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第四章 悪夢の夜
4-3d. 逃亡者【二人目】
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「ゼルダ様!」
その夜、ゼルダが帰邸するやいなや、アデリシアが泣いて抗議した。
「アデリシアがいるのに、お姉様をご正妃になさるのですか!? お姉様のお子様は、ザルマーク皇子のお子様ですのに!」
「えっ……!? ちょっと、待って、落ち着いて話そう」
ゼルダは驚きを隠せなかった。シルフィスが妬くならともかく、アデリシアの姉姫なのだ。丁重に遇して、まさか、アデリシアから文句が出るとは思わなかった。
「えぇと、あれ? 誰が言ったの? 私が、アデリを押しのけてカレンを正妃にするって……?」
カレンお姉様がと言いかけて、アデリシアはようやく、そんなこと、言われていないのだと思い至った。
「えっと、誰も、言わなかったみたいです……? でも、カレンお姉様が、ゼルダ様がカレンお姉様をご正妃に迎えて、お子様に家督を継がせてもいいと言ったって!」
ゼルダは真摯に頷いた。
「うん、それは言ったよ。だって、カレンが酷い目に遭ったのは、私が皇妃の身辺を探って欲しいなんて、カレンに頼んでしまったからなんだ。それに、カレンのお腹の子は、私にとっても大切な、甥っ子か姪っ子だもの。アデリなら、私がそういうつもりの方が、安心してくれると思ったんだけど」
アデリシアはみるみる、恥ずかしい気持ちになってしゅんとした。カレンが大変な時に、誰も取り上げるなんて言わなかったのに、自分の心配ばかりしていたのだ。
「アデリ、嫌な子です……。きっと、ゼルダ様もカレンお姉様の方がいいなって思われて、それで……」
ぼろぼろ、涙を落とすアデリシアの頭を、ゼルダが優しく撫でた。
「そんなのじゃないよ。私がカレンを大切にするのは、アデリの姉姫だからだろう? それに、アデリは私の傍で、怖くはないの? 私は君を精一杯、大切にしたいと思っているよ。だけど私は、アルディナン兄様も、ザルマーク兄様も、守れずに失ったのに――」
アデリシアはふるふると、かぶりを振った。
「ゼルダ様、アデリは怖くありませんわ。アデリが、ゼルダ様を守ってあげたいです」
ふっと、嬉しそうにゼルダが微笑んだ。
「ありがとう。サンジェニでも、そう言ってくれたよね。私は、アデリが大好きだよ。でも、カレンまで巻き込んで、自分があんまり愚かで――」
私は怖いなと、ゼルダは自嘲気味に、ほろ苦くアデリシアに笑いかけた。
「アデリも、よく考えて欲しい。まだ二年あるから。――それからね、カレンはグーデンバーグで亡くなったことになっているんだ。侯爵には内々に、私が直に会って話そうと思っているけど。このままの方が、カレンの身は安全なんだ。せめて、カレンが無事に兄上の御子を産めるまでは、アデリも絶対に黙っていて。カレンは『ここにいない』、わかるよね?」
ゼルダがいつになく真剣な様子なので、アデリシアも大変なことなのだと思い、ごくんと唾を呑んで頷いた。
「ありがとう、大好きだよ、アデリ。それから、私にシルフィスの他にも、側室がいるのは知っていたよね。リディアージュって言うんだけど、こちらに呼び寄せようと思うんだ」
そこまで話したゼルダが、その、なんていうのかなと、言いにくそうに口ごもった。
「……?」
アデリシアは寂しいような、不安なような気持ちがして、眉間をしおしおさせた。
正妃とは言え、白い結婚だ。
ゼルダに手を出してもらえないアデリシアの立場は、まだまだ、心許ないものなのだ。
「二人目、妊娠させちゃった……♡」
何だか、アデリシアは骨髄反射で、超ぐーでゼルダをやっつけたのだった。
その夜、ゼルダが帰邸するやいなや、アデリシアが泣いて抗議した。
「アデリシアがいるのに、お姉様をご正妃になさるのですか!? お姉様のお子様は、ザルマーク皇子のお子様ですのに!」
「えっ……!? ちょっと、待って、落ち着いて話そう」
ゼルダは驚きを隠せなかった。シルフィスが妬くならともかく、アデリシアの姉姫なのだ。丁重に遇して、まさか、アデリシアから文句が出るとは思わなかった。
「えぇと、あれ? 誰が言ったの? 私が、アデリを押しのけてカレンを正妃にするって……?」
カレンお姉様がと言いかけて、アデリシアはようやく、そんなこと、言われていないのだと思い至った。
「えっと、誰も、言わなかったみたいです……? でも、カレンお姉様が、ゼルダ様がカレンお姉様をご正妃に迎えて、お子様に家督を継がせてもいいと言ったって!」
ゼルダは真摯に頷いた。
「うん、それは言ったよ。だって、カレンが酷い目に遭ったのは、私が皇妃の身辺を探って欲しいなんて、カレンに頼んでしまったからなんだ。それに、カレンのお腹の子は、私にとっても大切な、甥っ子か姪っ子だもの。アデリなら、私がそういうつもりの方が、安心してくれると思ったんだけど」
アデリシアはみるみる、恥ずかしい気持ちになってしゅんとした。カレンが大変な時に、誰も取り上げるなんて言わなかったのに、自分の心配ばかりしていたのだ。
「アデリ、嫌な子です……。きっと、ゼルダ様もカレンお姉様の方がいいなって思われて、それで……」
ぼろぼろ、涙を落とすアデリシアの頭を、ゼルダが優しく撫でた。
「そんなのじゃないよ。私がカレンを大切にするのは、アデリの姉姫だからだろう? それに、アデリは私の傍で、怖くはないの? 私は君を精一杯、大切にしたいと思っているよ。だけど私は、アルディナン兄様も、ザルマーク兄様も、守れずに失ったのに――」
アデリシアはふるふると、かぶりを振った。
「ゼルダ様、アデリは怖くありませんわ。アデリが、ゼルダ様を守ってあげたいです」
ふっと、嬉しそうにゼルダが微笑んだ。
「ありがとう。サンジェニでも、そう言ってくれたよね。私は、アデリが大好きだよ。でも、カレンまで巻き込んで、自分があんまり愚かで――」
私は怖いなと、ゼルダは自嘲気味に、ほろ苦くアデリシアに笑いかけた。
「アデリも、よく考えて欲しい。まだ二年あるから。――それからね、カレンはグーデンバーグで亡くなったことになっているんだ。侯爵には内々に、私が直に会って話そうと思っているけど。このままの方が、カレンの身は安全なんだ。せめて、カレンが無事に兄上の御子を産めるまでは、アデリも絶対に黙っていて。カレンは『ここにいない』、わかるよね?」
ゼルダがいつになく真剣な様子なので、アデリシアも大変なことなのだと思い、ごくんと唾を呑んで頷いた。
「ありがとう、大好きだよ、アデリ。それから、私にシルフィスの他にも、側室がいるのは知っていたよね。リディアージュって言うんだけど、こちらに呼び寄せようと思うんだ」
そこまで話したゼルダが、その、なんていうのかなと、言いにくそうに口ごもった。
「……?」
アデリシアは寂しいような、不安なような気持ちがして、眉間をしおしおさせた。
正妃とは言え、白い結婚だ。
ゼルダに手を出してもらえないアデリシアの立場は、まだまだ、心許ないものなのだ。
「二人目、妊娠させちゃった……♡」
何だか、アデリシアは骨髄反射で、超ぐーでゼルダをやっつけたのだった。
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