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第三章 闇を彷徨う心を癒したい
第63話 町人Sは悪役令嬢を探し求める
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「グノース――」
僕が『それ』に気がついたのは、その日の午後だった。
ティニーのことに始まり、この三年間、僕達が助けて回った人達のことが詳しく書かれた情報の最後に、デゼルのページがあったんだ。
デゼルは自分のことは、時期と、グノースと書いて×をしているだけだった。
時期の方は、『闇の十二使徒の最後、私が十歳、ユリアが暗殺されるタイミング』と書かれていた。
「ガゼル様、これ……」
「!? グノースに心当たりはないが、念のため、帝国に到着したらすぐ、部下を一人、公国に帰してグノースについて調べさせよう。私達はスノウフェザーの前にネプチューン皇子に会って、ユリア様の安否とグノースについての心当たりを尋ねた方がよさそうだな」
その夜にもまた、デゼルが『夜明けの守護』を使ったらしくて、ガゼル様が急激に体調を悪くしたんだ。
「くそッ! このペースでこれだけ苦しむような目に、デゼルが遭っているのに……!」
その言葉を聞いて、ガゼル様でさえ、どうしようもないんだと知った時。
僕は、もう一つのことに気がついたんだ。
「ガゼル様、デゼルは助けられるはずです。僕達が見せられたデゼルの最期は、十歳には見えませんでした。デゼルは十歳で死ぬ予定ではないはずです」
軽く目を見張ったガゼル様が、うなずいてくれた。
「そうだな、確かに、その通りだ。だが、気を抜くなよ。滅びる予定だった公国が滅ばずに済みそうだということは、するべき努力をしなければ、死ぬ予定のなかったデゼルが死ぬこともあるということだ」
「はい!」
僕は、今ほど、ガゼル様がいて下さることに感謝したことはなかったと思う。
一人だったら、自分の無力に絶望して、途方に暮れるしかなかったんだ。
助けられるデゼルも、きっと、助けられなかった。
「サイファ」
「はい」
「デゼルがどうして君を選んだのか、よく、わかったよ」
「え……?」
ガゼル様が寂しそうに微笑んで、僕を見た。
「サイファが傍にいると安心する。――私では、同じ安心感をデゼルに与えてあげることはできないんだろうな」
「――ガゼル様、デゼルも手紙に書いていたけど、僕も、ガゼル様が治めることになるオプスキュリテ公国に生まれたこと、ガゼル様にお仕えできることを誇りに思い、感謝しています。今、あなたがここにいて下さることにも」
そうか、と、ガゼル様が優しく微笑んでくれた。
すごく綺麗だと、僕はいつも思うんだ。
「ありがとう」
**――*――**
帝国に到着すると、アスタール伯爵家の執事さんが出迎えてくれて、僕達は危惧していた不幸な知らせを聞いた。
二日前に、ユリア様が亡くなってしまっていたんだ。
ウラノス皇太子からオプスキュリテ公国に侵攻するようにとの命令も、それよりも前にネプチューン皇子に出されて、皇子は僕達との約束通り、その命令には従わなかったそうなんだけど。
ネプチューン皇子はクーデターの準備のため天界に向かわれて、城にはいないとのことだった。その間にユリア様に不幸があって、皇子はまだ彼女の死を知らない。
天界がどこにあるのかは、わからない。
いないもの、わからないものは仕方がないから、僕達は諦めて、そのままスノウフェザーに向かったんだ。
帝国の辺境に位置するその寒村に到着すると、クロノスの魔法の扉になる、時の宝玉がある場所を中心に、僕達は懸命に手掛かりを探し回った。
近衛隊の人達にも手伝ってもらって、丸二日かけたけど、手掛かりはついに見つからなかった。もう、デゼルを見失ってから五日が経ってしまったのに。
僕が『それ』に気がついたのは、その日の午後だった。
ティニーのことに始まり、この三年間、僕達が助けて回った人達のことが詳しく書かれた情報の最後に、デゼルのページがあったんだ。
デゼルは自分のことは、時期と、グノースと書いて×をしているだけだった。
時期の方は、『闇の十二使徒の最後、私が十歳、ユリアが暗殺されるタイミング』と書かれていた。
「ガゼル様、これ……」
「!? グノースに心当たりはないが、念のため、帝国に到着したらすぐ、部下を一人、公国に帰してグノースについて調べさせよう。私達はスノウフェザーの前にネプチューン皇子に会って、ユリア様の安否とグノースについての心当たりを尋ねた方がよさそうだな」
その夜にもまた、デゼルが『夜明けの守護』を使ったらしくて、ガゼル様が急激に体調を悪くしたんだ。
「くそッ! このペースでこれだけ苦しむような目に、デゼルが遭っているのに……!」
その言葉を聞いて、ガゼル様でさえ、どうしようもないんだと知った時。
僕は、もう一つのことに気がついたんだ。
「ガゼル様、デゼルは助けられるはずです。僕達が見せられたデゼルの最期は、十歳には見えませんでした。デゼルは十歳で死ぬ予定ではないはずです」
軽く目を見張ったガゼル様が、うなずいてくれた。
「そうだな、確かに、その通りだ。だが、気を抜くなよ。滅びる予定だった公国が滅ばずに済みそうだということは、するべき努力をしなければ、死ぬ予定のなかったデゼルが死ぬこともあるということだ」
「はい!」
僕は、今ほど、ガゼル様がいて下さることに感謝したことはなかったと思う。
一人だったら、自分の無力に絶望して、途方に暮れるしかなかったんだ。
助けられるデゼルも、きっと、助けられなかった。
「サイファ」
「はい」
「デゼルがどうして君を選んだのか、よく、わかったよ」
「え……?」
ガゼル様が寂しそうに微笑んで、僕を見た。
「サイファが傍にいると安心する。――私では、同じ安心感をデゼルに与えてあげることはできないんだろうな」
「――ガゼル様、デゼルも手紙に書いていたけど、僕も、ガゼル様が治めることになるオプスキュリテ公国に生まれたこと、ガゼル様にお仕えできることを誇りに思い、感謝しています。今、あなたがここにいて下さることにも」
そうか、と、ガゼル様が優しく微笑んでくれた。
すごく綺麗だと、僕はいつも思うんだ。
「ありがとう」
**――*――**
帝国に到着すると、アスタール伯爵家の執事さんが出迎えてくれて、僕達は危惧していた不幸な知らせを聞いた。
二日前に、ユリア様が亡くなってしまっていたんだ。
ウラノス皇太子からオプスキュリテ公国に侵攻するようにとの命令も、それよりも前にネプチューン皇子に出されて、皇子は僕達との約束通り、その命令には従わなかったそうなんだけど。
ネプチューン皇子はクーデターの準備のため天界に向かわれて、城にはいないとのことだった。その間にユリア様に不幸があって、皇子はまだ彼女の死を知らない。
天界がどこにあるのかは、わからない。
いないもの、わからないものは仕方がないから、僕達は諦めて、そのままスノウフェザーに向かったんだ。
帝国の辺境に位置するその寒村に到着すると、クロノスの魔法の扉になる、時の宝玉がある場所を中心に、僕達は懸命に手掛かりを探し回った。
近衛隊の人達にも手伝ってもらって、丸二日かけたけど、手掛かりはついに見つからなかった。もう、デゼルを見失ってから五日が経ってしまったのに。
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