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episode 12
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タカシさんと神崎さんとの会話。
そこでタカシさんが口にした、「コードネーム・インデ」だの「リクエストナンバー」だの。
俺達には何を意味しているのかサッパリ分からない内容だが、彼らからすると、言葉を失う程の威力を持つ言葉だったらしい。
という事は。
タカシさんが高瀬さんによって派遣された場所というのは、軍に関係する場所だと言って間違いない。
車の中で洋一郎がタカシさんを『スナイパー』だと言った時、俺は高瀬さん専用のボディガードか、はたまた政府からの指示で隠密行動をしている暗殺者なんじゃないかという考えが頭を過っていた。
今思えば、映画や漫画の見過ぎかよって話しだけど、スナイパーっていう単語自体、一般的な生活を送っていたら見る事も聞く事もない。
そんな中で思いつくのが、眉毛が凛々しく、目力が半端ない超A級スナイパーが出て来る伝説の漫画くらいだっていうのは仕方がない……と思う。
まさか、日本国防軍に関係しているだなんて誰が想像出来ただろうか?
いや。
全く表情を変えない洋一郎の顔を見れば、コイツは既に車の中で彼がスパイとして侵入していた場所がソコだと分かっていたようだが。
たった数秒。
いや、一秒にも満たなかったのかもしれない。
思考を巡らせたほんの僅かな間に、タカシさんは素早く行動を起こしていた。
面を食らって対応に困っている二人の軍人をよそに、彼は俺達から少し離れた所に腹ばいになり、ライフルを構えた。
銃口の先は大東さん。
白目と歯がやけに白く感じるのは、顔面を真っ赤に染めているからだろう。
遠目でも分かる不気味な様相に俺達全員が言葉を失った。
彼が『人間』なのか、そうではないのか。
誰の目にも明らかである。
誰かが緊張のあまり、大きく喉を鳴らしたタイミングで、奴は俺達目がけて寄生を上げて大地を蹴った。
ライフルが自分に向けられているのを知ってか、奴は左右に体を揺さぶりながら猛スピードでこちらに向かって来る。
事態が飲み込めていないとはいえ、毎日のように訓練を積んで来た二人も、大東さんの姿をしているとはいえ、アレは人間ではないと感じ取ったのか、神崎さんは小型拳銃を構え、荒川さんはライフルを構える。
三人が三に共に、素早い動きの獣を狙う。
狙いを定め、乾いた発砲音を響かせる。
銃口から発せられる弾は、標的に当たる事なく土を掠めて小さな砂埃を上げる。
弾の道筋が見えているように、楽し気に避けながらグングン近付く大東さん……いいや、大東モドキは奇妙な鳴き声を発している。
「クソッ!」
連続で引き金を引いても当たるどころか、弾が体を掠める事すら出来ない神崎さんが、焦れたように舌打ちを繰り返す。
未だ、狙いを定めたまま引き金を一度も引いていないタカシさんは、常に何かのタイミングを待っているようで、一ミリも動くことなく、瞬き一つせずに『動く的』に集中していた。
とはいえ、危険はすぐ目の前に迫っている。
後ろにいた数名のバケモノ達は手榴弾によって、木っ端みじんにされた筈とはいえ、まだまだ何が出て来るか分からない。
一人で勝手に逃げるような馬鹿な真似をする人間は一人もいないが、米澤さんや松山さんは、ちゃっかり本郷さんを盾にして身を縮め、大介も唸るボンに抱き着き、小刻みに震えている。
そんな大介の肩を支え、立膝をついたまま冷静に事の成り行きを見守っている洋一郎や、周りの状況を把握しようとあちこちに視線を走らせている俺達の方が、高校生というより、普通の人間として、感覚がおかしいのかもしれない。
まぁ、俺の場合はこういった危機的状況に陥った時こそ、冷静になるべきだと教え込まれてきたのだから、ある意味、癖なのだが。
自分達の置かれている状況やそれぞれ皆がどういう態度でいるのか、そして周りに何かしら動きは無いかと目をあちこちに光らせていると、一瞬、建物の方で黒い影が一瞬横切った気がした。
そこでタカシさんが口にした、「コードネーム・インデ」だの「リクエストナンバー」だの。
俺達には何を意味しているのかサッパリ分からない内容だが、彼らからすると、言葉を失う程の威力を持つ言葉だったらしい。
という事は。
タカシさんが高瀬さんによって派遣された場所というのは、軍に関係する場所だと言って間違いない。
車の中で洋一郎がタカシさんを『スナイパー』だと言った時、俺は高瀬さん専用のボディガードか、はたまた政府からの指示で隠密行動をしている暗殺者なんじゃないかという考えが頭を過っていた。
今思えば、映画や漫画の見過ぎかよって話しだけど、スナイパーっていう単語自体、一般的な生活を送っていたら見る事も聞く事もない。
そんな中で思いつくのが、眉毛が凛々しく、目力が半端ない超A級スナイパーが出て来る伝説の漫画くらいだっていうのは仕方がない……と思う。
まさか、日本国防軍に関係しているだなんて誰が想像出来ただろうか?
いや。
全く表情を変えない洋一郎の顔を見れば、コイツは既に車の中で彼がスパイとして侵入していた場所がソコだと分かっていたようだが。
たった数秒。
いや、一秒にも満たなかったのかもしれない。
思考を巡らせたほんの僅かな間に、タカシさんは素早く行動を起こしていた。
面を食らって対応に困っている二人の軍人をよそに、彼は俺達から少し離れた所に腹ばいになり、ライフルを構えた。
銃口の先は大東さん。
白目と歯がやけに白く感じるのは、顔面を真っ赤に染めているからだろう。
遠目でも分かる不気味な様相に俺達全員が言葉を失った。
彼が『人間』なのか、そうではないのか。
誰の目にも明らかである。
誰かが緊張のあまり、大きく喉を鳴らしたタイミングで、奴は俺達目がけて寄生を上げて大地を蹴った。
ライフルが自分に向けられているのを知ってか、奴は左右に体を揺さぶりながら猛スピードでこちらに向かって来る。
事態が飲み込めていないとはいえ、毎日のように訓練を積んで来た二人も、大東さんの姿をしているとはいえ、アレは人間ではないと感じ取ったのか、神崎さんは小型拳銃を構え、荒川さんはライフルを構える。
三人が三に共に、素早い動きの獣を狙う。
狙いを定め、乾いた発砲音を響かせる。
銃口から発せられる弾は、標的に当たる事なく土を掠めて小さな砂埃を上げる。
弾の道筋が見えているように、楽し気に避けながらグングン近付く大東さん……いいや、大東モドキは奇妙な鳴き声を発している。
「クソッ!」
連続で引き金を引いても当たるどころか、弾が体を掠める事すら出来ない神崎さんが、焦れたように舌打ちを繰り返す。
未だ、狙いを定めたまま引き金を一度も引いていないタカシさんは、常に何かのタイミングを待っているようで、一ミリも動くことなく、瞬き一つせずに『動く的』に集中していた。
とはいえ、危険はすぐ目の前に迫っている。
後ろにいた数名のバケモノ達は手榴弾によって、木っ端みじんにされた筈とはいえ、まだまだ何が出て来るか分からない。
一人で勝手に逃げるような馬鹿な真似をする人間は一人もいないが、米澤さんや松山さんは、ちゃっかり本郷さんを盾にして身を縮め、大介も唸るボンに抱き着き、小刻みに震えている。
そんな大介の肩を支え、立膝をついたまま冷静に事の成り行きを見守っている洋一郎や、周りの状況を把握しようとあちこちに視線を走らせている俺達の方が、高校生というより、普通の人間として、感覚がおかしいのかもしれない。
まぁ、俺の場合はこういった危機的状況に陥った時こそ、冷静になるべきだと教え込まれてきたのだから、ある意味、癖なのだが。
自分達の置かれている状況やそれぞれ皆がどういう態度でいるのか、そして周りに何かしら動きは無いかと目をあちこちに光らせていると、一瞬、建物の方で黒い影が一瞬横切った気がした。
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