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第二章 フォアローゼス
2-1b. フォアローゼス 【テッサリア伝説】
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「ま、皇子様の優しさはな、もったいつけて、ここぞという時にチラ見せしろ。女の大半はな、団体行動でちょっと手貸してやっただけでも、異性を意識するものなんだぜ? あなたは女性だから大切に扱いますって、態度で示せ!」
「えぇ!? ヴィンスってば、そんなことしてたの!? それで皇子様親衛隊なの!? なんてやり口だ!」
そういうのって罪つくりだよと、マリはお叱りだ。
「あのなぁ!? お子様ランチ!」
頭痛を覚えたゼルダが額を押さえて、そもそもの話の続きを促しかけると、それを見越したようにクローヴィンスが話を戻した。
「さて、本題だな。帝王学やら宮廷儀礼やら、とっくに修了してるヴァン・ガーディナと俺が競うためには、死に物狂いで、俺もそれを修めないとならない」
傲慢な笑みを浮かべるクローヴィンスは、それに怯んではいないようだった。
「ゼルダ、そうして欲しいか」
どう、答えられただろう。現在、皇位継承権第一位のクローヴィンスが皇太子を望まないなど、ゼルダは考えもしなかったのだ。
皇太子を望めば、その地位が確たるものになるほど、皇妃に命を狙われることになる。それと承知で――
ゼルダが浮かべた苦渋の表情に、クローヴィンスは察したようだった。
「皇妃様に狙われるとかは、気にしなくていいぞ。俺も、皇妃様のなさりようは気に食わない。そういう意味では、ヴァン・ガーディナに皇太子を譲るのはどうかと思うけどな」
「兄上、知って――!?」
「ヴィンスでいい。俺はこれでも皇子だし、テッサリアに仕込まれたんだ、知ってるぜ」
テッサリアはクローヴィンスの母妃で、元は女官長を務めていた女性だ。
「――ヴィンス、それは、気にするなと言われたって!」
クローヴィンスの隣から、マリが大丈夫だよとウィンクした。
「ゼルダ兄様、ヴィンスの命は、割と安泰なんだ。父上の子じゃないって噂があるし」
驚いて、ゼルダはクローヴィンスを凝視した。そんな噂は初耳だ。
「ゼルダ、言っとくが俺の父上はハーケンベルクの皇帝陛下だぜ、間違いなくな。テッサリアはあれで一途だからなぁ。『あたしはあんたに最高の遺伝子を獲得してやったわ、ハーケンベルクのね!』って、耳にタコが出来るっつーの」
「でもテッサリアは凄いよ、ヴィンスと一緒でめんどくさいこと大っ嫌いでさ、ヴィンスの父親が皇帝陛下じゃないなんて不名誉な噂が立ったら、かっこよく啖呵切ったもんね! 知ってる? 『ヴィンスの父親? 誰だったかしら、あたしに夢中の男がたくさんいすぎて忘れたわ! でも、陛下が認めていらっしゃるなら、陛下に違いないわね? 伝統あるフォレスト家のテッサリアは逃げも隠れもしないわよ、気に入らないなら陛下に伺いなさいな! ついでに、こんなところまでご苦労様ですこと、ヴァルキュリア霊峰の湧き水をどうぞご堪能なさって♪』って、人の足を引っ張るやつらに、冷水をぶっかけたの! 伯爵様でも侯爵様でもお構いなし! その翌日には、陛下が大輪の薔薇の花束を抱えて、テッサリアの別荘にいらしたんだって。ほんと、すっごいよねぇ♪ テッサリアはアーシャ様とは別の意味で伝説だよ」
「それ、凄いな。ていうか、テッサリア様のこと、何でマリまで呼び捨てなの?」
「えっ……、えぇと、おかしいかな? だって、ヴィンスがテッサリアって呼ぶんだもん。テッサリア、僕がテッサリアって呼んでも気にしないよ」
「ゼルダ、堅いこと言わんでいい。俺もテッサリアもめんどくせぇのは嫌いだ。おまえも、畏敬と親愛を込めてテッサリアと呼んでいいぞ。ただし、敬称は略しても、敬意は略すなよな」
ゼルダは神妙にうなずいた。
「いずれ、テッサリアが伝説だとしてもだな。俺が妾腹なのは揺るぎのない事実だ。いくら最年長の皇子だって、正嫡のガーディナやゼルダを差し置いて俺を皇太子にとか、父上は気でも違ったんじゃねーかと思ったぜ。だが、俺は悟ったんだ、父上の本音ってゆーの? 悪の高笑いが聞こえたぜ? 『ハーッハッハッハ、ヴィンス! さぁ、この父の名に恥じぬ教養を身につけるため、あがき苦しむがいい! 帝王学全二十六巻、完璧に修了したあかつきには帝位をくれてやろう!』だぜ!? 俺の帝王学の書物の山は、十八年間、書棚の肥やしだったのに! こんなもん修める気になるガーディナとゼルダはどうかしてる、称賛すべきイカレ具合だ、褒めてんだ俺は」
「えぇ!? ヴィンスってば、そんなことしてたの!? それで皇子様親衛隊なの!? なんてやり口だ!」
そういうのって罪つくりだよと、マリはお叱りだ。
「あのなぁ!? お子様ランチ!」
頭痛を覚えたゼルダが額を押さえて、そもそもの話の続きを促しかけると、それを見越したようにクローヴィンスが話を戻した。
「さて、本題だな。帝王学やら宮廷儀礼やら、とっくに修了してるヴァン・ガーディナと俺が競うためには、死に物狂いで、俺もそれを修めないとならない」
傲慢な笑みを浮かべるクローヴィンスは、それに怯んではいないようだった。
「ゼルダ、そうして欲しいか」
どう、答えられただろう。現在、皇位継承権第一位のクローヴィンスが皇太子を望まないなど、ゼルダは考えもしなかったのだ。
皇太子を望めば、その地位が確たるものになるほど、皇妃に命を狙われることになる。それと承知で――
ゼルダが浮かべた苦渋の表情に、クローヴィンスは察したようだった。
「皇妃様に狙われるとかは、気にしなくていいぞ。俺も、皇妃様のなさりようは気に食わない。そういう意味では、ヴァン・ガーディナに皇太子を譲るのはどうかと思うけどな」
「兄上、知って――!?」
「ヴィンスでいい。俺はこれでも皇子だし、テッサリアに仕込まれたんだ、知ってるぜ」
テッサリアはクローヴィンスの母妃で、元は女官長を務めていた女性だ。
「――ヴィンス、それは、気にするなと言われたって!」
クローヴィンスの隣から、マリが大丈夫だよとウィンクした。
「ゼルダ兄様、ヴィンスの命は、割と安泰なんだ。父上の子じゃないって噂があるし」
驚いて、ゼルダはクローヴィンスを凝視した。そんな噂は初耳だ。
「ゼルダ、言っとくが俺の父上はハーケンベルクの皇帝陛下だぜ、間違いなくな。テッサリアはあれで一途だからなぁ。『あたしはあんたに最高の遺伝子を獲得してやったわ、ハーケンベルクのね!』って、耳にタコが出来るっつーの」
「でもテッサリアは凄いよ、ヴィンスと一緒でめんどくさいこと大っ嫌いでさ、ヴィンスの父親が皇帝陛下じゃないなんて不名誉な噂が立ったら、かっこよく啖呵切ったもんね! 知ってる? 『ヴィンスの父親? 誰だったかしら、あたしに夢中の男がたくさんいすぎて忘れたわ! でも、陛下が認めていらっしゃるなら、陛下に違いないわね? 伝統あるフォレスト家のテッサリアは逃げも隠れもしないわよ、気に入らないなら陛下に伺いなさいな! ついでに、こんなところまでご苦労様ですこと、ヴァルキュリア霊峰の湧き水をどうぞご堪能なさって♪』って、人の足を引っ張るやつらに、冷水をぶっかけたの! 伯爵様でも侯爵様でもお構いなし! その翌日には、陛下が大輪の薔薇の花束を抱えて、テッサリアの別荘にいらしたんだって。ほんと、すっごいよねぇ♪ テッサリアはアーシャ様とは別の意味で伝説だよ」
「それ、凄いな。ていうか、テッサリア様のこと、何でマリまで呼び捨てなの?」
「えっ……、えぇと、おかしいかな? だって、ヴィンスがテッサリアって呼ぶんだもん。テッサリア、僕がテッサリアって呼んでも気にしないよ」
「ゼルダ、堅いこと言わんでいい。俺もテッサリアもめんどくせぇのは嫌いだ。おまえも、畏敬と親愛を込めてテッサリアと呼んでいいぞ。ただし、敬称は略しても、敬意は略すなよな」
ゼルダは神妙にうなずいた。
「いずれ、テッサリアが伝説だとしてもだな。俺が妾腹なのは揺るぎのない事実だ。いくら最年長の皇子だって、正嫡のガーディナやゼルダを差し置いて俺を皇太子にとか、父上は気でも違ったんじゃねーかと思ったぜ。だが、俺は悟ったんだ、父上の本音ってゆーの? 悪の高笑いが聞こえたぜ? 『ハーッハッハッハ、ヴィンス! さぁ、この父の名に恥じぬ教養を身につけるため、あがき苦しむがいい! 帝王学全二十六巻、完璧に修了したあかつきには帝位をくれてやろう!』だぜ!? 俺の帝王学の書物の山は、十八年間、書棚の肥やしだったのに! こんなもん修める気になるガーディナとゼルダはどうかしてる、称賛すべきイカレ具合だ、褒めてんだ俺は」
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