ベルメルは見た

冴條玲

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砕け散るベルメル

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 僕は、大変な粗相をたくさんしたと思うのに、領主様に叱られることさえなく、無事に生還できました。
 でも、少女に悪いことをしたかと、僕は肩を落として、とぼとぼと役所の方に戻りました。

「ラインハルト、ゼルダ様にはご挨拶したのか? 行き違ったのか?」

 戻ると、レイデン様にそう声をかけられ、僕はあわてました。ゼルダ皇子のことを、すっかり忘れていました。

「アッ――忘れていました! 今すぐ……」

 今すぐ、ご挨拶に行きますと言いかけて、僕ははっとしました。

 あの子が!

 もう二度と会えないかと思った、謝ることもできないかと思った可愛いあの子を、役所に見つけてしまったのです。
 もしかして、領主様だけではなく、領主館のみんなに、お茶を汲んでくれる女の子なら……!

 ――もしかして、僕にも!?

 とたんに、胸が高鳴りました。
 でも、彼女がふと、僕を見て顔を強張らせました。
 僕の胸でふくらんでいた期待がみるみるしぼんで、鉛のような重さの悲しみに変わりました。
 さっき、僕はとても情けなかったし、彼女のために何もできなかったし、それどころか、邪魔をしたかもしれないし、嫌われてしまったみたいです。
 少女は僕から顔を背けていましたが、やがて、挑むように、僕の方に歩いてきました。

「余計なこと、言わないよね!」

 僕は少し、面食らいました。

「え……と、あの?」
「余計なこと言ったら、助けてあげないから!」

 僕は、何が起きているのかわからず、ただ、瞬きしました。

「ラインハルト、何してる! ゼルダ様にご挨拶しないか」

 え。

 ――僕の初恋は、想像だにしなかった方向に、砕け散りました。
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