紳士な若頭の危険な狂愛

桜居かのん

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覚悟

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「私は貴女への思いとリスクを伝えました。
実際のリスクはこんな簡単な話ではありません。
ようは、カタギの世界を捨て、こちらの世界に来られるかという事なんです。
本能では貴女が嫌がろうと、光の世界に戻したくは無かった」

彼は目を伏せ、そして再度私の目を見据えた。

「カタギの貴女の側に私がこうしていることも本来出来ません。
貴女には、貴女を待つ人達がいるでしょう?
私は確かに貴女を愛していますが、貴女の望む愛であるのかは自信がありません。
おそらく私は貴女に狂っている。
こんな凶暴な愛に飲み込まれるより、穏やかな愛の方が貴女には似合っています。
これが最後のチャンスです。
一ヶ月答えを待ちます。
よく考えて下さい、貴女の幸せを」

彼はスーツのポケットから名刺を取り出し、ペンで番号を書いた。

「プライベートの連絡先です。
但し繋がるのはこれから一ヶ月だけ。
それ以降は繋がりませんし、この家にも居ません。
当然本部に来られても一切応じることはありません。
二度と貴女の前に現れないことを誓います」

そう言い切った彼の瞳は、複雑な感情が入り乱れているように見えた。
急に静かになった部屋。
夕暮れのオレンジが部屋に差し込み、その色はゆっくりと夜を知らせる色に変わり始めた。

泣いてはいけないのに涙があふれそうになるのを唇をかんで耐える。
それでも瞳から落ちそうな涙を、彼がそっと拭ってくれた。
彼は自分が狂気のような欲望を抱いているといいながら、最後まで私を縛り付けることをしなかった。
彼と話したい。
話をしたいのに、なかなか言葉が出てこないのがもどかしい。
しばらくして彼が口を開いた。

「車で送りたいのですが、私を見かければ周囲の方が心配するでしょう。
タクシーを呼びますから」

「でもまだ六時過ぎです。
どっか一緒にご飯とか」

なんとか話す時間を作ろうと提案をする。
だけど美東さんは首を横に振った。

「私だってそうしたい。
ですがこれ以上一緒にいればきっと貴女を帰せなくなるでしょう。
良い子だから言うことを聞いて下さい、私のために」

彼の手が私の顎を軽く掴み、彼の顔が近づく。
私は静かに目を瞑る。
最後になるかもしれない口づけを、今はただ感じていたかった。

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