月曜日の巫女【弐】

桜居かのん

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第九章 縁を結ぶ者

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二人で過ごしていた個室で、ただ一人、ぼんやりと座っていた。



『そうか。

そうかお前は・・・・・・巫女、だったんだな』



あの虚ろな目でそう言われた言葉が、表情が、何度も頭を過ぎる。


藤原の言われた言葉を何とか思い返し、あの小さな陰陽師の男の子は藤原で、藤原自身で私と出会った記憶を封印したのだということを理解した。

私が巫女だとわかったあの小さな藤原は、何故記憶を封印したのか。

藤原の言葉を必死に思いだし、巫女じゃ無くても私を好きになるのか試したのだろうかと考えるけれど、その理由がうまく頭の中でまとまらない。


そして・・・・・・私は『巫女』だった。


藤原の言葉をそのまま受け止めればそういう事になる。

でも、藤原は私が巫女じゃ無いから好きになってくれたんだ。

私があんなに嫌っていた巫女だったと、やはり自分も巫女の呪いにあらがえなかったのだとわかれば、きっと藤原はもう私を見てはくれないのでは無いだろうか。

膝に置いた自分の手が、小さく震えていた。


ドアをノックする音がして、立ち上がりドアに走る。

ドアが開くとそこには藤原では無く、さっき藤原を呼びに来た男性が立っていた。


「藤原様より言づてがございまして」


言いにくそうにその男性は私を見ながら話す。


「急用が出来たため、送れなくなった。

誠太郎が来るのでここで待つように、と」


私は呆然としそうになりながら、声を出した。


「今、藤原はどこにいるんですか?」


「申し訳ございません、あいにく私にはわかりかねまして」


「このホテルの中ですよね?」


「申し訳ございません、詳しい事までは・・・・・・」


私は同じような言葉を繰り返す男性に腹が立ってきて、椅子に置いていた鞄を持つとその人を押しのけて急いでホテルの外に出た。

向かった先は駐車場。

沢山の車が並ぶ中で藤原の車を見つけ、まだホテルにいることに安心して、人がいないか周囲を見る。


「ユキ」


私の声に、子犬の姿のユキが現れた。


「藤原のとこに行きたいの。連れてって」


しかし、ユキは私の言葉を聞いた後、途惑ったように耳をぴこぴこさせたり、私の回りをうろうろとして、最後は尻尾をだらりと下げた。


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