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第二章 フォアローゼス
2-1g. フォアローゼス【籠絡したのは】
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耳元に触れた、優しい感触。
「んっ……」
解放されても、ゼルダにはしばらく、兄皇子がしたこと、囁かれた言葉の意味が、どちらもわからなかった。
「ま、待て! ヴァン・ガーディナ、いくらなんでもそれは!! 兄弟として間違ってる、正気に返ろうぜ!?」
「ふふ、ヴィンスとマリが仲の良さを誇示するから、ゼルダが拗ねたんでしょう? 宥めましたが何か?」
「その刃物はなんだ!」
ヴァン・ガーディナはひどく甘やかに、艶やかに笑った。さすが、ゼルシアの皇子だと、クローヴィンスもマリも戦慄した。
「ゼルダ、私がゼルダを傷つけないこと、知っているよな。殺されるとは、思わなかっただろう?」
「ガーディナ、馬鹿言うな! ゼルダ、真っ青だったぞ!」
ヴァン・ガーディナは麗しく笑うと、クローヴィンスに答える代わりに、よどみなくゼルダに問いかけた。
「私に憎まれていたら、悲しいものな? ゼルダ、愛しているよ」
ゼルダを捕らえたことに気をよくしたのか、ヴァン・ガーディナがゼルダの耳元に二度目のキスを落として、余裕のないゼルダの苦しげな様子を堪能してから、その腕を解いた。
「――っ……」
ゼルダは頭の芯が痺れたようになって、紅潮した顔を指で覆った。もともとが美貌の少年なので、見ていた皇子二人には、さらに衝撃だった。
「うっわ、ガーディナ兄様、ゼルダ兄様とそういう関係……!?」
「マリ、驚いたの? いつも、ゼルダには目を掛けて、可愛がっているよ。ゼルダも、跪いて私に忠誠を誓えるようになった」
「――っ!」
また、別種の緊張が走った。
確かめるべきか、確かめてはならないのか、間違えればゼルダが血に染まる局面で、クローヴィンスが慎重な声音で問い掛けた。
「ヴァン・ガーディナ、もしも、ゼルシア様がゼルダを手に掛けようとしたら――?」
静かに瞳を翳らせ、ヴァン・ガーディナは優麗で哀切な微笑を浮かべた。
「もう、ずっと、ゼルダを守っています。確かではないけど、私の命を盾にすれば、母上もあまり無理なことはなさらない」
マリが素直に驚嘆して、目を見張った。
「すごいや、ガーディナ兄様、ゼルダ兄様のこと、本当に愛してるんだね!」
ヴァン・ガーディナが驚いた表情をして、やがて、想いが零れるような微笑みを見せた。
「愛しているよ。私は、アーシャ様にも憧れていたから」
クローヴィンスとマリも、ようやく心底ほっとして、手を打ち合って握りこぶしを突き上げた。
「ゼルダ、聞くまでもないだろうが、はっきりさせておこうぜ。本音で答えろ。ヴァン・ガーディナが皇太子に立つことに、異論はないな?」
ゼルダは幾ばくかの葛藤の後、観念したように、異論のない旨を認めた。少し、恨みがましくヴァン・ガーディナを見る。優しく微笑みかけられると、また頬が紅潮して、なんだか色仕掛けで籠絡されたみたいだ。
そもそも、ゼルダの方から兄皇子の愛情を求めたことなど、力いっぱい棚上げなのだった。
「さすが、アーシャ様の皇子だな、ヴァン・ガーディナを籠絡するか」
「ヴィンス……?」
「何だその、きょとんとした顔。たった今、俺が確かめてやったろ、どっちがどっちを籠絡したのか」
「――えぇ!? 僕も気付かなかったよ! ていうか、ガーディナ兄様がゼルダ兄様を落としたんでしょ?」
「馬鹿だな、たった今、ガーディナがゼルダに落とされたって、認めたろ。これだからお子様は……」
「ええぇえ!? ガーディナ兄様、ガーディナ兄様が、ゼルダ兄様に落とされたの!?」
マリのみならず、ゼルダも目を見張った。ヴァン・ガーディナを籠絡した覚えなど、断じてない。
「――ヴィンス、気付かないマリにまで教えるのやめてくれないか」
「ほら」
「わぁ、ほんとだ!」
「ガーディナも、いいことあったんだから、堅いこと言いっこなしだぜ」
「――何があった? ゼルダに耳キスくらい、しようと思えばいつでも出来るよ」
「どあほぅ! おまえ、なんつーことをっ……! そこら辺はおまえ、正気に返ろうぜ!? いくら類稀な美貌でも、ゼルダは弟皇子! ガーディナ、頼むから正気に返って、綺麗な女に惚れるんだ!!」
腹の底から主張した後、クローヴィンスは言いたくなさそうに嘆息した。
「まぁ、なんだ。いいことってのは、おまえ、片想いじゃなかったって、わかっただろうに?」
「――え?」
「え、じゃねぇ。ゼルダの反応、半端なかっただろ。あげく、おまえが皇帝になって構わないときたんだぞ」
「――あ、そうか」
「おまえ時々、へんなトコ抜けてんのな」
「んっ……」
解放されても、ゼルダにはしばらく、兄皇子がしたこと、囁かれた言葉の意味が、どちらもわからなかった。
「ま、待て! ヴァン・ガーディナ、いくらなんでもそれは!! 兄弟として間違ってる、正気に返ろうぜ!?」
「ふふ、ヴィンスとマリが仲の良さを誇示するから、ゼルダが拗ねたんでしょう? 宥めましたが何か?」
「その刃物はなんだ!」
ヴァン・ガーディナはひどく甘やかに、艶やかに笑った。さすが、ゼルシアの皇子だと、クローヴィンスもマリも戦慄した。
「ゼルダ、私がゼルダを傷つけないこと、知っているよな。殺されるとは、思わなかっただろう?」
「ガーディナ、馬鹿言うな! ゼルダ、真っ青だったぞ!」
ヴァン・ガーディナは麗しく笑うと、クローヴィンスに答える代わりに、よどみなくゼルダに問いかけた。
「私に憎まれていたら、悲しいものな? ゼルダ、愛しているよ」
ゼルダを捕らえたことに気をよくしたのか、ヴァン・ガーディナがゼルダの耳元に二度目のキスを落として、余裕のないゼルダの苦しげな様子を堪能してから、その腕を解いた。
「――っ……」
ゼルダは頭の芯が痺れたようになって、紅潮した顔を指で覆った。もともとが美貌の少年なので、見ていた皇子二人には、さらに衝撃だった。
「うっわ、ガーディナ兄様、ゼルダ兄様とそういう関係……!?」
「マリ、驚いたの? いつも、ゼルダには目を掛けて、可愛がっているよ。ゼルダも、跪いて私に忠誠を誓えるようになった」
「――っ!」
また、別種の緊張が走った。
確かめるべきか、確かめてはならないのか、間違えればゼルダが血に染まる局面で、クローヴィンスが慎重な声音で問い掛けた。
「ヴァン・ガーディナ、もしも、ゼルシア様がゼルダを手に掛けようとしたら――?」
静かに瞳を翳らせ、ヴァン・ガーディナは優麗で哀切な微笑を浮かべた。
「もう、ずっと、ゼルダを守っています。確かではないけど、私の命を盾にすれば、母上もあまり無理なことはなさらない」
マリが素直に驚嘆して、目を見張った。
「すごいや、ガーディナ兄様、ゼルダ兄様のこと、本当に愛してるんだね!」
ヴァン・ガーディナが驚いた表情をして、やがて、想いが零れるような微笑みを見せた。
「愛しているよ。私は、アーシャ様にも憧れていたから」
クローヴィンスとマリも、ようやく心底ほっとして、手を打ち合って握りこぶしを突き上げた。
「ゼルダ、聞くまでもないだろうが、はっきりさせておこうぜ。本音で答えろ。ヴァン・ガーディナが皇太子に立つことに、異論はないな?」
ゼルダは幾ばくかの葛藤の後、観念したように、異論のない旨を認めた。少し、恨みがましくヴァン・ガーディナを見る。優しく微笑みかけられると、また頬が紅潮して、なんだか色仕掛けで籠絡されたみたいだ。
そもそも、ゼルダの方から兄皇子の愛情を求めたことなど、力いっぱい棚上げなのだった。
「さすが、アーシャ様の皇子だな、ヴァン・ガーディナを籠絡するか」
「ヴィンス……?」
「何だその、きょとんとした顔。たった今、俺が確かめてやったろ、どっちがどっちを籠絡したのか」
「――えぇ!? 僕も気付かなかったよ! ていうか、ガーディナ兄様がゼルダ兄様を落としたんでしょ?」
「馬鹿だな、たった今、ガーディナがゼルダに落とされたって、認めたろ。これだからお子様は……」
「ええぇえ!? ガーディナ兄様、ガーディナ兄様が、ゼルダ兄様に落とされたの!?」
マリのみならず、ゼルダも目を見張った。ヴァン・ガーディナを籠絡した覚えなど、断じてない。
「――ヴィンス、気付かないマリにまで教えるのやめてくれないか」
「ほら」
「わぁ、ほんとだ!」
「ガーディナも、いいことあったんだから、堅いこと言いっこなしだぜ」
「――何があった? ゼルダに耳キスくらい、しようと思えばいつでも出来るよ」
「どあほぅ! おまえ、なんつーことをっ……! そこら辺はおまえ、正気に返ろうぜ!? いくら類稀な美貌でも、ゼルダは弟皇子! ガーディナ、頼むから正気に返って、綺麗な女に惚れるんだ!!」
腹の底から主張した後、クローヴィンスは言いたくなさそうに嘆息した。
「まぁ、なんだ。いいことってのは、おまえ、片想いじゃなかったって、わかっただろうに?」
「――え?」
「え、じゃねぇ。ゼルダの反応、半端なかっただろ。あげく、おまえが皇帝になって構わないときたんだぞ」
「――あ、そうか」
「おまえ時々、へんなトコ抜けてんのな」
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