月曜日の巫女【弐】

桜居かのん

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第八章 解かれた封印

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唇の感触が消え、身体が浮いている気すらして、私は怖々目を開けた。


「え?」


そこはなぜか空中だった。

横を見れば藤原が目を見開き下を見ている。

私も釣られるようにそこに視線を向けた。


そこに広がっていたのは大きな池や松の木がある日本庭園。

思いだした、この庭は土御門さんの屋敷の庭だ。

その池の畔には、陰陽師の服を着た少年が一人。

そしてこれが、昔見たあの夢だと気がついた。

そこに現れたのは制服を着た私。


その少年は後ろを振り向かずに制服を着ている私に言った。


『僕が大きくなったら、また会いに来て』


『大きくなったら? 』


『そう。僕はお姉さんと会った事を忘れるから、大人になったら、この事を思い出させて』


『何で、君は忘れるの?』



『お姉さんが、そんな力をもっているからだよ』



少年がそう言った途端、隣りにいる藤原が大きな声をあげて笑い出した。


「・・・・・・藤原?」


「はは、そうか、そう、だったのか」


「やっぱりあの少年は、藤原、だったの?」


藤原は笑っているけれど、その笑い方が何か怖いと感じながら尋ねる。


「・・・・・・俺は、なんて事をしたんだ」


顔に手を当て急に低い声でそう言った藤原に、私は様子がおかしいことを確信した。


「ねぇ、どうしたの?」


おそるおそる聞くと、藤原は顔に置いていた手をだらりと下ろし、私をゆっくりと見る。

その目はこちらを向いているのに、何も映していないかのようだ。




「そうか。

そうかお前は・・・・・・巫女、だったんだな」




虚ろな目で藤原はそう言った。


「なに、言ってるの?

私が、巫女?・・・・・・違うんだよね?そう言ったよね?」


呆然としそうになり、思わず声が震える。

私は藤原の服を掴み必死に目を見て言うけれど、藤原は私を見ていない。



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