深淵に囚われて

朝顔

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6、願望

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 上京して初めてできた恋人との別れ際、実は既婚者だったと告白された。
 その男とは近所のカフェで知り合って仲良くなった。
 見た目は優しそうで、ごく普通の会社勤めの人だった。
 右も左も分からない俺に親切にしてくれて、その男の部屋に寝泊まりするようになって、俺はすぐに夢中になった。
 家に入れてくれたことで、まるで自分が妻になったかのように舞い上がって、男に尽くして全てを捧げた。
 しかしそれは長くは続かなかった。
 男には本当の妻と子供がいた。
 俺が聞かなかったので、教えなかったというひどい言い訳をされた。
 単身赴任で別れて暮らしていて、出向期間が終わったとかで戻ることになったようだった。
 今まで楽しかったよと一方的に終止符を打たれた。

 好きで好きで忘れられなくて、男の地元まで追いかけて行って、会社の前で待ち伏せしてしまった。
 今思えばおかしくなっていたのだと思う。

 俺が話しかける前に、会社から出てきた男は迎えに来た車に乗ってしまった。
 運転席には女性と後ろの席には子供が乗っていた。
 窓越しに楽しそうに笑い合う親子の姿を見たら、その場に崩れて動けなくなった。

 もう、恋愛なんて嫌だ。
 こんな風に二度と傷つきたくないと思った。

 堀川は、恋人でも何でもない。
 ただメッセージのやり取りをしていただけ。
 でも少しだけ惹かれていたような気がする。

 だから俺はまた、同じ過ちを繰り返すかもしれなかった。
 そんなアホみたいな自分に腹が立って仕方がなかった。





 缶に口を付けて一気に傾けた。
 流れてきた液体をごくりと飲み込むと口の中が一気にアルコールの匂いに包まれて、喉が焼けるほど熱かった。

「ハル兄、大丈夫なの? お酒弱いんじゃなかった?」

「よく知ってるな、理玖」

「ほら、葬儀の食事の時、ビールを勧められて一口で真っ赤になってたから……」

 理玖の言う通りだ。
 酒にはめっぽう弱くて、すぐに陽気になってビール一缶で記憶を無くすくらいベロベロになってしまう。
 大学時代は安上がりでいいなんて揶揄われてくらいだ。
 理玖の前で醜態を晒すなんてどうかと思ったが、家だからその場に転がしてもらえばいいかと考えた。

 理玖とモールに出かけて、妻らしきお腹の大きな女性と歩く堀川を目撃してしまい、ショックで買い物をやめて帰ることになった。
 帰りがけにコンビニ寄って缶チューハイに手を出した。
 普段飲まない酒を口につけるほど、今日の出来事を自分の中で上手く昇華することができなかった。

 先ほどから何件か堀川からメッセージが入っていて、その画面を見るのも嫌だった。
 明日になれば大人の対応ができる。
 ただ今日だけ、自分の愚かな想いを酒と一緒に飲み込んで忘れてしまいたかった。



 ハイペースで一缶飲んで、飲み終わった缶を机の上に転がしたら、理玖がさっと拾い上げた。

「これ、アルコール8パーセントだって。飲めない人からしたら、けっこう高いんじゃない?」

「ほーんと、理玖はなんでも知ってるなぁ。ちょっと、心臓がバクバクしてるけど、だいじょーぶ」

「もー、ほら、掴まって。椅子から落ちそうだからソファーに行くよ」

 理玖はベロベロになって机に突っ伏してケラケラ笑っている俺を抱き起こして、ソファーまで運んでくれた。
 意識がトロンとしてもう頭が働かない。
 もう自分が何をしているのかもよく分からなくて、ふわふわとしていい気分だった。


「ここでいーよ。りくは……じぶんのへやに、いってやすんで……ね……」

「ハル兄……? あらら、飲みすぎちゃって……可哀想に……」

「うぅーーん、りくぅ……」

「へぇ……酔うと甘えん坊になるんだ。可愛い……」

 ぴちゃぴちゃと音がして唇が柔らかくてくすぐったくなった。

「……に、……てるの?」

「ハル兄の唇を舐めたんだよ。あんまり可愛いから」

「こ……れ、……いつも…の、ゆめ?」

「……そうだよ。これは夢だよ。夢だから素直になっていいんだよ。気持ちいいこと、好きでしょう?」

「んっ……す……き」

 うっすらと目を開けると、いつも夢の中で俺をトロけさせてくる理玖がいた。
 ああ、俺は寝てしまったのかと思った。
 夢ならいいかと、いつも築いている壁を自分からドンドンと壊していった。

「りく、りく、さわって。いつもみたいに……」

「ふふっ、ハル兄がこんなに求めてくれるなんて嬉しいよ」

 いつの間にか、俺の下着は下ろされていて、俺のモノを理玖は大きな手でガッシリと掴んだ。
 そして鈴口をぎゅっと締めてきた。

「あああっ、いいっ、強くして。おちんちん、気持ちいいよぉ」

「いいね、前からちょっと喘いでたけど、やっぱり、声出してくれるのはクるなぁ」

 ぬるっとした温かさを感じた。
 理玖が俺の口に咥えて舐め始めたのだ。

「あっ、ハァハァ、んんっ……」

 気持ちよくてたまらない、アソコは大きくなってガチガチになっていた。
 それは理玖も同じのようで、俺に跨ってフェラをする理玖の下半身がちょうど俺の目の前にあった。
 まだズボンを履いているが、パンパンに膨らんで窮屈そうだった。
 俺はごくりと唾を飲み込んで理玖のズボンのベルトを外してチャックを下ろした。

「ハル兄? 嘘……、ずいぶん嬉しいことしてくれるね」

 下着をズラすと大きくなった理玖の欲望がポロンと飛び出した。俺は舌にたっぷりと唾をのせて理玖の欲望をパクりと咥えた。

 フェラは得意だった。
 いつも男達を秒でイカせる自信もあって、夢中になって舌でゴリゴリと擦りながら、吸い付いていると理玖はぶるりと震えたあと、待ったと言って俺の頭を掴んできた。

「これは予想外、ここはやっぱり経験の差がでるね。さすがに先にイくのはねぇ。俺はイカせたい方だから」

 理玖のを咥えていたかったのに、すぼんっと抜き取られてしまった。

 代わりに理玖の舌が入ってきて、濃厚なキスが始まった。

「んんっ……ふっ……ぁ……あ、あ、んんっ」

 俺の口の中をぐるぐると舌でかき回しながら、理玖は後ろの孔も弄ってきた。
 俺の先走りで指を濡らして、それを塗り込むように孔の中へ入れて二本の指を使って広げてきた。

 そこは久しぶりだから痛みがあるかと思ったが、理玖の指をすっぽりと飲み込んだ。

「ぜ……んぜ……いたくな……りくぅ、きもち……いいっ」

「そりゃそうだよ。いつもここは特別時間をかけて弄ってあげてるでしょう」

「あー……そうか、……んっああっ、そこぉ!」

「ここ、好きだよね。こりこりすると、すごい締まるからよく分かるよ。ああ、いい顔……、トロんとして、真っ赤だよ。ほんと、どこまで可愛いの……」

 俺の顔を触る理玖の手は濡れてテカテカと光っていて、卑猥な光景にゾクゾクと興奮が高まっていく、夢の中の理玖はどこまでも俺の好みにピッタリで嬉しくてたまらない。

 義理とはいえ兄弟でこんな事、普段の俺なら絶対にできないと思うけど、夢の中なら何も縛られることなく自分を解放できた。

「りく……理玖、きて……」

「ハル兄……」

「俺の……おくに、理玖が……ほしい」

 理玖の首に腕を絡ませて、足を持ち上げて理玖の腰を挟んだ。
 慣れた行為ではあったが、背徳感がたまらない。頭が熱で支配されて、もう、欲望のままに理玖を欲していた。

「ハル兄……やっと、やっと言ってくれたね。正気じゃなくてもいい……このために、ハル兄を手に入れるために……俺は……」

 ごくりと喉を鳴らした理玖は俺の腰をぐっと持ち上げて、濡れそぼった後ろに自身を当てがった。

「ああっああ……りくっ、りく……はいって……おおきっ……」

 ぐりぐりと入口を擦った後、ねじ込むように理玖の大きな欲望が後ろに挿入ってきた。

「はぁ……は……ぁ……たまらないっ、なんて孔なんだ。絡みついてくるよ、これを今まで他のやつが味わっていたなんて……嫉妬でおかしくなりそう」

「んっ……ぁ……ふ……ふかいの、すきっ……」

「ははっ、そんなに足を絡ませて……本当にハル兄は淫乱だな」

「ああっ、もっと、もっと言って……」

 軽く罵られるのがたまらない。
 ひどくされて優しくされると、自分がちゃんと生きているのだと実感できる。
 今までの男達には面倒だと言われたのに、理玖は丁寧に俺を扱いながら、追い詰めるように攻めてくれた。
 それが何より嬉しく感じてしまう。

「ほら、ハル兄の中に挿入ってるのは誰?」

「んーっ、り……く、りく……あっあっ」

 ぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てながら、理玖が腰を使って具合を確かめるように抜き挿しを始めた。

「ん、いい子だね。でもこれは聞いておかないと、ハル兄は堀川先生とこうしたかったの?」

「ああっっ!」

 鋭い目をしながら、理玖が俺のことを一気に深く貫いてきた。

「ふっ……ぁぁっ、ちがっ……気になってた……け」

「へぇ……、ハル兄はちょっと目を離すと、他の男に食べられようとするからなぁ……」

「りくっ、りく、ぎゅっとして。ぎゅとしながらうごくのすき」

「……もー、どれだけ俺を嫉妬させるんだよ。ほら、こっち、体上げて」

 繋がったまま俺は理玖の首にしがみついた。
 こうやって密着する体位が好きだが、理玖の体温は俺よりずっと熱くて、くっ付いているだけで気持ち良くなった。

「腰揺れてるよ、エッチだね。そんなに俺のが好きなの?」

「んっ……すき、りくのおおきいの……すき」

「じゃあもっと奥までイってみる?」

「ううっ、あっあああっっーーーー!」

 俺の腰を持った理玖は、体重をかけて深く貫いてきた。
 今まで経験したことのないくらい、奥の奥まで理玖が挿入ってきて、同時に俺はイってしまった。
 びゅうっと勢いよく白濁を飛ばして理玖の腹を濡らした。

「たくさん出たね。じゃあ、俺もそろそろ……んっ……っっ」

「んあっっ、あっ…あ……ぁぁっ……」

 今までゆっくりと動かしていた理玖が、一転して激しく俺を揺さぶりながらピストンを始めた。

 バシバシという肉のぶつかる音と、耳元で理玖の吐く息の音が聞こえる。
 時々甘く、好きだよと聞こえて、ああ、なんて夢なんだと切なくなる。

 理玖がそう言ってくれたことはある。
 かつてあの家で暮らしていた時、理玖は俺に抱きついていつも好きだよと言ってくれた。

 幼い弟として兄を想う気持ちだと、その時はなにも考えずにありがとう、嬉しいよと言って笑っていた。

 再び理玖の口からその言葉を聞いた今、体中から溢れるのは嬉しいという気持ちだった。
 こうやって抱かれて好きだと言われたら、俺はひとりの男して理玖を想っていたのだと分かってしまった。

 堀川に惹かれていたのではなく、自分の想いが後ろめたくて、優しくしてくれそうな存在に逃げようとしていた。

 そうだ
 今分かった。

 俺はひどくされたかったわけじゃない。
 優しくして欲しかったんだ。

 息が詰まるくらい、優しくして欲しかった。

 祖父母は世話を押し付けたと、いつも母の悪口を言って、俺のことを迷惑がっていた。
 週末母の家に行っても、夜の仕事の母は寝てばかりいて、起きたらデートだと言って出かけてしまい、夜はひとりで寝ていた。
 そんな日々の中で大きくなったから、心はすり減っていた。

 俺はずっと、理玖は病弱で外に遊びに行けなくて可哀想だから、自分は遊び相手になっていたと思っていた。

 でも思い出したのは、幼い理玖に抱きついて泣いている俺の姿だ。
 理玖は大丈夫、大丈夫だと言って優しく頭を撫でてくれた。

 どうして忘れていたんだろう……
 もしかしたら、それがイケナイことだと、義父に知られたらきっと怒られると思って、記憶の隅に追いやっていた。

 それを今やっと思い出した。

 俺に初めて優しくしてくれたのは理玖だった。
 その優しさをなくしてしまい、同じ温かさをずっと求めていた。

 唇に柔らかい感触があった。
 理玖がキスをしてくれた。
 今までで一番優しいキスに感じた。

 悪夢、なんかじゃない。
 これは俺の願望だ。
 こんな風に理玖に愛されたいという俺の願い。

 そして体の奥に熱い飛沫を感じながら、俺はもっと深い夢の中へ落ちていった。





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