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12月5日【公園】
しおりを挟む夜の公園で、ぶらんこはキイキイ鳴りながら揺れていました。まるでたった今まで、誰かが漕いで遊んでいたかのようです。きいー、きい。音は段々小さくなって、やがてぶらんこは止まりました。ゆうちゃんとミトラは、ようやく公園に着いたのでした。
『滑り台、滑り台』
ミトラはゆうちゃんの肩から飛び降りて、素早い動きで滑り台に登ると、さっさと2回も滑ってしまいました。そして3回目は、滑り台の滑るところを下から登って、それから頭を下にして、すすーっと滑りました。
『世界がさかさま。へんなのー』
ミトラが笑うと、咥えたままの水笛がひょっひょっひょと鳴って、それがまた面白くて、ミトラは笑い転げました。ゆうちゃんもおかしくって、くっくっく、と肩を震わせて笑いました。
『ゆうちゃん、約束。一緒に滑ろう』
滑り台の上から、ミトラが手招きをしました。ゆうちゃんは駆け寄って、滑り台の階段に足をかけます。金属のひやりとした感触が、足の裏から背中まで、蛇のように通り抜けました。
ゆうちゃんが滑り台のてっぺんに座ると、ミトラはゆうちゃんの膝の上に乗っかりました。『はやく、はやく』と急かされたので、ゆうちゃんは滑り台の両端を掴んで、ぐっと体を押し出しました。
すすす、すすす、すとん。
やっぱり滑り台は、大人のゆうちゃんには合わなかったようです。すぐに滑り終わってしまって、ミトラも何だか白け顔。『さかさまに滑ってみたら?』というミトラの提案を、ゆうちゃんは断りました。
『そしたら、ゆうちゃん。ぶらんこは?』
ミトラは走っていって、ぶらんこに飛び乗りました。確かに、ぶらんこなら、ゆうちゃんも楽しめそうです。
ぶらんこの真下には、水たまりがありました。みんながぶらんこに乗ったまま、靴の裏で地面を擦るので、そこだけくぼんでしまっているのです。そこに水が溜まって、小さな池を作っていました。この夢は夏なので、日が暮れる前に、夕立があったのかも知れません。
ゆうちゃんはぶらんこに座って、わざと水たまりに足を突っ込みました。水はぬるくて、夏をはらんでいます。足をばたばたさせてみると、水の玉がいくつも、夜に打ち上げられました。それらは地面に落ちることなく、空中で泥水色の金魚になって、公園のあちこちに散っていきました。
『ねえねえ、ゆうちゃん。はやくこいでよ』
ミトラがいつの間にか、ゆうちゃんの頭の上に陣取っていて、ゆうちゃんを急かします。
『うんと高くこいで!』
ゆうちゃんは、ぶらんこの上に立ちました。座って漕いだら、地面に擦って、足を怪我してしまいそうだったからです。膝を曲げて、勢いをつけて、ぶらんこを漕ぎ出します。
最初は小さかった揺れ幅が、段々大きくなっていって、耳元で風の音がひゅんひゅん鳴ります。
ミトラが落っこちてしまわないか、ゆうちゃんは心配になりました。けれど、頭の上から『おもしろーい!』と楽しげな声が聞こえたので、大丈夫なのでしょう。
ぶらんこは高く、段々高く、どんどん高く、高く高くに上がっていきます。
『ゆうちゃん、もっと、もっと!』
ゆうちゃんは、一心不乱に漕ぎました。鎖がぐるりと一周してしまうのじゃないかと思うくらい、一生懸命に漕ぎました。そして、一番空に近く上がったとき、ゆうちゃんは鎖から手を離しました。
大きく弧を描いて、ゆうちゃんとミトラは、空に投げ出されます。夜の公園に、泥水の金魚がたくさん泳いでいます。さっき来た細道の、お祭りの朝顔が、賑やかに光っているのがよく見えました。
今夜の夢は、ここでおしまい。
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