紳士な若頭の危険な狂愛

桜居かのん

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覚悟

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「失礼しました。
貴女があまりに可愛らしくて」

「お世辞を言ったって誤魔化されませんよ」

上目遣いで睨めば、美東さんは愛おしさをにじませるそうな瞳で私を見ていた。

「どこから答えましょうか・・・・・・」

彼は私に視線をよこし、思案を巡らせているように前を向いた。

「貴女はヤクザの世界に巻き込まないように私が離れてたと思ったのでしょうが、それは正解の一部です」

一部?では他には何があるのだろう。
美東さんは私の方に身体を向け、その瞳は逃げることを許さないかのように私の全てを絡め取る。

「貴女を、私から逃すためです」

さっきの答えと何が違うのかわからずに戸惑う。
彼の口元が弧を描き、何故か怖いという感情が襲った。

「最初に会った時、私は貴女に惹かれてしまった」

彼が身体を私の方に傾け、反射的に後ろに下がる。

「貴女が心配だとタクシーの後を部下につけさせ、何か起きても対処できるよう見張りもつけていました。
当然貴女の素性も調べた。
苦しい境遇ながらも腐らず、世の中を憎まず、正しいことを貫く女性。
知れば知るほど私の本能が訴えてくる。
『この女が欲しい』と」

美東さんの目に縛られたように動けない。
私の首を、彼の長い人差し指がすっと撫で、驚きのあまりひゃ、と声を出した。

「この細く真っ白な首に、真っ赤な首輪をつけたら似合うだろうな、と想像したり」

首輪?!彼の口から出た言葉に耳を疑う。
だが彼は優しい表情のまま今度は私の手首を指で軽く撫で、その度に反応する私を楽しんでいる。

「何のアクセサリーもしていない手首には、素敵な手錠をつけてベッドから逃れられないようにしたい。
永遠に、私が貴女を愛せるように」

彼の表情は優しい。
声も穏やかで、脳内をゆっくりと溶かすような低い声なのに、紡がれる言葉の落差に戸惑う。

「そして貴女があのゲスに組み敷かれているのを見たときに、強く湧き上がりました」

彼の手が、スカートの上の私の太ももの上に置かれる。

「この雌を、私のモノで貫きたいと」

そう言って、彼の口元は柔らかな弧を描いていた。
突然知らされる、私への欲望。
さすがに何を意味しているかくらい私にだってわかる。
こんなヤクザとはほど遠い、紳士のように振る舞う彼の奥底にある凶暴なもの。
それを向けられていることが嬉しいと思うだなんて、私はどうかしている。

「貴女を店から助けたあの夜、私は本能が暴走するのを抑えるのに必死でした。
なのに貴女は無防備に私の側へ来る。
部屋に招き入れたとき、貴女を二度と他の男に触れさせないようにここへ縛り付けようかとも思いました。
そうすれば貴女を少なくとも目の届くところに置いておける」

彼の手が私の膝にある手の上に被さる。
思わず逃げそうになったのを、彼の大きな手が包み込んでそれを阻んだ。

「愛しています、綾菜さん」

低く甘美な囁き。
その甘さの裏には、狂気が隠れている。
それがわかったのに、怖さよりやはり嬉しさが上回っていた。

「私はここまで一人の女性を狂おしく思ったことがないのです。
貴女を側に置けるのなら、私は手段を選ばないかもしれない。
だから、貴女を逃がしました」

彼は、ここで言葉を止めた。
だけどそれで納得できるはずが無い。

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