2 / 29
2.
しおりを挟む
「商売?」
七海以外の三人が、一斉に声を上げた。いきなり商売などという言葉が飛び出してきたからだ。
「商売って、どんなことするの?」口に運ぼうとしたサンドを皿に戻した拓海は、聞き返した。
「何か、いいアイデアでもあるわけ?」美咲も聞き返す。
「そういうわけじゃないんだけどね。でも、お金が欲しい欲しいとか言っていたって、天から降ってくるわけじゃないでしょ。誰かがくれるわけでもないのだったら、自分たちで稼ぐしかないわけじゃん」
「だって、うちの学校、バイトが禁止されているんだよ」
「商売とバイトは違うと思うけどなぁ」
「どこがどう違うんだよ?」
「バイトは、どこかに雇われて他人から指示されながら仕事をするわけだけど、商売は雇われなくてもいいし指示も受けなくていいから、自分たちの好きな時間に好きな方法でやれるでしょ。だったら、勉強にも支障が出ないし、校則違反にはならないと思うんだけど」
拓海にも、七海の言うことが、もっともらしく聞こえていた。
「儲けた分は、全部自分たちの自由なお金になるってことだよな」海斗が、目を輝かせる。
「親にばれないようにお金を手にすることもできるしね」拓海も、秘密のお金を手にしたかった。
美咲も、乗り気な言葉を口にする。
「ちょっと。みんな、本気なの?」七海が、困ったような表情で聞き返した。
「本気って、七海が言い出したことじゃん」
「そうだけど……。商売をやるには、元手がいるんだよ」
「元手は、みんなで持ち寄ればいいじゃん」
「どのくらいのお金が必要なのかな。何十万とか言われても、オレには無理だし」
「いくらなら出せるの?」
「今すぐは、わかんないけど……」
元手の話が広がった。
「ねぇねぇ。いきなり元手の話をしても、しょうがないんじゃない? 何をするのかを決めてからのことだと思うんだけどな」美咲が、広がり出した話を収めにかかった。彼女は、話をまとめるのがうまい。
「それもそうね。ちなみに、この中で、何か具体的なアイデアがあるって人いる?」
七海が、三人の顔を見回した。
問われた三人も、互いに相手と顔を見合わす。みな、アイデアを口にできなかった。
海斗が、グラスの中の爽健美茶を一口飲み、皿に残ったエッグベネディクトを口に運んだ。考え事をしているかのような表情で口を動かす。
女子二人も、パンケーキを口に運びながら、各々考えるような表情を浮かべた。
拓海も、三人に倣って、サンドの残りを口に運びながら、頭の中でアイデアを考えてみた。しかし、これといったアイデアは浮かんでこない。元手が限られているということが、発想を狭くしていた。
「ねぇ。別に、今決めなくてもいいんじゃない?」沈黙の中、七海が、三人に声をかけた。声をかけられた三人が、目が覚めたかのように、視線を元に戻す。
その後、四人で話し合い、それぞれがアイデアを考えたうえで、二日後の土曜日に、どのようなことをやるのかを決めようという話になった。
「商売をやるんだったら、リーダーを決めたほうがいいと思うんだけど」
七海が、リーダーがいたほうがいいと言い出した。行き当たりばったりでは商売はできないから、計画を管理する人間が必要だというのが理由だった。四人の間で意見が分かれたときのまとめ役としても必要だという考えでもある。
七海の意見に、他の三人も賛成した。
しかし、問題は、そのあとだった。誰がリーダーになるかである。
四人は、それぞれ、自分はリーダーには向いていない、誰々さんがいいのではないのかなどと口にし合った。
すんなりとは決まりそうにない空気が漂う。
「だったら、くじ引きにすれば? その方が公平だし、すんなりと決まるでしょ」
美咲の提案に、他の三人が頷いた。
その様子を目にした美咲が、ペーパーナプキンを一枚手に取り、あみだくじを書いた。縦線を四本引き、手で隠しながらどこかの線の下に当たりの印を付け、裏側に折り曲げて見えなくした後に、線と線の間に横線を入れる。
「私は最後に引くから、みんな、好きなところに名前を書いて」美咲が、引きたいくじの上に名前を書くように指示をした。
テーブルの上を滑らすようにくじを手元に引き寄せた海斗が、一本の線の上に名前を書いた。その後、テーブルの上を滑らせながら、拓海にくじを回す。
拓海、七海の順に名前を書いたくじが、美咲の元に戻ってきた。
残った線の上に名前を書いた美咲が、折り曲げていた部分を開いた。
一番左の線から順に、あみだをなぞる。
その結果、拓海がリーダーに選ばれた。
「どうしよう、どうしよう」拓海は、狼狽した。
「出た! 拓ちゃんの、どうしよう、どうしようが」七海が、茶々を入れる。
「そういえば、こいつ、よく言うよな」海斗が、指をさしてきた。
「どうしよう、どうしよう」とは、物事を決めるのが苦手な拓海の口癖だった。
「オレ、無理だって。物事を決めるのが苦手だし」拓海は、救いを求めるように、三人の顔を見回した。
「別に、拓海君一人で何もかもをやれっていう話じゃないわけだし」
「そうだよ。やるのは、みんなで協力してやるんだから」
「優柔不断な性格を直すチャンスだと思って、頑張ってみたら?」
三人の言葉は励ましにも聞こえたが、妥協は許さないという言葉でもあった。
とりわけ、「優柔不断な性格を直すチャンスだと思って、頑張ってみたら?」という七海の言葉は、拓海の胸に重くのしかかっていた。常々、物事をすんなりと決められない自分の性格のことを七海が快く思っていないのではないかと感じていたからだ。
プレッシャーが、拓海の全身を襲った。
七海以外の三人が、一斉に声を上げた。いきなり商売などという言葉が飛び出してきたからだ。
「商売って、どんなことするの?」口に運ぼうとしたサンドを皿に戻した拓海は、聞き返した。
「何か、いいアイデアでもあるわけ?」美咲も聞き返す。
「そういうわけじゃないんだけどね。でも、お金が欲しい欲しいとか言っていたって、天から降ってくるわけじゃないでしょ。誰かがくれるわけでもないのだったら、自分たちで稼ぐしかないわけじゃん」
「だって、うちの学校、バイトが禁止されているんだよ」
「商売とバイトは違うと思うけどなぁ」
「どこがどう違うんだよ?」
「バイトは、どこかに雇われて他人から指示されながら仕事をするわけだけど、商売は雇われなくてもいいし指示も受けなくていいから、自分たちの好きな時間に好きな方法でやれるでしょ。だったら、勉強にも支障が出ないし、校則違反にはならないと思うんだけど」
拓海にも、七海の言うことが、もっともらしく聞こえていた。
「儲けた分は、全部自分たちの自由なお金になるってことだよな」海斗が、目を輝かせる。
「親にばれないようにお金を手にすることもできるしね」拓海も、秘密のお金を手にしたかった。
美咲も、乗り気な言葉を口にする。
「ちょっと。みんな、本気なの?」七海が、困ったような表情で聞き返した。
「本気って、七海が言い出したことじゃん」
「そうだけど……。商売をやるには、元手がいるんだよ」
「元手は、みんなで持ち寄ればいいじゃん」
「どのくらいのお金が必要なのかな。何十万とか言われても、オレには無理だし」
「いくらなら出せるの?」
「今すぐは、わかんないけど……」
元手の話が広がった。
「ねぇねぇ。いきなり元手の話をしても、しょうがないんじゃない? 何をするのかを決めてからのことだと思うんだけどな」美咲が、広がり出した話を収めにかかった。彼女は、話をまとめるのがうまい。
「それもそうね。ちなみに、この中で、何か具体的なアイデアがあるって人いる?」
七海が、三人の顔を見回した。
問われた三人も、互いに相手と顔を見合わす。みな、アイデアを口にできなかった。
海斗が、グラスの中の爽健美茶を一口飲み、皿に残ったエッグベネディクトを口に運んだ。考え事をしているかのような表情で口を動かす。
女子二人も、パンケーキを口に運びながら、各々考えるような表情を浮かべた。
拓海も、三人に倣って、サンドの残りを口に運びながら、頭の中でアイデアを考えてみた。しかし、これといったアイデアは浮かんでこない。元手が限られているということが、発想を狭くしていた。
「ねぇ。別に、今決めなくてもいいんじゃない?」沈黙の中、七海が、三人に声をかけた。声をかけられた三人が、目が覚めたかのように、視線を元に戻す。
その後、四人で話し合い、それぞれがアイデアを考えたうえで、二日後の土曜日に、どのようなことをやるのかを決めようという話になった。
「商売をやるんだったら、リーダーを決めたほうがいいと思うんだけど」
七海が、リーダーがいたほうがいいと言い出した。行き当たりばったりでは商売はできないから、計画を管理する人間が必要だというのが理由だった。四人の間で意見が分かれたときのまとめ役としても必要だという考えでもある。
七海の意見に、他の三人も賛成した。
しかし、問題は、そのあとだった。誰がリーダーになるかである。
四人は、それぞれ、自分はリーダーには向いていない、誰々さんがいいのではないのかなどと口にし合った。
すんなりとは決まりそうにない空気が漂う。
「だったら、くじ引きにすれば? その方が公平だし、すんなりと決まるでしょ」
美咲の提案に、他の三人が頷いた。
その様子を目にした美咲が、ペーパーナプキンを一枚手に取り、あみだくじを書いた。縦線を四本引き、手で隠しながらどこかの線の下に当たりの印を付け、裏側に折り曲げて見えなくした後に、線と線の間に横線を入れる。
「私は最後に引くから、みんな、好きなところに名前を書いて」美咲が、引きたいくじの上に名前を書くように指示をした。
テーブルの上を滑らすようにくじを手元に引き寄せた海斗が、一本の線の上に名前を書いた。その後、テーブルの上を滑らせながら、拓海にくじを回す。
拓海、七海の順に名前を書いたくじが、美咲の元に戻ってきた。
残った線の上に名前を書いた美咲が、折り曲げていた部分を開いた。
一番左の線から順に、あみだをなぞる。
その結果、拓海がリーダーに選ばれた。
「どうしよう、どうしよう」拓海は、狼狽した。
「出た! 拓ちゃんの、どうしよう、どうしようが」七海が、茶々を入れる。
「そういえば、こいつ、よく言うよな」海斗が、指をさしてきた。
「どうしよう、どうしよう」とは、物事を決めるのが苦手な拓海の口癖だった。
「オレ、無理だって。物事を決めるのが苦手だし」拓海は、救いを求めるように、三人の顔を見回した。
「別に、拓海君一人で何もかもをやれっていう話じゃないわけだし」
「そうだよ。やるのは、みんなで協力してやるんだから」
「優柔不断な性格を直すチャンスだと思って、頑張ってみたら?」
三人の言葉は励ましにも聞こえたが、妥協は許さないという言葉でもあった。
とりわけ、「優柔不断な性格を直すチャンスだと思って、頑張ってみたら?」という七海の言葉は、拓海の胸に重くのしかかっていた。常々、物事をすんなりと決められない自分の性格のことを七海が快く思っていないのではないかと感じていたからだ。
プレッシャーが、拓海の全身を襲った。
0
あなたにおすすめの小説
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる