悪役令嬢と十三霊の神々

冴條玲

文字の大きさ
124 / 177
第三章 願いの枠が余ったので

第75話 悪役令嬢はヒロインの激怒を買う

しおりを挟む
「京奈、私よ! ユリシーズじゃない、私がそうなの」

 クロノスでサイファのところに戻った私が訴えると、京奈が目を丸くして私を見た。
 やっぱり、ユリアの記憶がないのね。

「お願い、話は私もしたい。でも、先に、サイファを解放して欲しいの」
「京奈、デゼルは蠱惑こわくの魔女だ。下手に話せば洗脳されるやもしれぬ」

 サイファに短剣を突きつけたままの蒼紫が言った。
 蒼紫の思慮深さ、仲間の時には安心できて素敵なんだけど、敵に回られると厄介やっかいなのね。
 ううん、蒼紫なら一時の感情でサイファを傷つけたりはしないだろうから、やっぱり、安心かな。
 蒼紫は切れ長の目をした、静かな印象の美青年。

「でも、闇主たちは確かに僕達に危害を加えようとしないし、信じてあげてもいいんじゃ」

 優しい胡桃くるみ色の髪の少年、翡翠が、助け舟を出してくれた。
 翡翠は優しくて可愛いの。

「翡翠、人質を解放してもそうだとは限らない」
「それは、……そうかもしれないけど」

 ごめんね、という目で翡翠が私を見た。
 うん、助け舟だけでも、出してくれてありがとう。

 蒼紫も翡翠も、私が気に入っていた光の使徒よ。
 京奈がユリシーズの私と話し合うつもりだったのは、きっと、本当なのね。
 ユリシーズの私がネプチューンの副官をやめて身を引くなら、蒼紫か翡翠を譲ってあげるとか、そういう方向かな?

「……いいわ、デゼル。落ち着ける場所で話しましょう。山賊達は、あなたの闇主達が片づけてくれるようだし。蒼紫、油断しないで。その人はまだ解放できない」
「わかった」

 少し離れた滝のそばで二人になると、京奈が口を開いた。

「本当なの? 嘘をつくとためにならないわよ? あなたが雪乃だとしたら、どうして、彼らにわざわざマワされたのよ」

 どうしよう、涙が出そう。

「わざとじゃ、ないよ」
「ユリシーズが隻眼せきがんではないのは?」
「……私が、闇の十二使徒すべての闇落ちを阻止しようとしたの」

 軽く目を見張った京奈が、私の頬を鋭く叩いた。

「あなたらしいわ、確かに雪乃よ!」
「京奈」
「ええ、あなたはいつだって八方美人だったものね! そうやって私の邪魔をしてくれたあげく、あなた自身の闇落ちイベントの阻止には失敗したわけ? 二十七名もの闇主を従えているそうね? マワされて気持ちよかった?」
「……」
「なんとか言いなさいよ!」

 声を出そうとしたら、涙がこぼれて、また、京奈に叩かれた。

「被害者ぶらないで! 私の本命がネプチューン様なのは知っていたはずなのに、ひどいのは雪乃よ!」
「ごめん……なさい……」
「本当に悪いと思っているの? そのごめんなさいが嘘じゃないなら、ユリシーズを殺してきてよ!」
「そんな! 京奈、私、そんなことできない!」
「どんな話をしてるのかと思って聞いてみれば……」

 私も京奈も目を見張った。
 ネルが聞いていたみたいなの。

「意味のわからねぇ話をしていたが、往復ビンタのあげくにユリシーズを殺してきてとは、聖女様が聞いてあきれるな?」
「ネル様、違うの……違うのよ!」
「まぁ、女同士で好きにケンカすればいいが――俺はふけるぜ? デゼル、ユリシーズを殺せば、ネプチューンにサイファを殺されるかもしれないな」
「ネル様、待って!」

 私と京奈はネルを追って蒼紫たちのところに戻ったけど、見失ってしまった。

「京奈、ネルのことなら私が――」

 忘却レーテーをかければ、なんとかできると思うの。
 ネルがおとなしく、かけられてくれるかはわからないけど。

「デゼル、あなたの魅了スキルと私の聖女の力、どちらが強いかしらね?」

 怒りに震える声で、京奈がささやいた。

「蒼紫、翡翠、話し合いに応じてはもらえなかった。ネプチューンとユリシーズに停戦の意志がない以上、ネプチューンの副官であるデゼルも見逃すわけにはいかない。ここで討ちましょう」
「京奈!?」
「京奈、待って! それは可哀相だよ、デゼルは抵抗しないみたいだし、捕虜にしたんじゃ駄目なの?」
「翡翠、ネプチューンがしたことを忘れたのか。デゼルもまた、無辜むこの民を魔物に変えたネプチューンにくみする者だ、少女の姿に惑わされるな」

 翡翠が泣きそうな顔で、私とサイファを見た。

「京奈、聞いて! ネルのことなら私が――!」
「黙って、蠱惑こわくの魔女であるあなたに、それ以上の口をきかせるわけにはいかない」
「待って下さい、デゼルは、皇帝の悪事にくみしては――!」

 訴えかけたサイファに、京奈がぜんまいを組み合わせたような、奇妙な形状の杖をつきつけた。
 このイベントの重要アイテム、魅了を解除する聖杖イレイズ。

「安心していいのよ、サイファ、だったわね? 私達、無抵抗のデゼルを討ったりしない。蒼紫も翡翠も聞いて、デゼルの裁きは闇主に任せましょう。デゼルの魔力に心を奪われ、奴隷とされてきた者にこそ、彼女を裁く権利があると思うの」

 翡翠が大きくうなずく横で、蒼紫も小さくうなずいた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

処理中です...