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第十章 巫女という存在
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しおりを挟むそんな克明とは対照的に光明は自分の体が小刻みに震えていることに気がついた。
これが真実だとしたら、巫女に自分の弱さを責任転嫁させ、ゆいと結びつけは傷つけてきただけ。
そして自分にとってゆいが唯一の存在であっても、ゆいからすればそうでは無いということ。
そこであの言葉を思い出した。
土御門の言った『縁の深い人』そして『大切な人』。
もしも、ゆいの唯一の存在が土御門なのだとしたら。
年齢だけ考えれば親子以上の年齢差どころではない。
だが一度だけ、あの屋敷で若くて恐ろしいほどに美しい男を見たことがある。
それが土御門の子供で自分の息子とゆいを結婚させようとしているのなら、それこそ二度と光明の手は届かなくなる。
光明は心臓の音が頭に響くほど動揺していた。
「光明」
その呼びかけに、光明は強ばった表情のまま顔を上げる。
「お前はこれを聞いて、どうするんだ?」
克明の静かな問いかけに光明は一瞬口を開きかけ、また閉じ、きつく唇を結んだ。
「彼女が、土御門様の庇護下に入ったというのは本当か?」
「・・・・・・あぁ」
「あの方ならおそらく巫女がどういう存在かなど、わかっているだろう。
そのお嬢さんは非常に霊力が強いとは聞いたが、それだけであの土御門様自ら動くだろうか」
「東雲は、縁の深い人、大切な人なのだと、あの人は言っていた」
克明はまさかそんな関わりがあるとは思わず、そして目の前の息子を見てかける言葉に迷った。
何故なら何か光明が彼女のことを諦めかけているように思えたからだ。
てっきり話したことを聞けば、吹っ切れて彼女を迎えに行くのだと思っていた。
「彼女に、その、連絡はしてみたのか?」
「あの人に接触を禁じられた。
俺が何度電話してもメールをしても届かない。
もしかしたら俺を嫌って、あいつ自身が着信拒否しているのかもしれないな」
そう言うと乾いた笑みを光明は浮かべる。
「お前はそれで諦めたのか?
何をしにわざわざ会いたくも無い私に話を聞きにいたんだ?
もし巫女が本当に足枷だと私から聞いて、安心して彼女を諦めるためだったのか?」
思わず克明は強い口調で言ってしまい我に返ると、すまない、と謝罪する。
目の前のソファーに座り、俯いたままの光明を見ながら正直克明はどこかホッとしていた。
幼い頃からずば抜けた才能で周りを圧倒していた次期長である息子を、克明はどこか恐ろしいと感じていた。
笑わない、大人びた表情と発言をする子供にしてしまったのは自分達親の責任でありながら、何か違う世界から使わされた者なのではと思うときすらあった。
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