紳士な若頭の危険な狂愛

桜居かのん

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自宅に戻ってから、いつもの日々を過ごした。
アットホームな会社で仕事をし、帰りはスーパーで買い物をして帰る。
歩いているこの商店街には沢山の人が行き交っている。
この中にもヤクザの人はいるのだろうか。
ふと社長の言葉を思い出した。
今のヤクザは一般人にしか見えないのだと。
なら普通に過ごせそうなのにと思う私は、単に自分の気持ちを正当化したいだけなのだろう。

そんな折、会社に大きな仕事が入ってきた。
忙しくなるぞと嬉しそうに息巻く社長や社員達。
そんな時にニュースで目にしてしたのは、暴力団同士の抗争による殺人事件の速報だった。
殺害されたのは組長。
銃で撃ったのは敵対する組の男だった。
ニュースは現場にいるリポーターが事件の概要を説明し、映像には血だまりが映っていた。

(美東さんはこういう世界にいるんだ)

今まで関係ないと思っていたニュースが突然身近に感じてしまう。
彼だって組長になる。
敵対する組もあるというのなら、このような危険を常に感じているのだろうか。

そしてその夜、美東さんが撃たれる夢を見た。
私と手をつなぎ、優しく微笑みかけていた彼が銃弾に倒れる夢。
あまりの生々しさに目を覚まし、顔からは汗が流れていた。
彼に返事をするまでもう一週間を切った。
既に答えは出ている。
ただ別れが待っている以上、未だに覚悟が出来ていなかった。

『綾菜さん!今度このお店行こうよ!
人気のスィーツのお店なんだ。
お父さんとは絶対行きたくないし』

『そこに父さんが混ざるのは駄目なのかい?
二人の分は奢るから』

『絶対いや!
綾菜さん、約束ね!』

昨日帰り際に絵理奈ちゃんがスマホを見せながら嬉しそうに言っていた笑顔が浮かぶ。
社長からは、これからも迷惑かけるねと悲しそうに言われた。

私がいるのはそんな世界。
だけど私の心の中には、暗闇に佇む狂愛を抱いた若頭がずっといる。
品の良いスーツを着こなし丁寧な言葉遣いに優しい態度。
いつも穏やかに笑みを浮かべているのに、そんな同じ表情で割れた瓶を男の手に刺した人。
彼のいる世界はそれがおかしくは無い世界だ。

土曜と言うこともあり一人部屋で過ごし、外は既に暗い。
しばらく瞑った目をあければ、暗い部屋はさっきより見える。
湾岸の美東さんの部屋に行ったとき彼が灯りをつけなかったのは、おそらく意味があったのだろう。

私は机の上に置いてある美東さんのくれた名刺とスマホを手に取った。
数コールで電話は繋がる。

『はい』

「美東さん、一谷です」

『こんばんは』

「私の答えを今、伝えても良いでしょうか」

『えぇ』

「私は・・・・・・」
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