月曜日の巫女【弐】

桜居かのん

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第一章 動き出した歯車

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「それ、出来るだけ肌身離さず持ってろよ?」


「何で?」


「匂い袋ってのは、昔から邪気を祓う、魔除け、空気を清浄化させるとかの効果があるんだよ。

まぁ駅で適当に買ったそれは知らんが、少なくとも」


きょとんと聞いている私を、藤原はにやりと見た。


「香りで少しガキ臭さが消せるだろ」


ぴきっ。

私のこめかみがひくついているのがわかった。

えぇえぇ、どうせ子供ですよ!ガキですよ!!

良い香りさせて少しは大人になれだなんて、色気ゼロくらい自覚してるっての!

私はわなわなと震えながら、一つ深く息を吸うと、にっこりと藤原を見た。

その私の顔を見て、藤原はびくっとしたような顔をした。


「アリガトウゴザイマス。

で、もう帰って良い?」


「もらっておいて帰るのかよ!」


藤原はむっとしたような顔をすると、すごすごといつもの定位置に行く。


「んじゃ、一時間後」


「はいはい、お休み」


そういうと、ソファーに横たわりブランケットを頭まで被ると、こっちに背を向けて寝てしまった。

そんな姿を見て思わず笑いがこみ上げる。

私は手のひらにある匂い袋の箱を名残惜しげに閉じてそっと机の上に置くと、勉強道具を用意し始めた。









しばらくしてドアをノックする音がした。

もう足音だけで葛木先生だとわかる。


「お疲れ様です」


「先生もお疲れ様です」


先生はにっこりと微笑み中に入ると、私の教科書を開いている机の隅に今日のお菓子の入った紙袋を置く。

そして、ちらりと机の上を見て、あぁ、と声を出した。


「もらったんですね」


それが匂い袋のことを指しているのがわかり、私は、はい、と答えた。

しかし何故小声なのだろう。


「かなり貴重な品ですので、大切に持っていてあげて下さいね」


「え?貴重?」


私は思わず聞き返した。

私の反応を見ていた先生も不思議そうな顔をした後、少し笑った。


「これの事、光明はなんて言ってましたか?」


「えっと、駅で適当に買ったから匂いの種類わからないって。

これには邪気祓いとかは無理だろうけど、ガキだから良い香りでもさせておけって言ってました」


細かい事は違うだろうがだいたいの趣旨は合ってるはずだ。

先生は話を聞き終わると、突然顔を私から背け、口に手を当てて肩を震わせている。

なにが今度はツボに入ったんだろう。


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