悪役令嬢と十三霊の神々

冴條玲

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第三章 願いの枠が余ったので

第92話 町人Sは悪役令嬢を心ゆくまで甘やかす

 それからの十二日間を、私はサイファとエトランジュと、とても楽しく、幸せに過ごしたの。

 景色の綺麗な湖に出かけてボートに乗ったり。
 サイファの右腕の代わりに、右は私が漕ごうとしたけど、うまく漕げなくて、水神になってボートを走らせたら、サイファに「ずるしないで」って笑われたの。
 エトランジュを喜ばせようと思って、いろんな風に水を降らせたり、巻き上げたりして見せた。
 サイファに教えてもらいながら、その場で獲った魚を焼いて食べたら、とっても、美味しかったのよ。

 雪山にも行った。鍾乳洞にも行った。
 夜はかまくらをつくって、雪の中で星空を眺めたりもした。
 とても、綺麗だった。


【挿絵】カゴ様


 どうしてかな、夜空があんまり綺麗で涙が零れたら、サイファが「どうしたの?」って、胸に抱き寄せてくれたの。
 優しくて、心地好かった。

「――サイファ様、キス、してもいい?」

 そう聞くと、サイファはいつも、優しいキスを降らせてくれて、させてくれない。

「サイファ様、する方が好き?」

 聞いてみたら、サイファがくすっと笑った。

「だってデゼルが、されたがるから。デゼルの甘くて綺麗な啼き声を聞くの、好きだよ」

 わぁっ。
 私の震える手をとって、サイファがまた、私が感じるようにキスを降らせた。
 サイファにされてる時の私がどんなかなんて、私、知らないのよ。
 そんな、甘い声で啼いてるのかな。
 サイファに触れられると、甘さと苦しさしか、わからなくなるの。動けなくなって、何にも、考えられない――

「デゼル、この頃、僕にすごく甘えるね。可愛いからいいけど、何か、不安だったり、怖いことがあったりするなら、話してね?」
「……」

 サイファに言われて初めて、気がついたの。
 私、そうだったんだって。
 時々、たまらなく怖くなって、サイファに甘えていたの。
 私はこくんとうなずくと、サイファの優しい胸に頬をすり寄せた。

「話せないこと?」
「……ううん、わからない。私にも、わからないの。だけど、サイファ様に――」
「なに?」
「あまえたい」

 サイファがくすぐったげに、澄んだ翠の瞳をキラキラさせて吹き出して、左腕で私をきゅっと、抱き締めてくれたの。

「じゃあ、お姫様を心ゆくまで、甘やかしてあげようか」

 怖くなって、私はサイファにますます、頭を押しつけたの。
 サイファの抱き方は、優しすぎて怖いんだもの。
 失ったら、心が砕けそうなくらい、優しくて甘い抱き方ができるの。
 そうされて、怖くてしがみつくと、サイファはもっと、抱き方を優しくするから、もっと、怖くなって泣かされるの。

「デゼル、どうして泣くの?」
「サイファ様が優しくて、失ったら、心が砕けそうで怖いの」

 私の涙を唇ですくい取ってくれたサイファが、微笑んだ。

「じゃあね。もっとだね」
「――っ! や、サイファさ……」

 だから、サイファは隠れSなのよ!
 私がサイファを求めるように、すがるように、ぼろぼろに泣かせて、さらに追い込むような抱き方をするのよ。

「あっ……あぁっ!」
「啼き声が甘くて、とっても綺麗。デゼル、可愛い」

 びくんと私が震えると、「ここ?」って、指先をすべらせて様子を見た後、優しい口づけを降らせて、吸ったり、舌を這わせたり、サイファったら、懇切丁寧に攻めるんだもの。
 サイファが右腕を使えなくなってから、される時に、私が自分で自分を支えていないとならなくなって、なんだかそれって、私がされたがって誘ってるみたいなシチュエーションで、すごく、恥ずかしいの。

 でも――
 本当に、全部がとっても幸せだった。

 サイファが優しいことも、素敵なことも、たまに、意地悪なことも。
 エトランジュが全然、言うことを聞いてくれなくて困ったことも、泣き止まなくて途方に暮れたことも、天使みたいに笑ってくれて、めまいがするほど可愛かったことも。

 すべてが私のたからもの。
 最後のその時まで、サイファとエトランジュのすべてを抱き締めていたい。

 あと少し、このままで――
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