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第十章 巫女という存在
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しおりを挟む「少し長くなるが、妻との出会いと、そして私が知っていること、思うことを話したい。
不愉快に思うことも多いだろうが、しばらく付き合ってくれ」
克明はそう言うと白磁に赤い椿の描かれた美しい湯飲みを手に取り、お茶に口をつけた後、話し出した。
「妻と初めて出会ったのは、元旦に行われる陰陽師一族の年始礼の時だった。
本邸のあの広い部屋に足を踏み入れ多くの陰陽師たちを前にして、すぐここに巫女がいるとわかったよ。
気がつけば遙か後ろにいる、一人の女性を見ていた。
この女が欲しい、この女に愛されたい、その欲求が突然湧き上がった。
彼女は父親が病気で倒れ、初めて自分がそういう一族の人間だと知り、父親の名代として初めて年始礼の場に参加し、ずっと緊張した様子だった。
私はその後すぐに彼女を一人、呼び出した、長から直々に話があるとして。
彼女はまだ大学生で、父親が倒れたことで経済的な問題から大学を中退することを決めていた。
私はその事を知り自分の補佐の仕事をすることと引き換えに、学費と父親の入院費など一切を支援すると提案した。
だが彼女はその場で私を睨むかのような目で断った。
長としてそれなりに女性に不自由はしなかったし、これだけのことを提案すれば喜んで引き受けると疑問にも思っていなかったから、断られたときの衝撃は未だに覚えているよ」
克明は自嘲気味に笑みを浮かべる。
「予想外に断られ、私はなんとか彼女をつなぎ止めようと必死だった。
断られた後も長の立場を利用し、何かしらの理由を作っては何度も彼女を呼び出したり、彼女の印象を良くしようと父親の病室に見舞いへ行ったこともあった。
だが私の行動は彼女には非常に不愉快だったようで、ずっとやんわりと断っていた彼女も堪忍袋の緒が切れたのか、ものすごい剣幕で私を叱り倒してきてね。
彼女に嫌われたと思ったときの落ち込みようは半端ないもので、側近のものたちが狼狽えるくらいだった。
そこで我に返った。
私もお前のように疑問を持ったんだよ、何故こんなにも彼女に執着してしまうのか。
確かに結婚した相手とは正反対の性格ではあったし、見た目というい点では彼女はお前の母には及ばないのだろうが、私には彼女の笑顔の方が何倍も美しく思えた。
断られるから追いかけたくなるだけなのか、寂しさのあまり妻の代わりを欲しているのか。
考えても答えが出ない。
昔の長に関する書物を読みあさったりしたがわからない。
そしてお前と同じように、私は巫女について話をほとんどしていなかった父親に尋ねた、これは巫女による呪縛が関係しているのでは無いか、と。
その時にはまだ彼女が巫女だという確信は私には無かったんだ。
長と巫女はお互いを欲するという認識だったから、一方的な私の思いではそれに当てはまらないと考えていた」
光明は初めて知らされた父親の感情と行動にただ驚く。
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