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第四章 叶わない願いはないと信じてる
第109話 初めて出会った公園で
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「なんだか、今日はおかしな空の色だね」
十三日目の朝。
窓を開けに立った僕は、湿り気を帯びた奇妙な風と、気味の悪い空の色に、胸が不吉に騒いだ。
デゼルがエトランジュに授乳している間に、僕が簡単な朝食をつくって、食卓に並べる。
そんな、風と空以外は、いつも通りの平和な朝だった。
「サイファ様、今日ね、行きたいところがあるの」
「どこ?」
デゼルがどこか、緊張しているように見えて、僕の目と腕を癒すための何かを始めるつもりなのかなって、少し、身構えた。
だけど、僕と初めて出会った公園に行きたいって、デゼルが懐かしそうな、はにかんだ笑顔を見せてくれて。
なんだ、今日もまだ、おやすみなんだね。
雲行きのあやしさは気になったけど、公園なんてすぐそこだから。
朝食の後、エトランジュも連れて、僕達は思い出の公園に足を運んだ。
**――*――**
「サイファ様、覚えてる?」
「デゼル、すごいね。まだ、たった六歳だったデゼルが、この場所を覚えてるなんて思わなかった。僕はもちろん、覚えてるよ?」
僕が嬉しくなって笑ったら、いつものように、デゼルとエトランジュが喜んではしゃいだ。
懐かしいな。
デゼルって、初めて出会った頃から『こう』だったんだ。
すごく綺麗なデゼルやガゼル様の笑顔ならともかく、僕の笑顔を『すごいもの』だと思ってくれるのなんて、デゼルとエトランジュの他には、きっと、誰もいないのにね。
あれは、十年と少し前。
僕は九歳で、デゼルは六歳だった。
世界でたった一人、僕の笑顔を『すごいもの』だと思ってくれるデゼルに、この場所で、僕は出会ったんだ。
僕とデゼルの出会いが、たくさんの人の運命を変えた。
たぶん、誰よりも――
僕の運命こそが、素敵なものに。
「この公園はね、僕がとても可愛らしくて優しい、月の妖精に出会った場所なんだ。怪我をして、一人で薬草を摘んでいたら、どうしたのって、夢みたいに綺麗な女の子が僕を見てた。銀色の髪が風に舞って、蒼穹を映す湖みたいな蒼の瞳が僕を見詰めて、すごく印象的だったんだ。――デゼルには、どう見えていたの?」
「あのね」
デゼルがもったいつけて、ふふっと笑うから、僕、期待しちゃったのに。
「どうしたの? って思ったの」
「うわぁ、そのまんまだね」
「また会いたくて、何度も、神殿を抜け出してみたけど、あんまり、会えなかったの」
えっ……?
僕は、驚いてデゼルを見てた。
また会いたいって……。
デゼル、そんな風に思ってくれてたんだ。
だから、この公園によくいたんだ。
そんなこと、思いもよらなかったから。
――嬉しい。
僕がデゼルに優しくキスした、直後だった。
急に、ひやりとする風が吹いて、昼間のはずなのに陽がかげってきて、背筋がゾクゾクしたんだ。
皆既日食――!?
「なんだろう……」
僕と同じように空を見上げたデゼルが、なぜか、口許を引き結んだ。
何かを決断するような目をして。
暗雲がたれ込めた冥い空から、漆黒の衣をまとった骸骨が降ってきたのは、その時だった。
あんまり怖いと悲鳴も出ないのか、デゼルもエトランジュも息を呑んで固まってしまった。
だけど、デゼルはさすがにすぐ、片腕でエトランジュを庇うように抱いて、もう片方の手で、僕の闇主の礼装の袖を握り締めた。
僕が逃げようと思えばいつでも、デゼルの手をつかんで一緒に逃げられる態勢。
僕達は息を殺して、その骸骨が僕達に危害を加える存在なのか、逃げるべきなのか話を聞くべきなのか、見極めようとした。
エトランジュはまだ泣かない。すごく賢い。
まだ一歳なのに、こういう時、へたに動いたり騒いだりしたら危ないって、本能でわかるんだ。
十三日目の朝。
窓を開けに立った僕は、湿り気を帯びた奇妙な風と、気味の悪い空の色に、胸が不吉に騒いだ。
デゼルがエトランジュに授乳している間に、僕が簡単な朝食をつくって、食卓に並べる。
そんな、風と空以外は、いつも通りの平和な朝だった。
「サイファ様、今日ね、行きたいところがあるの」
「どこ?」
デゼルがどこか、緊張しているように見えて、僕の目と腕を癒すための何かを始めるつもりなのかなって、少し、身構えた。
だけど、僕と初めて出会った公園に行きたいって、デゼルが懐かしそうな、はにかんだ笑顔を見せてくれて。
なんだ、今日もまだ、おやすみなんだね。
雲行きのあやしさは気になったけど、公園なんてすぐそこだから。
朝食の後、エトランジュも連れて、僕達は思い出の公園に足を運んだ。
**――*――**
「サイファ様、覚えてる?」
「デゼル、すごいね。まだ、たった六歳だったデゼルが、この場所を覚えてるなんて思わなかった。僕はもちろん、覚えてるよ?」
僕が嬉しくなって笑ったら、いつものように、デゼルとエトランジュが喜んではしゃいだ。
懐かしいな。
デゼルって、初めて出会った頃から『こう』だったんだ。
すごく綺麗なデゼルやガゼル様の笑顔ならともかく、僕の笑顔を『すごいもの』だと思ってくれるのなんて、デゼルとエトランジュの他には、きっと、誰もいないのにね。
あれは、十年と少し前。
僕は九歳で、デゼルは六歳だった。
世界でたった一人、僕の笑顔を『すごいもの』だと思ってくれるデゼルに、この場所で、僕は出会ったんだ。
僕とデゼルの出会いが、たくさんの人の運命を変えた。
たぶん、誰よりも――
僕の運命こそが、素敵なものに。
「この公園はね、僕がとても可愛らしくて優しい、月の妖精に出会った場所なんだ。怪我をして、一人で薬草を摘んでいたら、どうしたのって、夢みたいに綺麗な女の子が僕を見てた。銀色の髪が風に舞って、蒼穹を映す湖みたいな蒼の瞳が僕を見詰めて、すごく印象的だったんだ。――デゼルには、どう見えていたの?」
「あのね」
デゼルがもったいつけて、ふふっと笑うから、僕、期待しちゃったのに。
「どうしたの? って思ったの」
「うわぁ、そのまんまだね」
「また会いたくて、何度も、神殿を抜け出してみたけど、あんまり、会えなかったの」
えっ……?
僕は、驚いてデゼルを見てた。
また会いたいって……。
デゼル、そんな風に思ってくれてたんだ。
だから、この公園によくいたんだ。
そんなこと、思いもよらなかったから。
――嬉しい。
僕がデゼルに優しくキスした、直後だった。
急に、ひやりとする風が吹いて、昼間のはずなのに陽がかげってきて、背筋がゾクゾクしたんだ。
皆既日食――!?
「なんだろう……」
僕と同じように空を見上げたデゼルが、なぜか、口許を引き結んだ。
何かを決断するような目をして。
暗雲がたれ込めた冥い空から、漆黒の衣をまとった骸骨が降ってきたのは、その時だった。
あんまり怖いと悲鳴も出ないのか、デゼルもエトランジュも息を呑んで固まってしまった。
だけど、デゼルはさすがにすぐ、片腕でエトランジュを庇うように抱いて、もう片方の手で、僕の闇主の礼装の袖を握り締めた。
僕が逃げようと思えばいつでも、デゼルの手をつかんで一緒に逃げられる態勢。
僕達は息を殺して、その骸骨が僕達に危害を加える存在なのか、逃げるべきなのか話を聞くべきなのか、見極めようとした。
エトランジュはまだ泣かない。すごく賢い。
まだ一歳なのに、こういう時、へたに動いたり騒いだりしたら危ないって、本能でわかるんだ。
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