ベルメルは見た

冴條玲

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お給金のゆくえ

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 前領主イクナート様に指示された任務のお給金って、新しい領主様から頂けるのでしょうか。
 そのように、お伺いを立てただけでも、もしかして、粗相なのでしょうか。

 皆さんが、哀れな者を見る目で、僕を見ます。
 やがて、レイデン様がおっしゃいました。

「――ヴァン・ガーディナ皇子に直訴するのは、命が惜しければやめておけば? 仕方ない、ヴァン・ガーディナ皇子にご挨拶した後で、補佐官のゼルダ皇子にご挨拶して、聞いてみなさい。ゼルダ皇子は優しい方だ、おまえが最初の挨拶でヴァン・ガーディナ皇子のご不興を買わなければ、何とかして頂けるだろう」

 うう。最初のご挨拶はしないといけないんですね。
 そこは飛ばせないんですね。

「補佐官のゼルダ皇子……あの、先程のお話で、ヴァン・ガーディナ皇子に瀕死の重傷を負わされたとかいう方、とは別ですよね?」

 ゼルダ皇子は、尊くも領主様の弟君であらせられます。血を分けた弟君を滅多刺しはないでしょう。

「いや、その方だよ。ヴァン・ガーディナ皇子は補佐官をゼルダ皇子一人しか置かれていない。ヴァン・ガーディナ皇子はゼンナとキールサキスを側近として使っているが、ゼンナとキールサキスは皇子の忠実な配下で、皇子に意見できる立場ではない。曲がりなりにも、ヴァン・ガーディナ皇子に意見できるのはゼルダ皇子だけだ」

 僕はただ、うめくしかありませんでした。
 弟君でさえ、不手際をすると滅多刺しなのですか……。
 それは、僕などが不手際をしたら、秒殺されるということですか。
 秒殺だったら、痛い、と感じる時間は長くなさそうなのが、せめてもの救いなのでしょうか。

 泣きそうです。
 泣いてもいいですか。

 僕は本当に恐ろしかったのですが、無事に帰れることを神に祈りながら、新しい領主様のお部屋に向かいました。
 丸一年かけて調査した、僕の努力の結晶を胸に抱えて。


  **――*――**


「あいつ、イクナートに左遷されたこと、気付いてなかったんだな……」
「手土産も持たずに、挨拶に行ったんだったか?」

 僕の後ろで、そんな会話がされていることなど、僕が知るよしもなく。

「あ、まずいな。ヴァン・ガーディナ皇子への挨拶にも、手土産を持たないんじゃないのか、あいつ」
「あぁ、それっぽいな。……冥福を祈ってやろう」

 僕の後ろで、そんな会話がされていることなど、僕は知るよしもなく。
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