。
ナイチンゲールが頭にしていたヘッドドレスで茶髪をまとめた、つり目の子だ。
まだ小さく、児童労働に確実に引っかかる年齢の子だ。
ヤバい。
このパッツン美人さん、見かけによらずかなりヤバい人だ。
それとなく距離を取ろうとしたが、布団にはばまれた。
そうこうしているうちに、つり目くんがパッツン美人さんにマグカップをさしだした。
「どうぞ」
「ありがとう、下がっていいよ」
つり目くんは一礼して、ワゴンのガラガラ音とともに部屋の外へ去っていった。
パッツン美人さんに渡されたマグカップは、なぜか僕に出された。
「飲んでください」
茶色く濁ったマグカップの中身は、どう見ても美味しそうではない。
パッツン美人さんを見ると、こちらを真顔で観察していた。
「どうぞ」
有無を言わさず、この得体の知れない液体を飲ませようとするのは止めてくれ。
…。
どうせ夢なんだから、一気に飲んでみよう。
「う」
グイッと一口でいった泥水は、甘ったるいのに苦いというおかしな味だった。
漢方の甘草に似た、かなり独特の味だ。
甘草といえば、消炎や抗菌。
風邪の際に舐めるトローチに入っている成分だ。
パッツン美人さんの行動は、風邪をひいた患者に対する漢方医としては何らおかしくない行動だ。
飲みましたよ、とパッツン美人さんを見れば、鳩が豆鉄砲をくらったかのような顔をしている。
あなたが飲めって言ったんですよ、この泥水もどき100ml。
「あの、私風邪なんですか?」
沈黙に耐えかねて、思わずたずねてしまった。
我ながら小心者だ。
「キミ、今何と?」
ちょうど聞き心地のいい高さの声は、すこし震えていた。
「私、風邪を引いたんでしょうか?」
そういえば、この声に違和感がある。
自分の声とは似ても似つかない、子供のような声だ。
「いえ、風邪ではありません。今ご家族を呼んで来ましょう」
「お願いします」
お願いします、と言った途端、心底困惑した表情になったパッツン美人さん。
彼は逃げるようにこの部屋から出て行った。
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