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Case2 親友が出来婚しそうな36歳
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「こんばんは」
『こんばんは』
久しぶりに聞くオサムさんの声はとても固く感じた。
最初の時にも感じたことの無い、彼の緊張感が私に届いている気がする。
『先日のこと、本当に申し訳無かった』
ヘッドセットから、変な風切り音が聞こえた。
きっと通話の向こうで勢いよく頭を下げているのだろうことが伝わってきた。
『勝手に謎解き気分で、君の気持ちなど考えずぺらぺらと。
本当に身勝手で酷い事をしてしまった。
前回も言ったけどあれはあくまで僕が勝手に』
「あの」
私は必死に謝ろうとしているオサムさんの言葉を遮った。
「オサムさんの彩への意見と私への評価、とても辛かったです」
『申し訳無い・・・・・・』
「あの時は辛くて、とてももう聞いていられなかったんです」
『あぁ当然だ』
「でも、しばらくして冷静になってきたら、段々彩の違和感に自分は気がついていたんだとわかったんです」
『・・・・・・』
「きっとオサムさんが言ったことは当たっています」
『いや、あれは』
「私ではきっとたどり着けなかった真実です」
オサムさんから声は聞こえない。
「きっとこういう風に指摘して貰えなければ、私はずっと昔から思う私の理想の彩でなんとか切り抜けようと、全て彼のせいにしていたかもしれない。
ううん、していたと思う。
だって、私を彩が哀れんでみていた、実は離れたかったかもしれないなんて、考えたくは無いから」
『いや、まだ結論を出すのは早いと思う。
自分であんな事を言ってなんだけども・・・・・・』
オサムさんは戸惑い気味に言葉を選んでいるようだった。
「もちろん本人に聞かないと真実はわからないと思う。
でも、あんな行動を取ったってことは、私に察しろ、という事だったのかなって。
もしかしたら、最後の優しさだったのかも」
自分で言ってなんだか笑ってしまう。
本当は優しさだなんて、思っていないけれど。
『ごめん、僕のせいで彼女との長年の交流をこういう風に変えてしまった』
「ううん、冷静にずばずばと言ってもらって目が覚めたよ」
これは本音だった。
「きっと、ここが離れるタイミングだったんだね」
オサムさんは黙っていた。
私が色々言ったことで、オサムさんが好きなように言葉を出させないようにしてしまったことが、申し訳無いと思った。
「ごめんなさい。
私がこんな事言ったせいで、オサムさんが話しにくくなってしまって。
カフェの本部?とかそういうのから怒られたりしなかった?」
『君は・・・・・・本当に優しい人なんだね』
「え?」
『こんなにも身勝手に話して自分を傷つけた相手を気遣ってる』
「優しくなんて無いよ、だって親友から嫌われるような人間だもの。
私はそういう風に裏表無く、ずばっと指摘出来るってオサムさんの長所だと思うよ?
まぁ短所にもなることは理解しておくべきだと思うけど」
『ごもっともです。耳が痛い』
あはは、と私が笑うと、はは、とようやく少しだけオサムさんは笑ってくれた。
そして少しだけお互いに沈黙が続いた後、オサムさんが話し出した。
『なら、ずばっとついでで、これからまた身勝手に言うのをどうか許して欲しい。
あんな事があったのに、僕が話しにくくなるなんて思ったり本部に怒られてないかまで気持ちを向けられるのは、自分自身が辛かったりきつい状態ではなかなか出来るものじゃない。
でもそれが、ずるがしこい人間からすれば、君は本当に便利で都合良く使える人間に思える。
もしかしたら君は彼女にとって便利な存在だったのかもしれない。
だから、そういう人間とは離れて、もっと自分を大切にするために、交友関係を広げるべきだと思う』
私は真面目な声で語るオサムさんの言葉を聞きながら、何故か段々涙と鼻水が出てきた。
思わず、ずずっと鼻をすすってしまった。
『うわ!泣いてる?!
ごめん、いやほんとごめん!
もう言わないから!』
「違うんです」
もの凄く途惑っているオサムさんの言葉を否定する。
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