19 / 91
第二章 フォアローゼス
2-1c. フォアローゼス 【わがままな皇太子候補たち】
しおりを挟む
「ヴィンスったら大袈裟じゃなく、書物は読む気ないんだよ。歴史書のひいおじい様の肖像画とかに落書きしてて、テッサリアにすごい大目玉喰らってたもの。しかも、反省したかと思ったら、こないだなんて僕の本にまで変な落書きしたんだよ!? ひどいんだから、もう最悪だよ! よりによって神聖なカムラ法典にひわいな落書きだなんて! 無駄に上手いから余計に腹が立つよ!!」
「――それは、なんていうか、ヴィンスにちょっと師事してみたいな♡」
「ゼルダ兄様ぁ!!」
マリが可愛らしく、ほっぺたをぷうと膨らませて怒った。
「おぉ、ゼルダはやっぱり話がわかる。いか様でも後宮持ちはお子様とは違うな♡」
いか様ゆーな。
「まぁ、それでも、俺はガーディナに勝てねぇとは思ってねぇけどな。ゼルダ、おまえがどうしても望むなら、俺は皇太子を狙ってやるし、これからガーディナにも会ってみてだな。俺の剣を捧げるにふさわしくねぇ奴だったら、ゼルダ、俺はおまえが皇太子になるのを支持してやってもいいんだぜ?」
「えぇっ!? ちょっと、何で私なんですか!」
「おまえな、何でじゃねぇだろ! 正嫡の皇子のくせに、皇帝になりたいと思ったことねぇのか!」
「あるわけないでしょう、優秀で立派な兄皇子が四人もいるのに! あ、ヴィンスは微妙だと会ってみて思ったけど!」
だいたい、どうしてヴァン・ガーディナに勝つ気なのだろう。この長兄、帝王学の全二十六巻と言わず、第一巻も修了できないんじゃないの。
「ヴィンス、貴方が勝つ方法は?」
「ガーディナは優秀らしいが、統率力ねぇだろ? 致命的だぞ、奴がそれを克服しない限りは、正攻法でいい勝負だな」
目から鱗が落ちるとは、このことか。
ヴァン・ガーディナは決して、他人前に立てないわけではないから、ゼルダの目には盲点だったのだ。
兄皇子が何かを主張したり、望んだり、民衆を統率して事業を成し遂げたりしたことは、指摘されてみれば、ゼルダの記憶には皆無だった。
なぜ、いつもゼルダにやらせるのかなと思っていたのだ。まさか、クローヴィンスの言う通り、出来ないのか。
そんな馬鹿な、あの優秀さで出来ないわけがない、怠慢じゃないの?
「俺も、勝ちに行くなら、人の話を聞けって言われるのを何とかしねぇとな。だから、ガーディナがいい奴だったら、皇帝になろうと努力するのが、まず、めんどくせぇだろ?」
「聞きなよ、それは!」
マリが嘆いた。なるほど、書物に目を通すのも、他人の話を聞くのと同じことだ。目を使うか耳を使うかの違いに過ぎない。どちらも面倒くさいと。
クローヴィンスは人の話を聞くのが嫌いで、ヴァン・ガーディナは人に話をするのが嫌い、なんて我が侭な皇太子候補たちなのか。
けれど、ヴァン・ガーディナは話術そのものは巧みだし、観衆の視線を独占しながら、優雅に踊ることさえ出来るのだ。
統率だけが出来ないなんてこと、あるだろうか。やっぱり、怠慢じゃないの?
「ゼルダ、誰か来ているのか?」
「――それは、なんていうか、ヴィンスにちょっと師事してみたいな♡」
「ゼルダ兄様ぁ!!」
マリが可愛らしく、ほっぺたをぷうと膨らませて怒った。
「おぉ、ゼルダはやっぱり話がわかる。いか様でも後宮持ちはお子様とは違うな♡」
いか様ゆーな。
「まぁ、それでも、俺はガーディナに勝てねぇとは思ってねぇけどな。ゼルダ、おまえがどうしても望むなら、俺は皇太子を狙ってやるし、これからガーディナにも会ってみてだな。俺の剣を捧げるにふさわしくねぇ奴だったら、ゼルダ、俺はおまえが皇太子になるのを支持してやってもいいんだぜ?」
「えぇっ!? ちょっと、何で私なんですか!」
「おまえな、何でじゃねぇだろ! 正嫡の皇子のくせに、皇帝になりたいと思ったことねぇのか!」
「あるわけないでしょう、優秀で立派な兄皇子が四人もいるのに! あ、ヴィンスは微妙だと会ってみて思ったけど!」
だいたい、どうしてヴァン・ガーディナに勝つ気なのだろう。この長兄、帝王学の全二十六巻と言わず、第一巻も修了できないんじゃないの。
「ヴィンス、貴方が勝つ方法は?」
「ガーディナは優秀らしいが、統率力ねぇだろ? 致命的だぞ、奴がそれを克服しない限りは、正攻法でいい勝負だな」
目から鱗が落ちるとは、このことか。
ヴァン・ガーディナは決して、他人前に立てないわけではないから、ゼルダの目には盲点だったのだ。
兄皇子が何かを主張したり、望んだり、民衆を統率して事業を成し遂げたりしたことは、指摘されてみれば、ゼルダの記憶には皆無だった。
なぜ、いつもゼルダにやらせるのかなと思っていたのだ。まさか、クローヴィンスの言う通り、出来ないのか。
そんな馬鹿な、あの優秀さで出来ないわけがない、怠慢じゃないの?
「俺も、勝ちに行くなら、人の話を聞けって言われるのを何とかしねぇとな。だから、ガーディナがいい奴だったら、皇帝になろうと努力するのが、まず、めんどくせぇだろ?」
「聞きなよ、それは!」
マリが嘆いた。なるほど、書物に目を通すのも、他人の話を聞くのと同じことだ。目を使うか耳を使うかの違いに過ぎない。どちらも面倒くさいと。
クローヴィンスは人の話を聞くのが嫌いで、ヴァン・ガーディナは人に話をするのが嫌い、なんて我が侭な皇太子候補たちなのか。
けれど、ヴァン・ガーディナは話術そのものは巧みだし、観衆の視線を独占しながら、優雅に踊ることさえ出来るのだ。
統率だけが出来ないなんてこと、あるだろうか。やっぱり、怠慢じゃないの?
「ゼルダ、誰か来ているのか?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。
石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。
ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。
そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。
真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる