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嘱目するスフェーン
第2話 宵闇の訪問者
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公共機関を使いたかったが、店から自宅付近までの足はなかった。一時間ほどの道のりを徒歩で帰った。住宅街の中に突如として現れる門扉を抜け、ジャコビアン様式の屋敷が見えてきた。夜も深くなっていた。しかし、一階の応接室に明かりが灯っている。夜中に来客だろうか。急ぎ足で玄関をくぐる。見慣れない大きなレザーブーツが並んでいる。
ドアをノックしてから、開けると、そこには、ひすいさんと大柄な男性、土生津が、眼球がくり抜かれた遺体をローテーブルに乗せながら会話をしていた。
「遅かったな。ユーイチ。一杯引っかけてきているのだろう。今日はもう風呂入って寝な」
「異常な死体を挟みながら会話しているところを見せたうえで寝ろっていうのですか。土生津さんもこんな変な時間に、一人で、屋敷に向かうのも、考えものだと思います」
「言うようになったな。少年。死にたくて殺したがっていた、安定しない瑰玉が今じゃ減らず口を叩けるまでになったか」
「・・・・・・。飲み物を取ってきます。そうしたらオレにも詳しい話を聞かせていただけますか」
「お願いしようかな。台所にカモミールがあったはずだからそれを入れてきてほしい」
洋館を抜け、和館の二階へ上がる。この屋敷ができたばかりの時には、洋館にもキッチンがあったらしいが、現在はひすいさんの道具置き場になっている。
お湯が沸くまでの間、台所の椅子に座り、ガスの炎を眺めていた。
土生津さんは、東京警備局の局長だ。そのような立場の人が、夜中に死体を持ってやってきた。眼がくりぬかれていたことが原因なのだろうか。思考の海に沈みそうになっていたところで、薬缶が鳴った。火を止めて、3人分のカップを用意すると、オレは台所を出て、二人の待つ、応接室に向かった。
応接室に戻り、ハーブティーを差し出す。死体に湯気がかかっているが、気にしないことにした。
「ユーイチが戻ってきたので最初から話そう。日没後に私の屋敷に来た理由から述べてもらおうか」
「丸の内の屯所にボストンバッグが届けられたのだ。今日の昼過ぎ、確か13時頃だったかな。あの辺りは劇場やら社屋やらが多いからな。忘れものだろうと思って中身を検めたところ、この遺体が入っていたのだ」
年齢は20代、女性だろうか。死体特有の腐敗臭も無ければ、劣化も無かった。
「この遺体の瑰玉は」
「丁寧に抜き取られていた。それだけではない。眼球と脳もきれいに抜き取られた状態だった」
瑰玉、体内に張り巡らされた咏回路を起動させ、奏術を起こす、魂の結晶。その人が経験する全てを記録しているものでもある、とひすいさんは言っていた。それが無い死体では身元を確認するのは難しいだろう。
「なぜ、ひすいさんにこれを持ってくる必要があったのです。瑰玉が無い死体は東京じゃ珍しくないでしょう。それぐらいでしたら、東京警備局の本部に持ち帰り、4番隊の衛生部門に確認と、咏回路の抜き取りをして、売ればよかったのではないでしょうか。それとも、これは、特別な人の死体だったのですか」
「俺も当初はその予定だった、眼球と脳がない、一向に腐敗しない遺体。単に流すには気になる要素が多すぎたのでね。確認のために持ってきたのだ」
奏術を用いた殺人だろう。腐敗が止まる点を考慮すると、氷雪系の術だろうか。それとも物体の停止とか。腑に落ちていない様子を見かねたひすいが説明の補足をした。
「郷川にはなかったかもしれないが、東京で安全を保障されたければどこかの家に所属するか、東京警備局にみかじめ料を払って護衛してもらう。そのどれにも所属せず、剣客として生きるかだ。手の込んだ殺人を追う義理なんてものは、東京警備局には無いのだよ。この男は趣味でこの死体を持ってきて、謎を解明してほしいとのことだ」
土生津のほうを見る。最初に出会った時も、持っていた刀を渡したりしてくれていた。
「ひすいさんに頼むってことはそれなりの岩石か瑰玉を持ってきたってことですか」
「そうだ。今回は石ではなく宝飾品に該当するものだが」
そういって土生津はポケットから、ブローチ用のケースを取り出す。中には、メドゥーサのカメオのブローチが入っていた。ひすいの目の色が変わる。ひすいはポケットから手袋を取り出し、隈なく観察した。
「ドイツ製で、作者の名前は……。作成は20世紀頭か。頭部に翼をもつメドゥーサは、古代モチーフのリスペクトかな。雰囲気はロドス島のものに似ているが。いいね。実にいい品じゃないか。この死体は受け取ろう。このカメオを対価として、何故、これが死体になったのかを明らかにしようじゃないか」
頼む、と、言って土生津は頭を下げた。ひすいさんと土生津の力関係はよくわからなかった。
夜も深くなってきたので、土生津は帰っていった。
ドアをノックしてから、開けると、そこには、ひすいさんと大柄な男性、土生津が、眼球がくり抜かれた遺体をローテーブルに乗せながら会話をしていた。
「遅かったな。ユーイチ。一杯引っかけてきているのだろう。今日はもう風呂入って寝な」
「異常な死体を挟みながら会話しているところを見せたうえで寝ろっていうのですか。土生津さんもこんな変な時間に、一人で、屋敷に向かうのも、考えものだと思います」
「言うようになったな。少年。死にたくて殺したがっていた、安定しない瑰玉が今じゃ減らず口を叩けるまでになったか」
「・・・・・・。飲み物を取ってきます。そうしたらオレにも詳しい話を聞かせていただけますか」
「お願いしようかな。台所にカモミールがあったはずだからそれを入れてきてほしい」
洋館を抜け、和館の二階へ上がる。この屋敷ができたばかりの時には、洋館にもキッチンがあったらしいが、現在はひすいさんの道具置き場になっている。
お湯が沸くまでの間、台所の椅子に座り、ガスの炎を眺めていた。
土生津さんは、東京警備局の局長だ。そのような立場の人が、夜中に死体を持ってやってきた。眼がくりぬかれていたことが原因なのだろうか。思考の海に沈みそうになっていたところで、薬缶が鳴った。火を止めて、3人分のカップを用意すると、オレは台所を出て、二人の待つ、応接室に向かった。
応接室に戻り、ハーブティーを差し出す。死体に湯気がかかっているが、気にしないことにした。
「ユーイチが戻ってきたので最初から話そう。日没後に私の屋敷に来た理由から述べてもらおうか」
「丸の内の屯所にボストンバッグが届けられたのだ。今日の昼過ぎ、確か13時頃だったかな。あの辺りは劇場やら社屋やらが多いからな。忘れものだろうと思って中身を検めたところ、この遺体が入っていたのだ」
年齢は20代、女性だろうか。死体特有の腐敗臭も無ければ、劣化も無かった。
「この遺体の瑰玉は」
「丁寧に抜き取られていた。それだけではない。眼球と脳もきれいに抜き取られた状態だった」
瑰玉、体内に張り巡らされた咏回路を起動させ、奏術を起こす、魂の結晶。その人が経験する全てを記録しているものでもある、とひすいさんは言っていた。それが無い死体では身元を確認するのは難しいだろう。
「なぜ、ひすいさんにこれを持ってくる必要があったのです。瑰玉が無い死体は東京じゃ珍しくないでしょう。それぐらいでしたら、東京警備局の本部に持ち帰り、4番隊の衛生部門に確認と、咏回路の抜き取りをして、売ればよかったのではないでしょうか。それとも、これは、特別な人の死体だったのですか」
「俺も当初はその予定だった、眼球と脳がない、一向に腐敗しない遺体。単に流すには気になる要素が多すぎたのでね。確認のために持ってきたのだ」
奏術を用いた殺人だろう。腐敗が止まる点を考慮すると、氷雪系の術だろうか。それとも物体の停止とか。腑に落ちていない様子を見かねたひすいが説明の補足をした。
「郷川にはなかったかもしれないが、東京で安全を保障されたければどこかの家に所属するか、東京警備局にみかじめ料を払って護衛してもらう。そのどれにも所属せず、剣客として生きるかだ。手の込んだ殺人を追う義理なんてものは、東京警備局には無いのだよ。この男は趣味でこの死体を持ってきて、謎を解明してほしいとのことだ」
土生津のほうを見る。最初に出会った時も、持っていた刀を渡したりしてくれていた。
「ひすいさんに頼むってことはそれなりの岩石か瑰玉を持ってきたってことですか」
「そうだ。今回は石ではなく宝飾品に該当するものだが」
そういって土生津はポケットから、ブローチ用のケースを取り出す。中には、メドゥーサのカメオのブローチが入っていた。ひすいの目の色が変わる。ひすいはポケットから手袋を取り出し、隈なく観察した。
「ドイツ製で、作者の名前は……。作成は20世紀頭か。頭部に翼をもつメドゥーサは、古代モチーフのリスペクトかな。雰囲気はロドス島のものに似ているが。いいね。実にいい品じゃないか。この死体は受け取ろう。このカメオを対価として、何故、これが死体になったのかを明らかにしようじゃないか」
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夜も深くなってきたので、土生津は帰っていった。
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