月曜日の巫女

桜居かのん

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欠けてゆくもの

欠けてゆくもの17

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「葛木先生」


私の顔を見た先生の目が大きく見開かれた。
私は一体今、どんな顔で、どんな声で話しているのだろうか。


「もう、月曜日に来たりしません。
元々藤原も陰陽師の世界に私が関わる事は嫌がっていたし。
だから、もう、関わりません」


葛木先生の表情が一気に強ばったのを、私は何の感情も無く見た。


「失礼します」


「待って下さい!」


私が帰ろうと席を立ったら、葛木先生が私の手首を掴んだ。


「待って下さい!
何か誤解していませんか?
もし気に触ることを言ったなら謝ります!」


「・・・・・・先生は、何もわかってない」


手首を掴む力が緩むと同時に、私はその手を振り払った。
そして私はそのまま何も言わずにその部屋を出た。



歩くにつれ、どんどん目の前が霞んでいく。
つい先日同じ事があったのに。

もう、藤原にも、葛木先生にも昔のようには話せない。
私が憧れた世界は本当に消え去った。
少しまで当然のように思っていたものすらも、私は失った。

でも、本当は何も以前と変わっていなかったのだ。

単に、何の取り柄もない高校生に戻っただけ。

なのに、苦しい。痛い。辛い。悲しい。

そんなものでは言い表せないような沢山の感情がわき起こって、その黒くて厚いものが、自分をあっという間に飲み込んでしまいそうになる。

私は、ただ目から流れるものを必死に拭いながら、夕焼けに染まった廊下を、ぼんやりと一人歩いた。


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