月曜日の巫女【弐】

桜居かのん

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第七章 もう一度あの場所で

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『付き合いだして初めて、俺の名前、呼んだよな』


真面目な声に思わず固まる。

得に意識せず葛木先生の言葉をそのまま言っただけだったけど、まさかそこを突っ込まれるなんて。


「ごめん、つい」


『謝らなくて良いんだ。

そうだな、時々でも良いから、名前で呼んでくれないか』


一気に顔が熱くなって、耳まで熱い。

だってスマートフォンを耳に当ててるから、藤原の声が直接に耳に届くのだ。

何だかすがるようにも聞こえたその低い声に、私は恥ずかしくてたまらない。


「そ、そのうち」


『ふーん。なら今度会ったとき、練習でもさせるか』


「無理!!」


私が思い切りそういうと、電話の向こうから軽く笑う声が聞こえた。

あぁまた私で遊んでる。


『やっぱり可愛い彼女から名前で呼ばれたいんだよ。

まぁ無理強いはしないけどな』


ずるい。

そんな風に言われたら、恥ずかしいけど頑張って言ってあげたいって思ってしまう。

私だって名前で呼ばれて嬉しかったのだから、藤原だってそうなのかもしれない。


「藤原ってずるい」


『そうか?』


楽しそうな声に、私は勝てない相手と話しているのだとつくづく思った。


『もうすぐ学校が始まるな』


「うん。月曜日、もしかしてスパルタ続行?」


『少なくとも俺は9月からやらないと言った覚えは無いな』


私はがくりと首を倒した。


『お前は学業が本分だからな、俺も学園では教師として接したいし。

成績が良ければ選択肢も広がる。諦めて頑張れ』


諦めて頑張るんだ。私は力なく、うん、と返事をした。


『まだこれから仕事なんだ、お前は夜更かしせずに寝ろよ?』


「はーい」


『じゃあな』


私はさっき決めたことを実行するため、ドキドキする胸を必死に押さえ、声を出す。


「お仕事無理しないでね・・・・・・光明さん」


私は相手の反応など待たず、すぐにスマートフォンの通話終了ボタンを押した。

・・・・・・もの凄く、もの凄く恥ずかしい!!

思わずうずくまり、何故かスマートフォンの電源まで落とした。

今藤原から電話がかかってきたら、恥ずかしすぎてとても話せそうにない。

ちゃんと初めて彼氏の名前を呼んだことを思いだし、意味もなく変な声を出しながら、私はベッドにダイブした。


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