紳士な若頭の危険な狂愛

桜居かのん

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覚悟

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「正直、困惑というか混乱しています」

「そうでしょうね」

彼は自嘲気味に笑う。

「わからないのは、私を手放しておいたのに組長さんと私がらみの賭けをしていたことです。
何を賭けて、美東さんが勝つとどうなるのですか?」

「ここまで私の異常さを話したのに、貴女はまだ逃げずに踏み込もうとするなんて」

「私だって生半端な気持ちで本部まで行ったわけじゃありません。
美東さんに惹かれているからこそ出来た行動です」

「親父さんにも言われたでしょう?
この世界はカタギの貴女が来るべき場所では無いと」

「でも美東さんは私を側に置きたいんですよね?」

負けじと言い返せば、彼は小さく吹き出した。

「えぇそうです。
親父さんが言ったと思いますが、次期組長は私です。
おそらくそんなに時間がかからず継ぐことになるでしょう。
結婚も避けては通れない。
その相手はカタギの世界で生きたい、という人では無理です」

「何故ですか?
私を愛しているんですよね?
私は一般人ですよ?」

憤る私を落ち着けるように、彼の手が私の手をゆっくりさする。

「えぇ、あなたはカタギの人間です。
ヤクザ、極道の人間は、家を借りることすら厳しい。
何をするにも契約書がついて回り、そこには必須で入っているんですよ反社条項が。
いわゆる、私たちのような反社会的人間は契約させないという条項です。
ようは、普通に生活が出来なくなる事を意味します」

「でもここに住んでますよね?」

「ここはうちの組の土地で、息のかかった業者が建てた建物です。
所々には治外法権ではありませんが、そういう者達が使用できる場所があります。
当然警察はチェック済ですので、おかしなまねは出来ません」

彼は私の手を両手で包み込んだ。
大きな手が私の手をすっぽりと包み込む。
彼に流されていたいた事に気づき、再度尋ねた。

「また話を逸らされていました。
何を賭けていたんですか?」

いたずらっぽい笑みを浮かべた彼は、

「カタギである貴女に告白すること、そして妻に迎えたとしたとしても組長の妻として仕事はさせないという約束です」

「組長の妻として何もしないのは無理なのでは」

「狂うほど愛おしい貴女を手に入れられたら、外に見せるわけが無いでしょう?」

笑っているようで美東さんの目は笑っていない。
どうやら私は他からの危害を加える心配よりも、おそらく目の前にいる美しい獣から身の安全を考えるべきなのだろう。
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