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第一部:オフィス侵攻編
第九話:コンシーラーを剥がした後に
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午後二十時四十五分。
安アパートのドアを開けた瞬間、綺羅々は靴を揃えることすら放棄し、パンプスを脱ぎ散らかしてフローリングに倒れ込んだ。
「……あー、死んだ。今日の私、完全にログアウト。……撤収、解散、強制終了(シャットダウン)……」
オフィスでのあの冷徹な「女神」の面影はどこにもない。
彼女は這うような動作でキッチンへ向かうと、洗っていない鍋をコンロからどかし、冷蔵庫から「ストロング系の缶チューハイ」を引っ張り出した。
プシュッ、という快音が、静まり返った部屋に空虚に響く。
「……くぅぅぅ! 肝臓に染みるわ。これが私の『上書き保存(セーブ)』よ……」
夕食を作る気力など、アスファルトの上に置いてきた。
彼女はコンビニで買った「冷凍たこ焼き」を袋のままレンジに放り込み、適当に温める。皿に出すのも面倒だ。袋を皿代わりにし、マヨネーズを親の敵のようにぶっかける。これが彼女の、誰にも見せられない「ズボラ飯(最適化)」だ。
「おーい、福(ふく)……。お前だけだよ、裏切らないのは……」
呼びかけると、部屋の隅から一匹のジャンガリアンハムスターが、眠そうに顔を出した。
綺羅々は酔った勢いで、ゲージの前に張り付く。
「福……聴いてよぉ。今日の部長、マジで『未定義の変数』並みに意味不明だったの。パッションって何? 単位は何? キログラムなの? センチメートルなの……? ねえ福、お前はどう思うのよぉ……」
福は、綺羅々のベタベタした絡みを無視し、黙々とひまわりの種を齧っている。
その無関心さが、今の綺羅々には心地よい。
「いいよねぇ、お前は……。Excelの関数に悩まされることもないし、コンシーラーでクマを隠す必要もない。……あー、もう無理。お風呂、明日でいいかな……」
半分溶けたコンシーラーが、枕に付着するのも構わず、彼女は福のゲージに指を突っ込んで「もみくちゃ」にしようとして、軽く噛まれた。
「……痛っ。……あはは、デリートされちゃった」
酔いと疲労の限界で、彼女の意識は深い泥の中へと沈んでいく。
明日もまた、六時三十分に「死に損ないの自分」を修復する作業が始まる。
本日も、晴天(という名の地獄)なり。
安アパートのドアを開けた瞬間、綺羅々は靴を揃えることすら放棄し、パンプスを脱ぎ散らかしてフローリングに倒れ込んだ。
「……あー、死んだ。今日の私、完全にログアウト。……撤収、解散、強制終了(シャットダウン)……」
オフィスでのあの冷徹な「女神」の面影はどこにもない。
彼女は這うような動作でキッチンへ向かうと、洗っていない鍋をコンロからどかし、冷蔵庫から「ストロング系の缶チューハイ」を引っ張り出した。
プシュッ、という快音が、静まり返った部屋に空虚に響く。
「……くぅぅぅ! 肝臓に染みるわ。これが私の『上書き保存(セーブ)』よ……」
夕食を作る気力など、アスファルトの上に置いてきた。
彼女はコンビニで買った「冷凍たこ焼き」を袋のままレンジに放り込み、適当に温める。皿に出すのも面倒だ。袋を皿代わりにし、マヨネーズを親の敵のようにぶっかける。これが彼女の、誰にも見せられない「ズボラ飯(最適化)」だ。
「おーい、福(ふく)……。お前だけだよ、裏切らないのは……」
呼びかけると、部屋の隅から一匹のジャンガリアンハムスターが、眠そうに顔を出した。
綺羅々は酔った勢いで、ゲージの前に張り付く。
「福……聴いてよぉ。今日の部長、マジで『未定義の変数』並みに意味不明だったの。パッションって何? 単位は何? キログラムなの? センチメートルなの……? ねえ福、お前はどう思うのよぉ……」
福は、綺羅々のベタベタした絡みを無視し、黙々とひまわりの種を齧っている。
その無関心さが、今の綺羅々には心地よい。
「いいよねぇ、お前は……。Excelの関数に悩まされることもないし、コンシーラーでクマを隠す必要もない。……あー、もう無理。お風呂、明日でいいかな……」
半分溶けたコンシーラーが、枕に付着するのも構わず、彼女は福のゲージに指を突っ込んで「もみくちゃ」にしようとして、軽く噛まれた。
「……痛っ。……あはは、デリートされちゃった」
酔いと疲労の限界で、彼女の意識は深い泥の中へと沈んでいく。
明日もまた、六時三十分に「死に損ないの自分」を修復する作業が始まる。
本日も、晴天(という名の地獄)なり。
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