あなたに溺れて恋をする

朝顔

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あなたに溺れて恋をする

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 きらびやかなシャンデリアの明かりに照らされて、ホールに集まった人々は誰もが着飾っていた。男も女も今日のパーティーの主役の座を競っているのだ。

 その中でただ一人、賑やかな場所を離れて外を眺めている女がいた。
 アイスブルーの憂いをおびた瞳はキラキラと輝いている。頬と唇はほんのりと赤く色づいていて、ハニーブロンドの長い髪は緩くまとめていて、細いうなじが誘うように見え隠れしている。
 その女の名前はセリーヌ、誰が見てもため息が出るような美しい女だが、顔は下を向いていて、目立たないように身を隠しているように見えた。

 しかし、その匂いたつような美貌に引き寄せられて、また男が一人セリーヌの後ろに立った。
 馴れ馴れしくセリーヌの腰に触れて、男は自分をアピールした。

 水色のドレスを翻して振り向いたセリーヌを見て、その美しさに男は興奮したように身を震わせた。
 しかし、その後に続く言葉を聞いて男の熱は一瞬で凍りついた。

「気安く触るんじゃねーよ、クソヤロウ!」

 見目麗しい令嬢から発せられたとは思えない言葉に男は固まってしまう。だめ押しでギリリと睨み付けられて、青くなった男は後退りして逃げていってしまった。

「クソっ!なんで俺がこんな目に…」

 周りに誰もいないのを確認してから、セリーヌの口からは悔しさがぽろりとこぼれた。ドレスを握りしめて受け入れ難い現実に唇を噛んで耐えていた。

 空に広がる暗雲を睨みつけながら、セリーヌ・フロランスはかつての自分を思い出して現実から逃げるように目を伏せた。何一つ受け入れられなくてこのまま、消えてしまいたかった。


 □□


 全ては一月前にさかのぼる。
 子爵家の令嬢であるセリーヌは、突然かつて自分が異世界で生きてきた記憶を思い出した。同時にセリーヌとしてこの世で生きてきたことはぼんやりしか思い出せなくなり、完全に心はかつての自分、ユウジになってしまったのである。

 セリーヌは女だが、ユウジは男だった。
 幼い頃から女にモテて、そのまま天職のホストとなり数々の伝説を作った。
 ユウジが声をかければ、女は腰がくだけてしまい、目を見れば心まで奪われると言われたほどだ。
 一晩に大金を稼ぎ、一晩で何人もの女を抱いて、ヤりたい放題にヤってきた。
 だが、伝説の男にも終わりは突然やってきた。
 仕事終わりの明け方に店を出ると、そこで昔に遊んだ女が待っていた。
 その明らかに異様な雰囲気にユウジは逃げようとしたが、覚悟を決めていた女は早かった。
 気がつくと背中から刃物で刺されて、うつ伏せに地面に崩れ落ちた。

 降りしきる雨の中、硬いコンクリートに飲まれるようにユウジの意識は消えていった。
 華々しい人生の終わりはあっけなくて冷たかった。

 終わりを迎えたはずの人生だったが、神様がなんの気を利かせたのか、ユウジは異世界でセリーヌとして生まれ変わった。
 そして、気づかなくていいのに、十九歳というよく分からない人生の途中でユウジとして目覚めてしまったのだった。


 どうやら中世くらいのヨーロッパ風の世界で、セリーヌは貴族の令嬢として生きていた。
 鏡を覗いた時は、その美しさに声が出たほどだった。
 さぞかしモテはやされて生きてきたかと思えば、セリーヌはつい最近まで田舎の孤児院で手伝いなどをしてひっそりと暮らしていたらしい。
 それが、両親が突然事故で亡くなり、子供のいなかった伯父のフロランス子爵家に引き取られた。
 すでに十九を迎えていて、わざわざ引き取る必要もない年齢であったが、セリーヌにはまだ十歳の妹のロラがいて、ロラがどうしても一緒に行きたいといって離れなかったので、二人して子爵家に入ることになった。

 子爵令嬢となったセリーヌだったが、子爵はすぐにセリーヌの結婚の心配をし始めた。
 ロラはいいとしても、セリーヌはすでに社交界では遅咲きの年齢になっていてた。毎年デビューの令嬢達に注目が集まる中、これでは行き遅れだとうるさく言い始めた。

 最初は大きなお世話だと、何度もパーティーの誘いを遠回しに断ってきた。だが伯父夫婦は良い人達だし、妹と一緒に引き取ってもらった手前、断り続けるのも気が引けてしまった。
 分かったと言ったのが最後、伯父は大喜びでパーティーの招待状を集め始めた。

 一度だけと言って義理で参加するつもりが、どんどんと予定を入れられてしまい、断れず参加することなってしまったのだった。

 しかし令嬢として着飾っても心はユウジのままなのだ。
 なにが楽しくて男と過ごさなければいけないのか、全く受け入れられなかった。
 セリーヌはもう、何度目かのパーティーへの参加だったが、毎回話しかけてくる男をただ追い払って逃げるように帰るだけだった。

 セリーヌはそろそろ限界を感じていた。もともと、ユウジの恋愛対象は女性だったし、男と付き合うなど考えたこともなかった。

 ならば、セリーヌとして女性を求めるかと言えば、それもまた違う気持ちだった。
 可愛いや、綺麗な人を見ても、単純にそう思うだけで、性欲に結び付くわけではない。男の方は意識して考えたくもなかった。

 最近はロラも生活に慣れたようだし、また田舎に帰ろうかと考えていた。ユウジの時にさんざん恋愛沙汰で揉めて最後は刺されて死んだくらいだ。そういう感情は今度の人生には必要ないのかもしれないと思い始めていた。

 今日のパーティーは、サートランド公爵が若い貴族を集めたパーティーだと聞いていた。
 確かにまだデビューしたての若い男女が楽しそうに飲んで踊っている。

 とても、自分とは住む世界が違いすぎると、それを見ながらセリーヌはため息をついた。
 今日こそは、もう田舎に帰りますと子爵に伝えようと心に決めて、セリーヌはまだ盛り上がっているパーティーに背を向けて、目立たないようにそっと帰ろうと出入口へ向かった。

 セリーヌは丁度出入口の近くまで来たところで、遅れて会場に入ってきた人とぶつかってしまった。

 思い切りはじき飛ばされてしまい、セリーヌは盛大に床に転がった。
 ビリっという振動と何か破れる音がした。

「失礼、大丈夫ですか?」

 頭上で男の声がした。胸が騒ぐような低くてハリのある良い声だった。

「大丈夫…、ちょっと転んだだけだから、気にしないで」

 男に手助けなどされたくなかったので、セリーヌは自力で立ち上がった。足に若干の違和感と痛みがはしったが、我慢できそうなくらいだった。

 しかし、一番の問題はドレスだった。なんと腰の辺りの縫い目が破れて、下着は履いているがお尻が丸見えになってしまった。

「あっ……やっべ………」

 セリーヌが小声で困った声を漏らすと、ぶつかってきた相手はそれを聞き付けたか分からないくらいの速さでセリーヌの腕を取って横抱きに抱き上げてしまった。

「ちょっ……、なっ…なに!?離して!!」

「少し我慢してください。こんなところで下着姿をたくさんの人の前で披露したくないでしょう。すぐに着替えを用意させますから」

 言われてみれば、すでに何人もの人がこちらに注目していた。あまり見られるのも嫌だし、このまま帰ったら伯父夫婦が倒れてしまいそうだと思った。

 黙りこんだセリーヌが了承したと捉えたのか、その男はセリーヌを抱えて歩きながら、使用人達にあれこれと指示を出して会場とは別の通路を進み、奥にある部屋に連れてきた。

 部屋のなかには休憩用なのか長椅子が置いてあり、男はそこにセリーヌを下ろした。

「おや…、足が少し腫れてますね…。本当に申し訳ないことをしました」

「いや、こっちも前を見ていなかったし…」

「いいえ、私が考え事をしながら歩いていたのがいけなかったのです。どうか、お詫びに手当てもさせてください」

 貴族の男にしてはずいぶんと腰が低くて丁寧なやつだとセリーヌは思った。
 そこでやっとその男を視界に入れてまじまじと見てみた。

 黒くて艶のある髪を軽くうしろに撫で付けて、きっちりとタキシードを着こなしている。切れ長でアーモンド色の瞳は艶があり、高い鼻梁に、薄くて大きな口はきゅっと口角が上がっていた。妙に色気のある優美な優男という感じだった。

「私はメレディス・サートランド。ここは私の屋敷にあるパーティー用のゲストハウスなので、もし必要なものがあれば何でも言ってください。ああ、ドレスはすでに手配済みです」

 サートランドという名前を聞いて、主催者のサートランド公爵の関係者であることが分かった。自分の屋敷と言っているので、子息なのだろうと思われた。

 ノックの音が聞こえて、使用人が水桶を持って入ってきた。メレディスはそれを受け取って中に入っていた布を絞って、セリーヌの腫れていた足に当てた。

「んっ…つ…冷た……!!」

「よく冷やさないともっとひどくなりますよ」

「あっ…い…た…、ちょっ…押すの強いから…。少し痛い」

「これは…失礼しました」

 手当てしてくれているらしいが、繊細そうな顔に似合わず大雑把なのか、いきなりぎゅうぎゅうと押されて、セリーヌは痛みに声を上げた。

 こっちは痛くて苦しんでいるのに、メレディスはなぜか笑っているように見えて、びっくりして目を擦った。
 どうやら見間違えだったようで、メレディスは心配そうな顔をしていて、セリーヌはほっとしたのだった。


 □□


 あれから名前を聞かれたので、勿体ぶって隠すようなものでもないので、セリーヌは素直に教えた。

 するとメレディスは綺麗な名前ですねとか、外見に合ってるみたいな、歯の浮くような台詞を言うので、だいぶ女性に慣れている男だと思った。
 さりげなく飲み物まで用意させる辺りも、かなり気がきく男だと思った。前世の仕事があれば、ぜひスカウトしたいくらいだった。

「聞いてもいいですか?先ほどは外へ出ようとされていましたが、この後何かご予定でも?」

「あー…、いやもう、ちょっと帰ろうかと」

「なぜですか?まだ始まってからそれほど経っていないのに」

 主催者側の人間だから、参加者の評価が気になるのか、メレディスは突っ込んで聞いてきた。

「実は…、こういう場に慣れなくて疲れてちゃって……。私、引き取ってくれた伯父夫婦のためにパーティーに参加してきたけど、やはりもといた田舎にに帰ろうかと…」

「どうしてでしょうか…。何か嫌な思いでもされたのですか?」

 なんの興味を持ったのか、メレディスは突っ込んで聞いてきた。普段なら冷たくあしらったが、今日は最後だと思うとセリーヌは気が抜けて自分のことを話すのにためらいがなくなっていた。

「私、たぶん、ちゃんと人を好きになれないんだと思う……。男性はだめだし、かといって女性をそういう対象には見れない。恋愛の揉め事とかももう嫌だし…、平和に生きようかなと…」

「……それは困りますね」

「え?」

「ああ、お綺麗な方なのに、もったいないということです」

 流れるようにごく自然にセリーヌを褒めながら、メレディスは目を細めて微笑んだ。
 夜の世界で生きてきたユウジはこういう目をする男を知っている。
 外面は良いが腹の中では何を考えているのか分からない油断ならないタイプだ。
 セリーヌの中で芽生えた警戒心だったが、それはノックの音で曖昧にぼやけた。

 使用人が女性用の新しい下着と、ドレスを持ってきてくれた。サートランド家の女性が昔使っていたもので、返却は不要だと言われた。

「セリーヌ、申し訳ないのですが、今日のパーティーで女性の使用人達は皆手一杯で、着替えを手伝える者がいないのです」

 メレディスが困った顔でそう言ってきた。このドレスというやつは非常にやっかいで、着るのも大変だし脱ぐのも大変なのだ。
 特にこのパーティー用のやつは一人ではとても脱ぎ着ができなくて、セリーヌが苦手とするもののひとつだ。
 しかし、誰もいないのなら、一人で適当にやるしかない。普段家で着る簡単なワンピースはなんとか一人で着られるので、とりあえずやってみるから出ていってくれとメレディスに言った。

「そうはいきません!そんな足をして……、一人で着替えるなど無理です」

「いや、だって…それしか…」

「私がお手伝いします」

 メレディスは当然のようにそう言ってきた。確かに脱がせるのは慣れていそうだが、セリーヌは何を考えているのかとその目を見て探ってみた。
 しかし、バカみたいに真面目な顔をしていて、全く読み取れなかった。

「わっ…分かった。じゃ…お願い」

 少し悩んだが、面倒なのと早く帰りたかったのでセリーヌは頼むことにした。


「先ほど、男がだめと言っておられましたが、恋愛対象にはできないということですか?」

 ドレスの背中の編み込んである紐をほどきながらメレディスはセリーヌに尋ねてきた。

「…私、田舎で育って、自分が男みたいな性格だし、男と恋愛するなんて考えたこともないし…、パーティーとかのベタベタ触ってくる男も気持ち悪かったし…もう無理なんだと…」

 前世云々は面倒なので言わないかわりに、田舎育ちの粗野で教養のない感じを出してみた。そうすれば、興味をなくすだろうと考えたのだ。

「……そうですか。では私も男ですからね…。試してみましょうか…」

「え?なっ…」

「この先、ずっとその思いを抱えて生きていくのですか?本当にだめなのか……、試してみるのも必要なのでは?」

 メレディスのよく分からない提案は遠慮したかったのだが、何を試すのか少しだけ興味が湧いた。

「試すって……何を?」

 シュルリと背中の紐が取れた音がして圧迫感がなくなった。ドレスの後ろが外れたことが分かった。

「私に任せてください」

 そう言ってメレディスは、指先で線を書くようにセリーヌの背中を滑らせた。

「いっ!…ちょっと…くすぐった…い」

 メレディスは無言で、セリーヌの背中を指で行ったり来たりと撫でていく、一本から始めて二本、三本と指は増えていった。

「あ……くすぐったいって…、もう…やめ…」

 だんだんと肌は敏感になり、わずかな擦れでも痺れるような感覚が出てきた。セリーヌはまさかの甘い感覚が信じられなくて、ただくすぐったいと自分にごまかそうとした。

「くすぐったいだけ?本当に?気持ち悪くて嫌ではありませんか?」

「き…気持ち悪くは…ないけど、嫌だよ…もう、…やめろ……あっちょ……なに!だめ…!」

 セリーヌの中途半端な拒絶はメレディスの手が下着の中に入り込んで腰の下まで落ちてきたことで、それは痺れとなって全身に駆け抜けた。

 と同時に、うなじにしっとりと柔らかい感覚がして、メレディスが口をつけて吸っているのだと分かった。

「ああっ…!ふざけ…んな!なに…するんだよ!」

「ふふっ…やっと本当のセリーヌを出してくれましたね」

「…なに…?」

「セリーヌ、あなたも分かっているでしょう。この感覚が快感だということを…」

 メレディスがそう耳元で囁いて、デロリと耳を舐められた。

「ひぃぁぁ!!」

 ゾクゾクとした痺れは全身を駆けて、ある場所に集まった。

「知りたくないですか?自分の体がどうなっているのか?男に触れられてどう変わるのか?」

「……いやだ……。知りたくない……。男なんて……男なんていやだ……俺は……」

「ふふっ…俺なんて言葉を使って…、セリーヌは令嬢としての教育がなっていませんね」

「うっ…うるさ……、も…離してくれ……」

 メレディスの手は遠慮なくセリーヌの体を這っていく、いつしか後ろから抱き抱えられるような体勢になって、メレディスの手は下着越しに秘所の上にたどり着いた。

「ここに触れたのは私が初めてですか?」

「なっ…!ばか!そんなところ…誰にも…」

「へぇ…それは…想像以上に……」

 メレディスが変なことを呟いて、セリーヌの耳に熱い吐息がかかった。

「なっ…なんだよっ、お前…興奮しているのかよ…」

「ああ、バレましたか…。ええ、もうずっと興奮しっぱなしですけど、何か?」

 そんな風にあっけらかんと言われると、責めることもできずに、どんな顔をしているのかとセリーヌは斜め上を見て、メレディスの顔を見上げた。

「セリーヌ…、いけない子だ。キスの催促ですか?」

「は?違っ…んんっ!!」

 セリーヌはほとんど否定の言葉も言えずに、後ろから体を拘束されたまま唇を奪われた。
 初めてだから軽く合わせるような気遣いは全くない、いきなり食らいつかれるようにかぶりついてきて、セリーヌの舌を捕まえてじゅるじゅると吸われた。

「んっんんん!!ぐっっううんん!」

 真綿に包まれて眠っていたセリーヌの性欲は、メレディス強引に叩き起こされて、目覚めてすぐに裸に剥かれてどろどろに溶かされてしまった。

 メレディスはセリーヌの口内をまんべんなく堪能しながら、下着越しに秘所をぐりぐりと刺激し始めた。

「あうっ…んんんっ…、だ…めっ…!ば…か…!!」

 息もできない攻めから解放されて、やっと声が出せるようになると、セリーヌの顔は涙と飲みきれなかった唾液が口の周りに溢れてびしょびしょになり、ひどいことになっていた。

 しかし、メレディスはそれこそを求めていたように満足げで嬉しそうな顔になり、なんて可愛いんだと呟いた。

「はっ…おま…変態かよ…」

「セリーヌの口からそう言われるのは悪い気がしませんね…。ぜひもっと言ってください」

「ばか…あぁ!!…だめ……だって…」

 メレディスは今度はドレスの空いた後ろから手を入れて、セリーヌを胸を触りだした。

「柔らかいですが…まだまだ硬いですね。毎日よく揉んだら最高の触り心地になりますよ。これは…楽しみです」

「はぁ?なに言って…、あっそこ…やめ……!」

 メレディスは胸の蕾を摘まんで、指の先でぐりぐりと刺激し始めた。

「だ…だめ…、やだ…やだ…強くしないでぇ…痛い…」

「本当に…?こうやって擦ると、セリーヌの下着はグショグショになってきましたよ。ドレスまで濡らしているくせに…はしたない子ですね」

 メレディスにひどいことを言われているのに、セリーヌの体はびりびりと喜びに痺れた。自分にこんな感覚があったのかと、意識の中で唖然としている自分がいた。

 やがて、下着越しにもぞもぞとされているのがもどかしくなってきた。
 あの指に直接触れられて中をかき回されたらとセリーヌは想像してしまい、そんな自分が恐ろしくなって頭を振った。

「どうしました?もしかして、直接触れて欲しいのですか?」

「ち…違う…」

 セリーヌのわずかな反応を感じとったメレディスが、悪魔のような囁きを耳にかけてきた。

「怖がらないで…、大丈夫ですよ。私のせいにすればいい」

「え……」

「嫌がるあなたに、強引に私が触れた…。その方が気持ちが楽になるのでしょう」

「…………」

「ただ、ちゃんと言ってくれないと…。私は無理やりするのは好きではないのです」

 ここまでしておいて何を言うか思ったが、熱くなって快感の果てを求めている心も体も、その魅力的な誘いに大きく揺れた。

「さ…触って……」

「どこをどうするのか、具体的に言ってくれないと分かりません」

 この期に及んで、なんてことを言わされるのかと、セリーヌの頭はカッとなったが、沸騰しそうな体をギリギリで止められていて、もう理性の鎖は簡単には弾けとんでいった。

「ううぅ…、下着…を脱がせて…、直接触って……」

 メレディスは言われた通りに下着を脱がせて、直接セリーヌの秘所に触れてきた。
 その少し冷たくて滑らかな感覚に、これを待っていたかのようにセリーヌの体は震えてトロリと濡れたのが分かった。

「おや…、何か溢れてきましたね。いきなりお漏らしですか?まだ触っただけですよ」

「はぁ…早く…じんじんするんだ…。メレディス…早く動かして…、ナカに入れて…ぐちゃぐちゃにしてよ」

「……、やっとお前ではなく、私の名前を呼んでくれましたね。では、ちゃんと言えたご褒美に、たっぷり可愛がってあげましょう」

 メレディスのしつこい愛撫に、すでにセリーヌの蜜口からは愛液が溢れてトロトロになっていた。メレディスの指はその滑りを利用して、花唇を大胆に擦りながら、そのうちの一本の指は蜜口にゆっくりと侵入してきた。

「あっ…!いいっ……んんんっ」

 待ちわびた指に、体は歓喜して無意識にぎゅうぎゅうと締め付けてしまった。

「セリーヌ…いきなり締め付けてくるとは…。こんなに狭くて私のモノが入りますかね…」

「メレディス…もっと…動かして…」

「ふふっ…、強がっていても快楽に弱いセリーヌ…、思った通り、私の好みにぴったりですよ」

「ぶつぶつ言ってないで…、早くしろよぉ…、も…熱くて…壊れちゃうから…」

 乱れて頭もトロけだしたセリーヌを見て、メレディスは満足そうにクスリと笑った。

 すると、メレディスは今までのゆっくりとした優しい手つきからは、一転して、激しくナカをかき回して、花唇も芽も同時に擦ってきた。

「がっ……ああああっ……!!すっ…す……ごい!なっ…あああっ…」

 その強さにわずかな痛みまではしったが、脳天まで突き抜けるような強烈な快感がセリーヌを襲った。あっという間に指の数は増やされて、もう、何本か分からないが、じゅばじゅばと音を響かせて、ナカを激しく擦られた。

「だめ……も……ああっ……いっ…イクっ…!!」

 一気に快感の波にぶちこまれて、溺れるようにセリーヌは腰を揺らしながら達した。

「ふっ…、まだまだですよ。可愛いセリーヌを見せてください」

「ぁ…え…?ぁぁああ!待ってっだめぇっ……」

 達した後の気だるい余韻など感じさせてくれる間もなく、メレディスはまた激しく花唇の芽を擦ってナカをぐるぐるとかき回しだした。

 セリーヌはまた再び快感の海に投げ込まれて、悲鳴のような甘い叫びを上げたのだった。


 □□


「だっ…はぁはぁ…もう…イったからぁ…むりぃ……あああっ…くる……んぁあううっ!!」

「もっと溺れてください。溺れて…溺れて…、私なしでは呼吸もできないくらい…」

 息も絶え絶えになったセリーヌは、掠れた声にならない声を上げて、もう何度目か分からない絶頂を迎えて体を震わせた。
 そして、そのまま力が抜けてぐったりと崩れ落ちてしまった。

「おや…、気を失ってしまいましたか…残念。あと二、三回くらいは、イク顔が見たかったのですが…。今日はこのくらいにしましょう」

 気絶したセリーヌは、美しい顔に涙と涎と鼻水がついて、文字通りぐしゃぐしゃの顔になっていた。
 その顔が可愛すぎて、思わずかぶりつくようにキスをして顔中舐めつくしてしまった。

「あぁ…思った通り、なんて可愛い人なんでしょう…たまらない…セリーヌ…」


 セリーヌを初めて見たのは二週間前のパーティーだった。
 父の付き合いで参加させられたが、どうやら二十五を過ぎてもなかなか結婚する気のない自分になんとか相手を見つけようと、父に仕組まれたパーティーだった。顔を出した途端、父のオススメの年頃の令嬢達が集まってきて、まわりを完全に囲まれた。

 正直なところ女性には不自由していないし、適当に遊ぶくらいが丁度良かった。手掛けている仕事も順調だし、束縛されたりして邪魔されるのはうんざりだった。

 友人たちはそんなメレディスのことを贅沢だと羨ましがったが、古くからの友人だけは可哀想なやつだと言ってきた。
 心から欲しいと思うような相手に出会えないなんて、寂しい人生だと言われた。
 新婚の男の戯れ言かと笑ったが、なぜかその言葉が頭について離れなかった。

 そんな状態で囲まれたパーティーでやはり疲れしか感じなくて、なんとか輪を抜け出して空気を変えたくて外に出た。

 すると、庭園のすみでしつこく男に絡まれている令嬢を見つけた。
 メレディスはまた父の用意したものかと嫌気がさした。
 これで助けでもしたら、恩ができたと言われて付きまとわれることになるだろうと。
 見なかったことにして移動しようとしたところ、ずっと無言だった令嬢が口を開いたのだ。

「うるせーな!嫌だって言ってんだろ!消えろ!」

 令嬢の口から発せられたとは思えない勇ましい台詞に、メレディスも多分その男も、目を開いて固まった。

 男がなかなか動かないからだろう、令嬢はまた口を開いた。

「二度と俺に話しかけてくるな!さっさと行けよ!」

 男はひぃと声をだして、背中を丸めながら逃げて行ってしまった。

 メレディスは柱の陰からその令嬢をよく見てみた。
 どの、パーティーでも見たことがない令嬢だった。とてもあんな暴言が出てくるような見た目ではない。
 一言で表すなら、色白で儚げな雰囲気のある美人。
 黄金のように輝く金髪は柔らかそうで、アイスブルーの瞳は冷たそうにも見えるが、少し垂れぎみの瞳が柔らかい印象を保っている。
 小ぶりの鼻と口は可愛らしく、赤く色づいた頬は美味しそうな果実に見えた。
 それでいて、あの暴言に言葉遣いだ。

 令嬢は眉間にシワを寄せて、男に掴まれた腕を何度も手で拭っていた。
 メレディスは腹の中が燃えるように熱くなり、ゾクゾクとするものが全身を這い上がってくるのを感じた。

 あれが欲しい。

 生まれて初めて、心の底からそう思った。


 すぐに彼女の素性を調べ上げた。

 セリーヌ・フロランス、フロランス子爵家の令嬢だが、子爵家の令嬢なったのはつい最近。
 今までは、ノーザン地方の田舎の町で慎ましく暮らしていたらしい。両親が亡くなったことにより、伯父の子爵家に引き取られて王都へやってきた。
 どうやら、子爵はセリーヌの行く末を心配しているらしく、あれこれと出会いを作るように世話を焼いているらしい。
 しかし、本人はあの様子だとあまり乗り気ではないようで、何度かパーティーに参加しているが、なんの収穫もないままだった。

 セリーヌを手に入れるべく、メレディスは迅速に動いた。
 父に動いてもらい自宅でのパーティーを開くことにした。
 そして子爵家に招待状を送った。子爵が必ず乗ってくるように、同時期に開かれるパーティーは全て圧力をかけて開催を延期させた。
 念のため参加者は若者に限定した。そうすれば、子爵も軽い気持ちで送り出せるだろうと考えた。
 そうして、子爵家から参加をする旨の連絡が入ったときは、まず一歩進めたと笑みがこぼれた。

 しかし当日仕事で家を出ていてすぐに戻るはずが、こんな日に限って馬車が故障してしまい時間を取られてしまった。
 乗り気でない彼女のことだからもう帰ってしまったかもしれないと急いで会場に飛び込んだら、なんと本人とぶつかってしまった。

 しかしこれは、運命の神が自分に味方してくれたものだった。
 本当はどう切り崩すかと気を揉んでいたが、怪我をさせたことを口実に部屋に連れ込むことに成功したのだ。
 その後のことは自分でも興奮しすぎて、ついついやり過ぎてしまったので若干の反省の気持ちはある。どうやらこちらの暮らしに疲れたのか田舎へ戻ろうとしていたらしく絶好のタイミングだったかと言える。

「さぁて、どうしましょうかね。どうしたらあなたの全てを手に入れられますか…?」

 汗で濡れたセリーヌの前髪に手を絡ませると、すっかり寝入ってしまったセリーヌは微かに声を漏らした。メレディスは捕らえたつもりでいるが、チクリとした胸の痛みを感じた。それが何を意味するのか、初めての気持ちは答えを求めても手をかすめるようにすり抜けて、心の中に霧のように消えてしまった。



 □□


 心の中にもやもやとした霧がかかっている。
 行くべきか帰るべきか、すっかり方向をなくして迷ってしまった気分だった。


 あの悪夢のようなパーティーの後、気が付いたときセリーヌは自宅のベッドで寝ていた。
 サートランド家の者が自宅まで送ってくれたらしい。気分が悪くて倒れたことになっていた。

 ドレスも下着も汚れてしまったので、新しいものに変えられていた。体も清められてはいたが、セリーヌの体には明らかな変化があった。

 今まで知らなかった感覚を知ってしまった。それは男であった時のものとは違う。
 波が過ぎた後もじっとりと体のナカにうごめいている。
 そんなもの知りたくなかったと、セリーヌは顔を覆って全てが夢であってくれと願ったのだ。

 そして翌日、嬉々として部屋に飛び込んできた伯父の言葉にセリーヌは耳を疑った。

「婚約!?私が!?」

「そうだよ!あの、サートランド公爵のご子息のメレディス様だ。すごいじゃないか!すごい方を射止めたな!しかもすぐにでも結婚したいと仰られている。まさか公爵家とは…我が姪ながらこんな日がくるとは……」

「ちょっ…ちょっと、待ってよ伯父さん。まさか…了承したりは…してないよね…」

「するに決まっているだろ!何をためらう必要があるんだ!うちのような下位の貴族が見初められるなんて滅多にない大事なんだぞ!」

 この世界の貴族の事情なんて、セリーヌには知ったことではない。だが、とても自分から断れないような雰囲気であることは察した。

 叔父はこうしてはいられない、お祝いだと言って、部屋を飛び出して行ってしまった。

「マジかよ…、あの男なに考えてんだ……」

 あの日あったことは強烈な記憶となって残っている。セリーヌは令嬢らしくない姿も言葉遣いも見せたはずだった。それなのに、あのメレディスは全く動じることなく、セリーヌの中に踏み込んできた。
 しかも、メレディスが触れてきた指や舌を思い出すと、じわじわと下着を濡らしてしまう。
 いつも女を快感に導いていたのは自分だった。それが、いざ自分が落とされる側になったとき、今まで築いていたものはあっさりと崩れ落ちた。

「なんなんだよ…クソ!」

 しかも、その先の熱を求めてしまう気持ちまで出てきて、水でもかぶりたい気分になった。

 こうなったら、メレディスの前でもっとひどい態度を取って、こんな令嬢は嫌だと思わせるしかない。
 それで、田舎に帰ってひっそりと暮らそうとセリーヌは心に誓ったのだった。



 □□


 メレディスとの再会の機会はすぐにきた。正式な婚約を交わすために、子爵家を訪れることになったのだ。

 当日、あれこれ考えてセリーヌは準備していた。
 あの日着ていたドレスは、地味で体がなるべく隠れる目立たないものを選んでいた。
 つまり、そういう女が好みなのだろう。
 こういう顔合わせみたいな機会には、きちんとした清楚な格好が適しているが、一目で嫌になるようなものを考えたのだ。

 町に出てとんでもないのを買ってきた。
 清純で清楚な女が好みなら、ドン引きするようなやつだ。

「セ……リーヌ、なんて格好を選んだんだ…」

 セリーヌの部屋に様子を見に来た叔父は、セリーヌの格好を見て言葉を失った。

「実はこういう格好が好きなんです。結婚するなら、ありのままの私を好きになってくれませんと」

 鏡を見てセリーヌは微笑んだ。

「なんと…言うか、目のやり場に困るドレスだな…大丈夫だろうか…」

 セリーヌが購入したのは、仮装パーティーにでも使えそうな、セクシーなドレスだった。
 紫と黒のレースで作られていて、胸が半分飛び出しているみたいなお色気たっぷりなデザインだ。
 髪の毛はおろして櫛を入れただけ、メイドに拒否されてメイクまでド派手には出来なかったが、この毒々しい姿を見たら百年の恋も冷めるに違いないと思った。
 ちなみにこれとセットだと言われて、下着までセクシーなものを付けられてしまったが、セリーヌは仮装の一部だと思うことにした。


 メレディスはすでに部屋に通されていたので、セリーヌは意気揚々と乗り込んだ。
 最初に叔父が対応していて、呼ばれてセリーヌは部屋に入った。

「こんにちはメレディス、先日はどうも」

 令嬢らしからぬ馴れ馴れしい喋り方で入っていくと、メレディスは目を見開いて驚いていた。
 慌てる伯父の横にどうだという表情でセリーヌは座った。

「セリーヌ…、会いたかったです」

 開口一番、メレディスはそう言って微笑んだ。
 嫌になってもらうはずだったのに、そんな雰囲気など全く感じさせず、嬉しそうな顔をしたメレディスを見てセリーヌの心臓はトクンと揺れた。

「フロランス子爵、では先ほど話した通りでお願いします」

「なんと!本当ですか!これは良かった…!セリーヌの両親もきっと喜びますな」

 ドン引きで、お帰りコースかと思いきや、順調に進んでいる雰囲気にセリーヌは慌てた。

「あっあの…、まさか…伯父さ……」

 伯父を巻き込んで止めてもらおうかと思ったのに、叔父の目尻に光るものを見てしまって、セリーヌはそれ以上言えなくなってしまった。

「フロランス子爵、そろそろ…、セリーヌと…よろしいですか?」

「ああ!すまない!私としたことが…!気も使えずに申し訳ない!セリーヌの部屋に飲み物も用意させますので、どうぞごゆっくり」

「え……、え?え?うっ嘘……」

 後は若い二人にとでも言うように、叔父はウキウキしながら、セリーヌの部屋にメレディスを通してしまった。

 もう駆け引きしても仕方がないので、セリーヌは正面からぶつかることにした。
 伯父が出ていって背後で部屋のドアが閉まる音を聞いてから、セリーヌは口を開いた。

「ちょっと、メレディス!婚約なんて本気で……うわっ!!」

 セリーヌが喋り出すと同時にメレディスは覆い被さるように、セリーヌを抱き締めてきた。
 細身に見えてもやはり男で、物凄い力で締めてくるので、押し返すことも出来なかった。

「なっ…なにする……んだ!いきなり…!」

「あなたがいけないんですよ…。そんなドレスを着て私を挑発するなんて……おかげで、子爵の前で勃ってしまったじゃないですか」

「はっ…ばかっ!なっなに言ってんだよ!」

「いけませんか?ちなみに会えなかった間はセリーヌを思い出して自分で……」

「だぁーーーー!!やめてくれ!」

 上品そうな顔をしているくせに、下品なことを連発するメレディスにセリーヌは混乱するしかなかった。

「お…お前、なんだよ…、こっちもイケるのかよ…」

「ん?こっちと言うのは?」

「……こんな、下品なドレスを着た女もいいのかってことだよ…。この間みたいな…やつが…好きなのかと……」

「……つまり、セリーヌは私が嫌いになるだろうと、このドレスを着てきたというのとですか?」

 自分の作戦を改めて言われると、恥ずかしいものである。セリーヌは顔を赤くして下を向いた。

「……あぁ、どうしてあなたはそんなに…。可愛すぎます、反則です。今、痛いくらいにビンビンなんですけど…あっ…少し出たかも……」

「うわっ…!、ちょっと、くっつけんなよ!」

「逆効果ですよ、セリーヌ。そんな扇情的な格好をされたら、興奮するだけですよ。好きなんですから」

「好き?お…、私が?会ったばかりなのに?」

 セリーヌは目を開いて信じられないという顔でメレディスを見つめた。そんなセリーヌを見てメレディスは目を細めてクスリと笑った。

「どのくらいの時間があれば納得されますか?一月?一年?それとも十年?」

「いや…そんなに、長くは……」

「私はあなたに一瞬で恋に落ちたのです。信じてくれないのであれば、セリーヌが納得するまで、ずっと好きと言い続けますよ」

「だっ…だって、分からないじゃないか…。寝言凄かったり、体洗わなかったり、浮気症かもしれないんだぞ!それでも……」

「私は眠りが深いので、叫んでも歌われても大丈夫です。体を洗うのが面倒なら私が毎日洗ってあげましょう。浮気…、などと言うものは、ありえませんね。そんな気も起こらないくらい私に夢中にさせてあげます」

 恐ろしい男だと思った。こんな男といたら今までの常識や価値観なんてぶっ飛んでいきそうだと思った。
 恐ろしくて、怖くて。けれどこの世界で気づいてから、いつもセリーヌにまとわりついていた暗雲がすっと蒸発するように消えていったのを感じた。
 突然眩しくなった世界に、セリーヌは思わず目を閉じた。

「あぁ、もう、そろそろ限界です。言っておきますが、こんなドレス…、私の前以外では着てはいけませんよ…」

「だっ…こっちだって、こんなの!趣味じゃない!あっこら!」

 メレディスは軽々とセリーヌを持ち上げてしまった。そのままベッドまで連れていかれて、バサリと下ろされた。

「まさか…下着まで揃えていたとは…、準備ばっちりじゃないですか」

 ドレスの中に手を入れてきたメレディスは、セリーヌの身に付けていたセクシーランジェリーを嬉しそうに眺めた。

「だって、そっ…それは…、一緒に着るものかと……」

「ふふっ…、セリーヌ、どうしたのですか…、もう下着が濡れていて色が変わっていますよ」

「うぅぅ…、言うなよ……」

 セリーヌはメレディスに抱き締められたときから、じわじわと熱が上がっていくのを感じていた。それは、メレディスの欲望を擦り付けられたとき、自分でも明らかに愛液が流れ出たのが分かった。

「セリーヌは濡れやすいのですね。少し触れただけで、こんなにお漏らししてしまうなんて…」

「うぅ…、そんな…」

「もしかして、私が触れていなくても、思い出して濡らしたりしませんでしたか?」

「………」

 メレディスは、まるで見ていたかのようにセリーヌの言いたくないことを当ててしまった。
 肯定はしたくなかったので、また下を向いて恥ずかしさに耐えるしかなかった。

「………わいい。またまた、私を煽って楽しむのが好きですね。ああ、セリーヌ、あなたの中に入りたい…。もういいですよね、結婚しますし、問題ないですよね」

「ばっばか!問題あるに決まってんだろ!ちんこを突っ込まれるなんて…!やだ!無理!」

「……そうですか。では、セリーヌからお願いされたらにしましょう」

 メレディスは微笑みながらそう言った。入れられないと分かってセリーヌはほっとしたが、その微笑みにとっても嫌な予感がして身を震わせたのだった。


 □□


「はぁ……あっあっ……もうむりぃ……やだぁ……」

 自分の部屋の中に響く卑猥な水音に、何度目か分からない絶頂の波を感じてセリーヌは身をよじらせた。

 すでにドレスは脱がされて、下着は破られて、肌に少し残るくらいになってしまった。
 破れた下着の間からは、セリーヌの白くて柔らかそうな乳房がのぞいていて、体の揺れにあわせて扇情的に一緒に揺れてた。

 セリーヌの蜜壷は、メレディスに舌と手で愛撫されもうとろとろに溶けてしまっている。
 セリーヌは波に身を任せようとするが、また寸前のところで愛撫を止められてしまった。

「メレディス…もう…やだぁ…、イキたい…イキたいよぉ…、早く…イカせて…」

「セリーヌ…、もっと良いところへいきませんか?それも私と一緒です」

「いい…とこ…ろ?」

「そうです。ここに、私の大きいのをブチ込んで、ぐちゃぐちゃにしてかき回してあげます。最初は痛いかもしれませんが。セリーヌは濡れやすいですからね…もう何本も飲み込んでいるんですよ」

 そう言ってメレディスは、蜜口をとんとんと指で叩いた。

「はぅぅ!!あっ…なんでも…いい…、気持ちいいのが…ほし…い」

「なんでもいいじゃ困ります。私のが欲しいと言ってくれないと…、そういう約束ですからね」

 繰り返し寸止めをくらって、暴れている熱を体に抱えたままの状態で保てる理性などなかった。

「欲し……い、イ……キたい。メレディス…メレディスのが欲しい…!早く!早く入れてぇ!」

「では、お望み通りに……」

 いつの間にか下着をくつろがせたメレディスが、反り返るほど硬くなって、すでに糸を引いている自身をセリーヌに見せつけるように取り出した。

「うぅ…すご……大きい……」

「ふふっ…嬉しいです。私も待ちに待った瞬間です」

 メレディスは、灼熱の塊のようになった肉棒をセリーヌの蜜口にぴたりとあてた。
 相変わらず蜜口からはトロトロと愛液が溢れだしていて、メレディスの肉棒をすんなりと受け入れていく。

「んんっ、あっ…いっ…」

「はぁ…セリーヌの中、キツくて食いちぎられそうです…うねっていて吸い付いてくる…すぐもっていかれそう……」

 メレディスはぎしぎしとセリーヌの愛路を広げて奥深くへ自身を沈めていった。

 溢れるように出てくる愛液のおかげて、貫通の痛みはあったが、なんとか耐えれるものだった。
 強く手を握って荒い息をはいていたら、メレディスはセリーヌ手を包むように上から握ってきて、唇を舐めるように舌を絡ませてきた。

「我慢しないで…痛ければ私に爪をたててもいいのです…一人で耐えないでください」

「…メレディス…、お願…い。もっと…キスして…キス…きも…ちい…から……好き」

「んんっ……!!」

 セリーヌの言葉にメレディスの肉棒はぐっと大きくなってセリーヌの中でびくびくと動いて、熱い熱が飛び散ったのを感じた。

「はぁ……私としたことが……、その言葉はキますね…」

「……メレディス…もしかして……んっんん!」

 どうやら不本意だったようで、メレディスはセリーヌの言葉を封じるように口にかぶりついてきた。
 口内をぐるぐると舌で溶かされて、喉の奥まで舌を入れられて、セリーヌが苦しさに喘ぐ頃には、また中にいたメレディスの欲望は大きく硬くなっていた。

「さぁ、セリーヌ。私の愛をたくさん受け止めてください」

 メレディスがゆっくりと動き出して、セリーヌの中にも快感の種が芽生えてきた。
 初めての痛みを凌駕するような快感がやがて花を咲かせるために、めきめきと育っていくのをセリーヌは揺さぶられながら、じわじわと感じていたのだった。



 □□



「メレディス様が婚約されたらしいわよ!」

「しかも、来月には式も挙げるって……。どの令嬢なの!許せない!」

 セリーヌはビクリと体が揺れたが、ごまかすように咳をしながらさりげなくその場を離れた。

 今日もまたパーティーに出ていた。しかし今回は出会い目的ではない。
 父の出資している造船業の関係者が集まるパーティーで、家族も一緒にという事で参加しているのだ。
 噂というのは早いもので、婚約の話はどこへ行っても話題に出ていた。メレディスは結婚しない男というカテゴリに入っていたらしく、誰もが相手は誰だと噂していた。
 セリーヌの名前は社交界ではまったく知られていないので、今のところ落ち着いているが、どうやらファンが多かったらしく、令嬢達が血走った目で話していて恐怖でしかない。

 一月前のパーティーでメレディスに出会ってから異例の早さで婚約が決まり、来月には結婚する予定になってしまった。
 田舎に帰ろうとしていたのに、自分でもなぜこんなことになってしまったのか、いまだに理解できない。
 どうやら、一目惚れされたらしいのだが、中身は言葉遣いもひどいし、ただのガサツな男なのに、何が良かったのかもうこれは変態なのだとしか思えない。


「お姉様…どうされたの?」

 考えながら唸っていると、妹のロラがセリーヌのドレスを軽く引っ張っていた。

「ロラ、何でもない。ただの考え事だよ。それより、食事はちゃんと食べれてる?」

「お姉様まで…、大丈夫よ。もう一人で食べれるわよ。それより、さっき他の令嬢方がお姉様の噂をしていたわ」

 妹にまで噂を聞かれたかと、セリーヌは頭を押さえた。疲れが出てきて早く帰りたくなってきた。

「怒鳴ってやるとか、水をぶっかけて奥歯をガタガタさせてやるとか……」

「だぁーー!!ロラ!何でもないわ!聞いたらだめよそんな話!」

 子供の前でなんて話をするのかと、令嬢達にますます恐怖を覚えた。

「堂々としていればいいじゃない。相手の方のこと好きなんでしょう」

 まだ十歳だが、ロラもまた女なのだ。真っ直ぐな瞳を向けられて、セリーヌは心臓がドキリと鳴った。

「……好きっていうか、成り行き上仕方なくというか……、断って伯父さんに迷惑かけるわけにもいかないし……、だいたい好きって気持ちもよく分からないし……」

「まー、お姉様のいい歳してなに子供みたいなこと言ってるのよ!嫌だったらやめればいいのよ。伯父様だって分かってくれるわ!」

「ううっ…」

 まさかの十歳のロラに諭されてしまって、セリーヌは言葉が出なかった。

「もう一度、自分の気持ちと向き合ってみたらいいんじゃない?好きな気持ちが分からなかったら、この先もずっと一緒にいたいかどうか、そういう気持ちが大事だと思うけど」

「……ロラ。そう…だね。ありがとう」

「お姉様ったら、こっちへ来てから、すっかり子供っぽくなって…。前はもっとしっかりしてたのに…。まぁ可愛いからいいけど」

 子供のロラに子供と言われてセリーヌは衝撃で言葉が出なかった。
 そのうち、他の子供達に呼ばれてロラは走って行ってしまった。

 セリーヌは壁にもたれ掛かって会場を見渡した。確かメレディスも今日は仕事だが間に合えば参加すると言っていた。なるべく来ないで欲しいと思っていたのに、なぜだかその姿を探してしまう。
 一人でいることが不安だなんて思ったこともなかった。
 セリーヌは自分の手を見つめながら、掴むところがない寂しさの理由を考えていた。

「あなたがセリーヌ・フロランスね」

 名前を呼ばれて心臓がドキリと跳ねた。顔を上げると、見たことのない令嬢が三人立っていた。色とりどりのドレスはまるで信号機みたいだった。

「ちょっといいかしら、お話ししたいことがあるの」

 どう考えても嫌な予感に、セリーヌは逃げ出したい気持ちで頷いたのだった。



 □□



「田舎者のくせに、汚い手を使ってメレディス様に取り入るなんて!」

「なんとか言いなさいよ!このメス豚!」

 会場の外へ連れ出されたセリーヌは、思った通り令嬢達に囲まれて怒鳴られていた。

 男相手なら怒鳴り返してやることも出来るが、令嬢相手に暴言を浴びせるのはまずいだろうと、セリーヌはどうしようかと困っていた。

「ふん!あなたみたいな女はこれがお似合いよ!」

 一人の令嬢が手に持っていたコップを持ち上げた。今にも中身をかけられそうになって、セリーヌは目をつぶってそれに耐えようとした。

 バシャン!と勢いよく中身がぶちまけられた音がしたが、いくら待っても体に何一つ当たるような感覚がなかった。

「えっ……そんな……!!」

 令嬢達が驚くような声を出したので、セリーヌは恐る恐る目を開けると、目の前に大きな背中があった。

「水浴びをするには、まだ季節が早いですね」

「メレディス!」

 どうやら、メレディスが盾になってくれたことで、セリーヌは被害を免れたが、メレディスは髪から水が滴っていて、スーツも濡れしまった。

「言っておきますが、セリーヌのためでしたら、私は喜んでいくらでも水をかぶります。ですが……、セリーヌにぶっかけていいのは私だけです!」

 メレディスがカッコ良く言い放った台詞に、令嬢達もセリーヌも、はぁ?という顔になった。

 しかし、まずい雰囲気を感じ取ったのか、令嬢達は後退りして慌てて逃げて行ってしまった。

「助けてもらってなんだけど……もっと他に言い方ないのかよ」

「セリーヌへの愛が溢れていたでしょう」

「ただの変態だ」

 セリーヌは呆れながらも、メレディスの姿を眺めた。
 綺麗に整えられていた髪は濡れてぐしゃぐしゃになっているし、スーツも染みになっていた。

「あーあ、上等なスーツがひどいことに…、髪も乾かさないと…」

 セリーヌはハンカチを出して、メレディスの髪に当てた。
 ボサボサの前髪の中から嬉しそうに細めたメレディスの目が見えて、セリーヌの胸はドキッと揺れた。

「セリーヌに、髪を拭いてもらえるなら、水をかぶった甲斐がありました」

「そ…それくらい、別に……」

 おかしな男だと思った。髪が濡れることも、スーツが台無しになることも、セリーヌのためならどんなことも、どうでもいいと言ってきそうだった。
 しかし、自分だって令嬢の外見で中身は男なのだ。おかしな女におかしな男は意外と合っているのかもしれないとセリーヌは思い始めた。
 なにより他の男に触られたときにいっぱいだった嫌悪感は、メレディスからは感じないのだ。

 セリーヌはメレディスの腕をそっと掴んだ。セリーヌ方から触れてきたので、メレディスは少し驚いた顔をしてセリーヌを見つめた。

「……どうされたんですか?」

「……あのさ、ありがとう。庇ってくれて…」

「…………」

「メレディス、遅いから…。掴まるところがなくて……寂し…かった」

 口に出してから、なんて事を言ってしまったのかとセリーヌは恥ずかしくなって真っ赤になってしまった。
 ただお礼を言うつもりが、思っていたことまでポロリと出てしまった。

 メレディスにうるさく突っ込まれたら嫌だなと思っていたら、反応がなく静かなので、おずおずと見上げるとメレディスは目を細めて微笑んでいた。

「……セリーヌ、またそんな可愛いことを言って…。どうしましょう、勃ってしまいました」

「なっ…ば…ばか!こんなところで…!」

 セリーヌの視界の端に、本当にズボンを押し上げて主張しているメレディスのモノが見えた。

「……仕方ない。トイレへ行ってきます」

「……………」

 収まりがつかない事情はセリーヌもよく分かっている。自分を庇って濡れ鼠になった男をトイレへ追いやるのは少し申し訳なかった。

「……こっち、人来ないから」

 セリーヌはメレディスの手を引いて人気のない、建物の奥へと引っ張っていった。

「も…もしや!セリーヌ!お口でしてくれるのですか!?」

 メレディスの顔に花が咲いたみたいな輝きを見て、セリーヌは急いで目をそらした。

「ばっ…口は無理だ…!手だよ。手でする」

「えー…」

「えーじゃない!文句言うな!」

「仕方ないですねー、お口はまだとっておきますか…。でも、私はなかなか手ではイかせられないと思いますけど……」

 不満そうなメレディスは、そんな事を言ってきたので、セリーヌは思わずニヤリと笑った。

「はっ、やってみないと分からないだろ」

「やる気になってくれて嬉しいですけど…、せめて婚約者の特権を行使して、セリーヌのお顔にぶっかけてもいいですか?」

「おっ…おまえ…!それをやったら絶対怒るから!なんだよその特権!んなもんあるか!」

「…それは残念、じゃそれも次回に……」

 次の楽しみを記録しておくみたいに呟いているメレディスを無視して、セリーヌはメレディスの欲望に手で触れた。

 本当は溢れ出そうな自分の蜜を悟られないように、メレディスを早く上り詰めてやろうと気合いをいれたのだった。



 □□



 結婚式を明日に控えた独身最後の夜。
 仲間が企画してくれたパーティーから帰ったメレディスはすでに寝室のベッドに入っているセリーヌの姿を確認した。

 婚約してからすぐ、我慢できずに手を出してしまい、それから何度も頼み込んで、結婚式前に同居を開始した。
 友人達にはどうしたと散々ネタにされて笑われてきた。
 しかし、そんなことはどうでもいいのだ。
 せっかく手に入ったのに、離れていたら指の間からこぼれてしまいそうで、不安でたまらなかった。
 あんなに一人でいるのが好きだった自分が、一人でいるのが耐えられなくなり、帰宅するとすぐにセリーヌの姿を確認するのが日課になってしまった。

「ふふっ、捕らえたつもりが…、本当は私が捕らえられてしまいましたね」

 ベッドに入って、無防備な顔で眠っているセリーヌの頬を撫でた。
 最近は毎日のように手を出してしまう。性欲は薄いほうだと思っていたのに、こんなことになるとは信じられないかった。
 男のような言葉にも慣れて、あの可愛い口から飛び出す強めの言葉に、むしろ興奮してしまうほどだった。

 しかし、何度も抱いてこれでもかと愛を注いでいるのに、セリーヌから肝心の言葉はもらえていないのだ。

「ん…メレディス…、お帰り…」

「起こしてしまいましたか。明日は早いのに…、申し訳ございません」

「……?どうした?疲れてるのか?元気ないな」

 寝ぼけて目を擦りながら、セリーヌはむくりと上半身を起こした。

「……友達と飲んできたんだろう。嫌なことでも言われたの?」

「いいえ、そんなことはないです。ただ……」

 ただ何かと、セリーヌは大きな目をぱちくりさせながら、メレディスの方を見てきた。

「時々不安になるんです。セリーヌは私のことをどう思っているのか…。本当は嫌々ここに……」

「ばか、嫌なわけないだろ。一緒に…いるのにさ…」

「セリーヌ……」

「最初はわけも分からず流されてたけど…、今はメレディスのこと……ちゃんと……好き…だよ」

 寝起きのゆるい頭だからか、セリーヌはいつもより素直に心のうちを話してくれた。

「それを言うならこっちだって…、メレディスはモテるし…、私みたいな令嬢らしくないやつのことなんて、やっぱり嫌だって言われたら…」

 セリーヌの言葉を最後まで聞けないまま、メレディスはセリーヌを押し倒して覆い被さった。

「先ほどの…もう一度、もう一度言ってください!私をどう思っていますか!?」

「っ……、何度も言わせるなよ…。好きだよ……好きだってば」

 恥ずかしがって目線をそらしていたセリーヌだが、その言葉を言ったときはちゃんとメレディスの目を見ていた。

 メレディスは全身の血が沸騰するように熱くなり、欲望は痛みを覚えるほど張りつめて立ち上がったのが分かった。

「セリーヌ…今すぐあなたをください」

「え…!ちょっ…!」

 メレディスはセリーヌの下着に手をかけてズラすと、蜜口に一気に怒張を挿入してきた。

「ひっ…いっ、いきなり…入れるやつがいるか、ああっ…ばか……」

「大丈夫です。セリーヌのここはいつも私が触れると潤っているでしょう。ほら今もちゃんと入りましたよ」

「あ…ん…、だっ…だって…、はぁ…だめ…あぁ…」

 メレディスは緩急をつけながら押し入れた後、一気に激しく突き入れ始めた。

「あぁぁあ、メレディ…ス、まっ…まて、急に…あっあっ……壊れちゃ……はっあぁぁ…だっ…だめぇ」

「はぁ…は……セリーヌ、すみません、止まらない…嬉しくて……興奮しすぎて…、もう出そうです」

「あっああ、も……だめ……イクっ…イっちゃう!」

「ええ、セリーヌ…一緒に……」

 セリーヌが甘い声を上げてナカをぐわぐわと動かして達したあと、メレディスもセリーヌの奥で達した。熱い飛沫を受けて身を震わせるセリーヌはとてつもなく美しく見えた。

「はぁ…セリーヌ……」

「んんっ…メレディス…?…あっ…また…」

「…あと一回だけ」

「ちょっと…無理だよ!明日!あし…っんんんつ!!」

 メレディスの口づけはセリーヌの言葉のごと丸飲みして奪ってしまった。
 吸い付いて舐めて噛んでぐちゃぐちゃになるまで食べ尽くさないと、メレディスは止まらないと思った。

 あと一回が、もう一回になり、やっぱりもう一回と繰り返し、やがて空が白んでも二人の部屋からは甘い声が絶えず響いていたのであった。





 □□





「ウオホォン!」

 神父が大げさな咳払いをして、新郎新婦ともに体をビクリと揺らした。

「神の御前で、しかも私の言葉の最中に新郎新婦ともに居眠りされたのは初めてですな」

 真っ赤な顔で怒っている神父を前にして、セリーヌとメレディスは今にも倒れそうな眠気と戦っていた。

「それでは、私の言葉は一言にまとめると、こういう晴れの日の前日はよく寝ておくこと!仲がよろしいのもほどほどに!よろしいですかな?」

「はっ…はい」

「次!誓いの言葉いきますから、二人ともしっかりしなさい!」

 厳かな雰囲気で始まった結婚式だったが、まさかの本当に説教をされるという事態に教会は出席者の爆笑に包まれた。


 世界を越えて運命の赤い糸で結ばれた二人はようやく永遠を誓うことができたのだ。

 子供みたいな説教を受けて怒られた二人は、見つめ合ってクスリと笑った。そのままお互い引き寄せられるように唇を合わせた。

「こらぁ!誓いのキスはまだだって言っとるじゃないかぁぁ!!」

 再び神父に怒られて今度こそ二人は姿勢を正した。

「はぁ…、何やってんのよ。二人とも似た者同士、まるで子供ね」

 新婦の妹、ロラの呆れたような呟きが聞こえて、また教会は笑いに包まれたのだった。





 □完□
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