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第二章 白馬の王子様
第45話 それでも町人Sの答えは変わらない【前編】
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「あぁっ!!」
意識を取り戻したデゼルが悲鳴を上げて飛び起きた。
苦しいのか、自分で自分を抱いたデゼルが、ぼろぼろ、涙を落とした。
「デゼル」
僕が声をかけると、びくりとデゼルが身を震わせた。
落ちてきたデゼルを受け止めた後、闇神殿のデゼルの寝室に運んでもらって、僕がずっとついていたんだ。
「サイファ…様……」
泣いてるのに、僕の顔を見ないデゼルは初めてで、胸が痛かった。
「私、どうしたの……? どうなったの……?」
「闇の神オプスキュリテが降りたんだ」
「え……?」
「大丈夫?」
口許を覆ったデゼルが、横にかぶりをふった。
デゼルが大丈夫じゃないなんて答えるのも初めて。
いつも、全然、大丈夫じゃなくても、大丈夫って答えるデゼルが。
大丈夫じゃないって泣くことがあるなんて。
デゼルも視たのかもしれない、僕とガゼル様が闇の神様に視せられた未来――
あれを視たなら、いくらデゼルだって、大丈夫じゃないよ。
死にたいって泣き叫ぶ、まだ十歳のデゼルを。
僕は爪が食い込むくらい、強く、こぶしを握り締めてた。
悪くて汚い男の人達が、かわるがわる、慰み者にして笑ってた。
意味がわからないよ!
なんで――
僕達の公国が滅ぼされて、みんな殺されて、デゼルは殺されるより、もっと酷い目に遭わされないとならないんだ!
「サイファ様、私、苦しいよ……!!」
デゼルを壊してしまいそうだったから、懸命に気持ちを落ち着けて、なるべく優しく抱いてみたんだけど。
いつもなら、僕が抱いてあげればすぐに安心してくれるデゼルが。
そうしてみても、今は、僕の腕の中にいてもラクにならないみたいで、苦しそうな息づかいが鎮まらなかった。
どうしてだろう。
僕の気持ちが乱れてるから?
こんな、僕の方が乱れた気持ちじゃ、抱いてあげてもデゼルを慰められないのかな。
それとも、いくらなんでも酷すぎるから?
あんな酷い目に遭わされて、それでも、僕のために生きてくれようとした、何の悪いこともしないデゼルを。
天使みたいな顔をした人達が、よってたかって、惨殺するのはどうしてなんだ。
あの人達は何なんだろう。
より高次の神って何なんだろう。
外でざわざわと人声がした。
「デゼル!」
ガゼル様の姿と厳しい声に、デゼルが悲鳴を上げて僕にしがみついてきた。
「デゼル、君は――三年後に何が起きるか、知っているのか?」
デゼルが目を見張ってガゼル様を見た。
ガゼル様、すごい。
僕も聞きたくて、でも、聞いたらデゼルをもっと傷つけて、もっと苦しめてしまうかもしれないって、ためらって――
でも、聞かないといけなかったんだ。
今をやり過ごしたら、闇の神様に視せられた通りの未来が待つだけなんだ。
あの未来を現実にしてしまうことだけは、絶対に避けなきゃ。
闇主はきっと、そのためにいるんだから。
公国の滅亡を避けるために必要だから、闇の神様はあの未来を僕とガゼル様に視せたに違いないんだから。
「たとえば、最終的に私や君がどうなるか、公国の末路とか?」
デゼルがうなずくと、真っ青な顔をしたガゼル様が壁にこぶしを打ちつけた。
「あれは……私を斬り殺す黒髪の青年は誰なんだ」
「トランスサタニアン帝国の、皇太子ウラノスの命を受けた、第二皇子ネプチューン」
ガゼル様が鬼気迫る形相になって、デゼルを見た。
「そのネプチューンに会って、どうするつもりでいる?」
「オプスキュリテ公国を滅ぼす意志を持っているのは皇太子ウラノスで、第二皇子ネプチューンにその意志はありません。まずは、ネプチューンとの交渉を」
しばらく考え込んでいたガゼル様が、ふと、デゼルを見て聞いたんだ。
「――もしかして、デゼル、苦しい?」
デゼルがうなずくと、ガゼル様が言いにくそうな様子で僕を見た。
「サイファ、すまない。デゼルにオーブの魔力を与えてしまった」
「オーブ?」
「闇巫女にオプスキュリテを降ろす魔力だと伝承されている。――抜かせてもらうよ」
悲鳴を上げるデゼルを僕の腕の中から取り上げたガゼル様が、もう一度、目を伏せてデゼルに口づけたんだ。
抜くって――
最初は抵抗していたデゼルが、ガゼル様にされるまま、だんだん、おとなしくなるのを見るのは、つらかった。
「じゃあ、また九日に」
ガゼル様を見送ると、僕は何か、いろんな感情がないまぜになった息を吐いた。
意識を取り戻したデゼルが悲鳴を上げて飛び起きた。
苦しいのか、自分で自分を抱いたデゼルが、ぼろぼろ、涙を落とした。
「デゼル」
僕が声をかけると、びくりとデゼルが身を震わせた。
落ちてきたデゼルを受け止めた後、闇神殿のデゼルの寝室に運んでもらって、僕がずっとついていたんだ。
「サイファ…様……」
泣いてるのに、僕の顔を見ないデゼルは初めてで、胸が痛かった。
「私、どうしたの……? どうなったの……?」
「闇の神オプスキュリテが降りたんだ」
「え……?」
「大丈夫?」
口許を覆ったデゼルが、横にかぶりをふった。
デゼルが大丈夫じゃないなんて答えるのも初めて。
いつも、全然、大丈夫じゃなくても、大丈夫って答えるデゼルが。
大丈夫じゃないって泣くことがあるなんて。
デゼルも視たのかもしれない、僕とガゼル様が闇の神様に視せられた未来――
あれを視たなら、いくらデゼルだって、大丈夫じゃないよ。
死にたいって泣き叫ぶ、まだ十歳のデゼルを。
僕は爪が食い込むくらい、強く、こぶしを握り締めてた。
悪くて汚い男の人達が、かわるがわる、慰み者にして笑ってた。
意味がわからないよ!
なんで――
僕達の公国が滅ぼされて、みんな殺されて、デゼルは殺されるより、もっと酷い目に遭わされないとならないんだ!
「サイファ様、私、苦しいよ……!!」
デゼルを壊してしまいそうだったから、懸命に気持ちを落ち着けて、なるべく優しく抱いてみたんだけど。
いつもなら、僕が抱いてあげればすぐに安心してくれるデゼルが。
そうしてみても、今は、僕の腕の中にいてもラクにならないみたいで、苦しそうな息づかいが鎮まらなかった。
どうしてだろう。
僕の気持ちが乱れてるから?
こんな、僕の方が乱れた気持ちじゃ、抱いてあげてもデゼルを慰められないのかな。
それとも、いくらなんでも酷すぎるから?
あんな酷い目に遭わされて、それでも、僕のために生きてくれようとした、何の悪いこともしないデゼルを。
天使みたいな顔をした人達が、よってたかって、惨殺するのはどうしてなんだ。
あの人達は何なんだろう。
より高次の神って何なんだろう。
外でざわざわと人声がした。
「デゼル!」
ガゼル様の姿と厳しい声に、デゼルが悲鳴を上げて僕にしがみついてきた。
「デゼル、君は――三年後に何が起きるか、知っているのか?」
デゼルが目を見張ってガゼル様を見た。
ガゼル様、すごい。
僕も聞きたくて、でも、聞いたらデゼルをもっと傷つけて、もっと苦しめてしまうかもしれないって、ためらって――
でも、聞かないといけなかったんだ。
今をやり過ごしたら、闇の神様に視せられた通りの未来が待つだけなんだ。
あの未来を現実にしてしまうことだけは、絶対に避けなきゃ。
闇主はきっと、そのためにいるんだから。
公国の滅亡を避けるために必要だから、闇の神様はあの未来を僕とガゼル様に視せたに違いないんだから。
「たとえば、最終的に私や君がどうなるか、公国の末路とか?」
デゼルがうなずくと、真っ青な顔をしたガゼル様が壁にこぶしを打ちつけた。
「あれは……私を斬り殺す黒髪の青年は誰なんだ」
「トランスサタニアン帝国の、皇太子ウラノスの命を受けた、第二皇子ネプチューン」
ガゼル様が鬼気迫る形相になって、デゼルを見た。
「そのネプチューンに会って、どうするつもりでいる?」
「オプスキュリテ公国を滅ぼす意志を持っているのは皇太子ウラノスで、第二皇子ネプチューンにその意志はありません。まずは、ネプチューンとの交渉を」
しばらく考え込んでいたガゼル様が、ふと、デゼルを見て聞いたんだ。
「――もしかして、デゼル、苦しい?」
デゼルがうなずくと、ガゼル様が言いにくそうな様子で僕を見た。
「サイファ、すまない。デゼルにオーブの魔力を与えてしまった」
「オーブ?」
「闇巫女にオプスキュリテを降ろす魔力だと伝承されている。――抜かせてもらうよ」
悲鳴を上げるデゼルを僕の腕の中から取り上げたガゼル様が、もう一度、目を伏せてデゼルに口づけたんだ。
抜くって――
最初は抵抗していたデゼルが、ガゼル様にされるまま、だんだん、おとなしくなるのを見るのは、つらかった。
「じゃあ、また九日に」
ガゼル様を見送ると、僕は何か、いろんな感情がないまぜになった息を吐いた。
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