二十五の夜を越えて

深見萩緒

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12月18日【プレゼント】

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 そこは、どうやら広場になっているようでした。
 広場の真ん中に、大きなもみの木が立っているのです。赤と金を基調にしたオーナメントがぶら下がり、枝という枝にコットンの雪を乗せて、てっぺんにはお星様。
『わーい! クリスマスツリーだ!』
 スキップしながらツリーの足元へ駆けていったミトラの姿は、あっという間に、プレゼントの山の中に見えなくなってしまいました。

『ゆうちゃーん、来てごらんよ! プレゼントが、たくさんあるよ!』
 ミトラが呼びましたので、ゆうちゃんも走って、クリスマスツリーのそばに行きました。ミトラは早速、プレゼントの包みをひとつ、ビリビリと破いています。中から出てきたのは、手袋でした。
『見て、この手袋。ぼくの手にぴったりだねえ』
 ミトラは毛糸の手袋をはめて、うっとりしています。それは本当に小さな手袋で、ゆうちゃんの小指になら、ぴったり合うかも知れません。

『ゆうちゃんも、プレゼント開けてみなよ。良いもの、入ってるかも知れないよ』
 と、言われたので、ゆうちゃんも自分のプレゼントを探してみることにしました。
 プレゼントには全部にラッピングがしてあって、中身が分かるものもあれば、そうでないものもありました。
 ゆうちゃんは中身が書いてあるものを、順ぐりに見ていきます。

 この大きな包みには、ドールハウスが入っていると書いてありますし、あっちの小さな包みには、オルゴールと書いてあります。
 サッカーボールもありますし、ブリキのロボットもありますし、プラスティックの宝石がついたティアラもあります。
 サテンのドレスもありますし、図鑑のセットもありますし、なんだかかっこいい形の自転車もありました。
 どれも素敵ですが、ゆうちゃんが欲しいものではありません。

 一体どのプレゼントが良いのか、ゆうちゃんは迷いに迷います。なかなか、決められません。
『だったら、なんにも書いてない包みを、適当に開けてみたら良いよ。欲しくないものだったら、置いておけば良いんだから』
 ミトラは、小さな包みを差し出しながら言いました。手始めに、これを開けてみろということでしょうか。ゆうちゃんは、ミトラから包みを受け取って、丁寧にラッピングを剥がしていきます。

 出てきたのは、深い青色に銀の雪結晶が光る、丸いオーナメントでした。とても綺麗。でも、ゆうちゃんが欲しいものではありません。
 次の包みを開いたら、水晶で出来たトナカイのオーナメントが出てきました。とても綺麗。でも、ゆうちゃんが欲しいものではありません。


 いくつもいくつも包みを開いたけれど、ゆうちゃんの欲しいものはありませんでした。
 どの包みからも、クリスマスのオーナメントが出てきます。あっという間に、ゆうちゃんの周りには、オーナメントの小山が出来てしまいました。
 ミトラは喜びましたが、ゆうちゃんは焦って仕方ありません。ミトラはとっくに、自分の欲しい物を手に入れたというのに。

 そもそも、ゆうちゃんは何が欲しいのでしょうか。それが分からないことに気が付いて、ゆうちゃんはいよいよ途方に暮れてしまいました。
 ゆうちゃんの好きなものはなに?
 ゆうちゃんの欲しいものはなに?
 なんにも分かりません。こんなに素敵なものたちに囲まれて、こんなに綺麗なものたちが溢れているのに、どれも欲しくないのです。

 泣き出しそうなゆうちゃんに気が付いて、ミトラはゆうちゃんの顔を覗き込みます。
『ゆうちゃん、困っちゃった? うーん、そしたらね』
 ミトラは、プレゼントの山の下から、半分ひしゃげたような、毛糸の巾着袋を引っ張り出しました。抹茶の色をした袋の真ん中に、レースのお花の飾りがついています。
『これを持っていくと良いよ。ゆうちゃんの欲しいものが見つかったら、この中に入れるんだよ。それで、枕元にこれを置いてから眠ったら、朝起きたらプレゼントがあることになるでしょ?』

 巾着袋は、ゆうちゃんの片手に乗ってしまうくらい小さくて、引っ張ったら破れてしまいそうです。ゆうちゃんはそれを畳んで、ジャケットのポケットに大事に大事にしまいました。
「ありがとう」
 ゆうちゃんがお礼を言うと、ミトラは照れ隠しに、不思議な踊りを踊りました。そして踊り終わったら、手袋をつけた小さなお手手で、ゆうちゃんの頭を優しく撫でました。
『ゆうちゃんの欲しいもの、見つかると良いね』

 それからふたりは、もみの木にかかっていた大きな階段はしごに登って、プレゼントの包みから出てきたオーナメントを、飾り付けていきました。


 今夜の夢は、ここでおしまい。
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