四つの前世を持つ青年、冒険者養成学校にて「元」子爵令嬢の夢に付き合う 〜護国の武士が無双の騎士へと至るまで〜

最上 虎々

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第五章 追う者、去る者

第五十七話 剣と魔法

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 俺とナナシは、互いに一歩も譲らない攻防を続ける。

 ナナシの太刀筋は、かつて平安時代に味わったものとは少し違う。
 しかし、やはり相手が持っている武器は剣、それも刀だ。
 少し味わえば、すぐに慣れるだろう。

「はっ、やっ。やります、ね。私に、ついて、くるとは。中々の、スピード、です」

「それを君が言うのか」

 しかし問題なのは、そのスピードにある。
 脚力、反応速度、情報処理速度など、その全てが強化されているのだろう。

 ナナシが俺の得意な刀を使っているからこそ、動きを辛うじて読めているが……そうでなければ、翻弄されて手も足も出ない程のスピード。
 もし、ヌンチャクやトンファーでも使われていたらと思うとゾッとする。

 さらに華奢な身体のどこに秘められているのか、普段から鍛えている成人男性をも上回る筋力。

 特殊なトレーニングで筋密度を上げたのか、何かしら普通ではない方法で強化されていたのか、或いはその両方か。
 とにかく、子供にしては不気味な程の怪力である。

「強化、されて、ますから。当然、です」

「ああ……いい動きだ」

「……慣れてるん、ですね。刀を持つ、敵、との、戦い」

「ああ!そっちこそ、慣れてるんだな……!刀使ってる相手と戦うことなんて、そうそう無いのに」

「私の、は、強化の、賜物、です。刀は、手間も、お金も、かかる、から、中々、見ない、武器、だった、ハズ、ですが……何故、貴方まで、慣れて、いるの、ですか?」

「そうだな……分かりやすく言うと……。夢で、何回も戦ったんだよ。刀を持った人間と」

 ナナシちゃん……根は悪い子では無さそうであるから、前世のことを明かしても良いのだが……仮にも敵に対して、戦いながら当時の世界を一から説明するのは億劫である。
 故に、この「夢」というのは便宜上そう言っているだけなのである。

「そう、ですか。予知夢、など、話には、聞きますが……。私は、今……夢を、本物の、経験の、ように、活かす、ことが、できる、相手と、戦って、いるんですね」

「どうにもそうらしいね、俺」

 そしてこれも、便宜上の返答である。

「……でも、負ける、訳には、いきません。負けたら、用無し、ですから」

「……捨てられる?」

「それで、済めば、良いの、ですが。隠蔽の、ために、殺される、かも、知れません」

「……ナナシちゃんさえ良ければ、この戦いが終わっても生き残っていたら……ベルメリア子爵家か王都のウェンディル学園に来なよ。俺の名前を出せば、面倒を見てくれるハズだから」

「それは、ありがたい、話、ですけど……まるで、貴方達が、勝つ、前提で、話して、ますね」

「そりゃあ勝つとも。テロリストに負ける訳にはいかないからね。……ナナシちゃんは、どうなんだ?何か背負っているものでもあるの?……まあ、負けたら殺されるかもしれないってのはあるかもしれないけど……何か、それ以外に」

「……生きるため、以外、には、ありません。私達は、捨て子、です。殺されなくても、捨てられたら、終わり、です、から」

「……今からでも、こちら側に来るつもりは無い?最低限の生活ができるくらいの手当も出るよ」

「裏切り者も、殺されます。だから、今はダメ、です」

「そうか……じゃあ、とりあえず拘束するしか無いか。子供を痛めつけるのは趣味じゃないんだけど……早いところ決着をつけるか」

「自信満々、ですね」

「ああ。ギアを上げていくよ、ナナシちゃん」

 俺は話している内に、ナナシの太刀筋を容易に見切ることができるようになっていた。
 時間稼ぎをしていたつもりは無いが、身体が動きに慣れてきているのだろう。

 ナナシちゃんの太刀筋は、子供にしては大したものである。
 この年で、これほどまでに刀を扱えているのはそうよくあることではない。

 しかし若さ故か、その太刀筋は良く言えば素直であり、悪く言えば未熟。
 俺も技術以外に頼っていない訳ではないため、言えた立場ではないかもしれないが……それでも、ナナシちゃんの剣には明らかに強化頼りな節が見てとれる。

「……んん!?さっき、より、勢いも、力も、一気に……!」

「適切なタイミングで、適切な身体の動かし方をして、適切な角度で斬り込む。相手に合わせつつ、自分のペースを乱さない。それさえできれば、余すこと無く自分の力と技術を使える。俺は今、それをやってるんだよ」

「速い……この、私が……強化、していない、人間に、スピードで、押されて、いる……!?」

 ナナシちゃんの刃が一度迫る間に、こちらは三回ファルシオンを振ることができている。

 持ち前のスピードと小さな身体で、こちらの攻撃は回避こそできているものの、ペースは明らかに俺のものだ。

「これが経験の力だよ、ナナシちゃん。よく覚えておくと良い」

「そん、な……。いや、まだ、まだ……!この私に、許された、切り札、が、まだ……!」

「その前に剣を落とす……!風牙の太刀……【蜘蛛手くもで】!」

「必殺……!【一見斬いちげんざん】!」

 俺はファルシオンを構え、多方向から風の刃を当てることでの包囲攻撃を狙う。

 しかし、ナナシちゃんは更にスピードを上げて、瞬時に視界から外れたかと思うと、背後で刀を一度納め、俺が背後を向いて彼女を補足する前に抜刀を行う。

 その瞬間、ナナシちゃんの視界に入っていたであろう鎧の背面部分と、手にしていたファルシオンをはじめとした全ての武装が、粉々に切り刻まれてしまった。

「なっ……!」

「……っ!はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!どう、ですか、これが、私、の、必殺、技……がぁぁぁっ!」

 おそらくは、彼女が全てを一瞬の内に斬ってしまったのだろう。
 しかし、強化された肉体とはいえ……いや、故にだろうか。
 負担も相応のものらしい。

 ナナシちゃんはその場に倒れ、ブルブルと震えながら血を大量に吐き出してしまった。

「……切り札、か」

「あ、あがががががか、が、がぁっ、あぁっ!」

 やがて、手足からも出血が始まる。

「ねぇ、無理に答えなくていいけど……。ただ生きたいだけなら、やっぱり俺と一緒に来ない?少なくとも、お宅の革命団よりかは良い待遇を約束するよ。三食おやつ付き、自由時間もあるお手伝いさん。……どうかな?」

「あうっ、あうっ、あ……。裏切った、ら、爆発、する……。それに、技も、使った……猶予が、無い……」

「……どういうこと?」

「私達の、切り札、は……えらい人の、側で、使わないと、裏切り、防止の、魔法が、発動、して……」

「そんなことが……!」

 表沙汰にできない強化人間は、足がつかない捨て子を素材にした上で使うだけ使って、いざとなったら切り札の技と同時に自爆させて証拠を隠蔽。
 切り捨てるには惜しいと思う強化人間には指揮官やら隊長やらが付き、自爆魔法を発動しないように動く。
 なるほど、バグラディの同僚だった奴らの考えそうなことだ。

 流石、元バグラディ革命団。
 腐った卵を食べた時の下痢にも勝る汚さとでも言ってやるべきだろうか。

「あ、ああ、ばくはつ、する……!……ぁぁぁ、ジィン、あなた、と、戦えて、よかっ……」

 ナナシちゃんが顔を上げ、笑みを浮かべながら言いかけたその時。

「ナナシちゃん!?」

「ぁ」

 彼女の内側で、何かが破裂する音が聞こえる。
 それと同時に、目の前で刀を握ったまま倒れていた少女は、一瞬で血飛沫をあげながら肉片と化してしまった。
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