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第二章 白馬の王子様
第45話 それでも町人Sの答えは変わらない【後編】
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「デゼル、ラクになった?」
デゼルがこくんとうなずいた。
「サイファ様、あの……」
「気分のいいものじゃないけど、仕方がないよ。デゼルが初めて、僕にキスしてくれた日のことを覚えてる?」
うなずいた後、デゼルがようやく、顔を上げて僕を見てくれたから。
不思議だね。
それだけで、僕はデゼルに優しく笑いかける気持ちになれた。
ううん、それだけなんて、ささやかなことじゃないのかもしれない。
デゼルの瞳はそれでも、ガゼル様じゃなくて僕を追ったんだ。
「僕が選んだんだ、逃げずに、公国を滅ぼされないように闘おうって。ガゼル様に忠誠を誓ったのも、その場凌ぎのことではないよ。あの方のすることなら、必ず、意味があると感じるんだ。実際、ガゼル様は闇の神オプスキュリテをデゼルに降ろした。そして、公国が滅亡する運命を知られた。それを間違いだと、僕は思わないよ。デゼルに触れて欲しくは、なかったけど」
「サイファ様……」
デゼル、ガゼル様に淀みなく答えてた。
僕とガゼル様が視たより、もっと、デゼルは知っていたのかもしれない。
これまで、あの華奢な肩にひとりで背負い込んできたのなら――
どんなに、重かっただろう。
デゼルがぎゅっと、僕にしがみついてきたから、僕ももう、遠慮しないで抱き締めた。
「デゼル、僕とガゼル様だけが、公国の運命を見たようなんだ。さっき、ガゼル様が聞いたこと、僕もデゼルに聞きたかった。公国が三年後に滅ぶとは聞いていたけど――デゼルがどんな目に遭わされるかまでは、聞いていなかった」
「……」
「デゼル、知っているって、本当なんだね?」
デゼルがささやくような小さな声で、うん、と答えたから。
僕はたまらなくなって、渾身の力でデゼルを抱き締めてた。
僕は――
僕はなんてかんたんに、逃げずに闘おうなんて言ったんだろう。
デゼルはどうして、できないって、怖いって、言わなかったんだろう。
デゼルが公国を見捨てて逃げ出すような闇巫女様だったら――
闇の神様の加護さえなくした公国は、なすすべなく、滅ぶしかなかったんだ。
闇主の顔は見えなかった。
きっと、ガゼル様がデゼルの闇主になるはずだったのに、僕が運命に割り込んでしまったから――
「ごめん、デゼル。僕にとって、一番、大切なのはデゼルだよ。それでも僕は――デゼルと僕だけが助かればいいとは思えないんだ。運命を変えられなかった時に、デゼルがあんな惨い目に遭うなんて知らなくて、一緒に闘おうなんて綺麗事を言って。でも、知っても僕の答えは変わらないんだ」
できないなんて、怖いなんて、逃げ出したいなんて。
デゼルに言えるはずがなかったんだ。
僕やジャイロやスニールみたいな、取るに足らない公民の一人一人にまで、デゼルは優しいんだから。
運命を変えられなかった時、デゼルがどれほど残酷な目に遭わされるのか。
知っていて、デゼルが誰のために、何のために――
デゼルは怖がりなのに、最初からずっと、震える小さな手で、僕の手を握り締めて闘ってくれてたんだ。
それを思い出したら、もう、たまらなかった。
泣いても何にもならないのに、後から後から涙がこぼれた。
「サイファ様、私、逃げたいなんて思ってないよ。私もサイファ様と同じだよ。クライス様とティニーの運命は変えられたもの。みんなで助かろうね。私、サイファ様に一緒に闘って欲しい。最後まで、私の傍にいて欲しい」
デゼルだって泣いてて、声だって震えてるのに。
まだ、こんなこと言うんだ。
「必ずいる、最後まで、デゼルの傍に。僕がデゼルを守るよ」
嬉しそうに、頬をすり寄せてくるデゼルが愛しくて。
僕はもう、手加減もできずに渾身の力でデゼルを抱き締めてた。
守ってあげたい。
闇の神様に視せられたような目には、絶対にデゼルを遭わせたくない。
あんなふうには、絶対にデゼルを死なせたくない。
デゼルがこくんとうなずいた。
「サイファ様、あの……」
「気分のいいものじゃないけど、仕方がないよ。デゼルが初めて、僕にキスしてくれた日のことを覚えてる?」
うなずいた後、デゼルがようやく、顔を上げて僕を見てくれたから。
不思議だね。
それだけで、僕はデゼルに優しく笑いかける気持ちになれた。
ううん、それだけなんて、ささやかなことじゃないのかもしれない。
デゼルの瞳はそれでも、ガゼル様じゃなくて僕を追ったんだ。
「僕が選んだんだ、逃げずに、公国を滅ぼされないように闘おうって。ガゼル様に忠誠を誓ったのも、その場凌ぎのことではないよ。あの方のすることなら、必ず、意味があると感じるんだ。実際、ガゼル様は闇の神オプスキュリテをデゼルに降ろした。そして、公国が滅亡する運命を知られた。それを間違いだと、僕は思わないよ。デゼルに触れて欲しくは、なかったけど」
「サイファ様……」
デゼル、ガゼル様に淀みなく答えてた。
僕とガゼル様が視たより、もっと、デゼルは知っていたのかもしれない。
これまで、あの華奢な肩にひとりで背負い込んできたのなら――
どんなに、重かっただろう。
デゼルがぎゅっと、僕にしがみついてきたから、僕ももう、遠慮しないで抱き締めた。
「デゼル、僕とガゼル様だけが、公国の運命を見たようなんだ。さっき、ガゼル様が聞いたこと、僕もデゼルに聞きたかった。公国が三年後に滅ぶとは聞いていたけど――デゼルがどんな目に遭わされるかまでは、聞いていなかった」
「……」
「デゼル、知っているって、本当なんだね?」
デゼルがささやくような小さな声で、うん、と答えたから。
僕はたまらなくなって、渾身の力でデゼルを抱き締めてた。
僕は――
僕はなんてかんたんに、逃げずに闘おうなんて言ったんだろう。
デゼルはどうして、できないって、怖いって、言わなかったんだろう。
デゼルが公国を見捨てて逃げ出すような闇巫女様だったら――
闇の神様の加護さえなくした公国は、なすすべなく、滅ぶしかなかったんだ。
闇主の顔は見えなかった。
きっと、ガゼル様がデゼルの闇主になるはずだったのに、僕が運命に割り込んでしまったから――
「ごめん、デゼル。僕にとって、一番、大切なのはデゼルだよ。それでも僕は――デゼルと僕だけが助かればいいとは思えないんだ。運命を変えられなかった時に、デゼルがあんな惨い目に遭うなんて知らなくて、一緒に闘おうなんて綺麗事を言って。でも、知っても僕の答えは変わらないんだ」
できないなんて、怖いなんて、逃げ出したいなんて。
デゼルに言えるはずがなかったんだ。
僕やジャイロやスニールみたいな、取るに足らない公民の一人一人にまで、デゼルは優しいんだから。
運命を変えられなかった時、デゼルがどれほど残酷な目に遭わされるのか。
知っていて、デゼルが誰のために、何のために――
デゼルは怖がりなのに、最初からずっと、震える小さな手で、僕の手を握り締めて闘ってくれてたんだ。
それを思い出したら、もう、たまらなかった。
泣いても何にもならないのに、後から後から涙がこぼれた。
「サイファ様、私、逃げたいなんて思ってないよ。私もサイファ様と同じだよ。クライス様とティニーの運命は変えられたもの。みんなで助かろうね。私、サイファ様に一緒に闘って欲しい。最後まで、私の傍にいて欲しい」
デゼルだって泣いてて、声だって震えてるのに。
まだ、こんなこと言うんだ。
「必ずいる、最後まで、デゼルの傍に。僕がデゼルを守るよ」
嬉しそうに、頬をすり寄せてくるデゼルが愛しくて。
僕はもう、手加減もできずに渾身の力でデゼルを抱き締めてた。
守ってあげたい。
闇の神様に視せられたような目には、絶対にデゼルを遭わせたくない。
あんなふうには、絶対にデゼルを死なせたくない。
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