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次の日の学校では、誰も、商売のことは話題にしなかった。
何のアイデアも浮かんでいなかった拓海は、その話を持ちかけられたらどうしようかと内心ひやひやしていたが、誰も口にすることはなかった。
そして、土曜日を迎えた。
午前中の授業を終え、給食を食べ、清掃を終えた四人は、下校途中に、二日前に行ったファミレスに立ち寄った。
ファミレスに到着したのは、午後二時過ぎだった。今回は、ドリンクバーだけを注文した。
それぞれが、好きなドリンクをグラスに入れ、テーブルに着く。
「どういうふうに進めていく?」七海が、商売のアイデアをまとめるための話の進め方を、みんなに問いかけた。
「拓海の司会進行で進めていけばいいんじゃないの」海斗が、当然だろうという顔つきで意見を言う。
「オレが司会をするの?」
「だって、リーダーじゃん」
「頑張ってね」
美咲までもが、当然だろうという表情を向けてきた。
拓海には、反論する余地などなかった。
(どう進めていけばいいんだよ……)拓海は、混乱した。自分自身がアイデアを整理できていなかったからだ。後の三人がちゃんとしたアイデアを考えてきていたら、どうすればいいのだろう。リーダーのくせに何で考えてこなかったんだと言われるにきまっている。
拓海の頭の中に、七海の呆れたような顔が浮かんできた。
(仕方がない)覚悟を決めた拓海は、話を進めることにした。
「あのさぁ、みんな、アイデアを考えてきたんだよね。だから、一人ずつ発表していって、その中で一番良さそうなものをみんなで選ぼうと思うんだけど。それで、いいよね?」
誰も、嫌だとは言わない。
「じゃぁ、まず、海斗から聞いていっていいかな?」拓海は、トップバッターに海斗を指名した。みなの視線が海斗に集まる。
「実はさぁ……」海斗が、困ったなという表情で口ごもった。
拓海は、海斗が言葉をつづけるのを待った。
「ごめん。いろいろと考えてみたんだけどね、これはという内容が思い浮かばなくて……」海斗が、両手を合わせ、ごめんなさいのポーズを取った。
拓海は、気が楽になった。自分だけが責められる心配がなくなったからだ。
いたわるように、「一生懸命考えた結果思い浮かばなかったのなら、仕方がないよ」と、海斗のことを慰める。
「じゃぁ、次、七海は?」
「実は、私もね……」
七海も同じだった。
商売とは何なのか、商売をするためにはどのようなことが必要なのかということを考え、書き出したまでは良かったのだが、では何をするのかという話になると、まったくイメージが浮かんでこなかったということだった。
七海は、書き出したものを、パソコンからプリントアウトして持ってきていた。
続いて話を聞いた美咲も、具体的なアイデアは浮かんでいなかった。
三人の話を聞いた拓海は、自分も何も思いつかなかったのだ、ということを打ち明けた。
目を合わせた四人は、一斉に噴き出した。拓海以外の三人もみな、自分だけがアイデアを整理できていなかったらどうしようかとひやひやしていたようである。
「せっかく集まったんだからさぁ、この場で、みんなで考えてみたらいいんじゃないの?」美咲が、三人の顔を見回した。
そうだねと海斗が頷く。
「七海が、いろいろとまとめていたでしょ。そこから話を始めればいいんじゃない?」
海斗に言われた七海が、一度しまったプリントアウトしたメモを取り出し、四人の間に広げた。
「説明してよ」海斗が、七海を促す。
「わかった。じゃぁ、一個一個説明するね。まず、商売って、二パターンあると思ったの。物を売るパターンと何らかのサービスをするパターン。物を売るパターンの場合は、売る物を仕入れるためのルートとお金が必要で、何らかのサービスをするパターンの場合は、よそがやっていないようなサービスみたいなものが必要だと思うの。いずれの場合も、私たちの商売をアピールするための広告が必要だし、活動するための時間も必要だわ」
さすがは、理論派の七海だった。拓海が、頭の中でそれとなく考えていたことを、上手に説明してくれていた。改めて、彼女のことを頭がいいと感じた。
七海の説明は、海斗と美咲にも伝わった。
拓海は、七海が説明してくれたことをもとにして、四人で議論を進めていくのがいいと思った。
「物を売るパターンの商売の場合、ネックになるのはお金だよね。正直、みんな、いくらくらいなら出せるのかな?」
拓海の問いかけに、三人は、互いの顔を見合わせた。
「ちなみに、オレは、五万円くらいなら何とかなるけど……」拓海は、正直に打ち明けた。
毎年正月にもらうお年玉のうちの半分は自由に使ってもいいと親から言われており、そのお金と毎月の小遣いの残りをひそかに貯めていた。
(こんなことになるんだったら、あんなことに使わなけりゃよかったな……)拓海の頭に、明らかに無駄遣いしたと思われることが浮かんできた。
海斗と七海、美咲も、自由になるお金の金額を打ち明ける。
みな、似たり寄ったりの内容だった。
「こんなんじゃ、心もとないな」海斗が、顔をしかめる。
「金額がどうのこうのよりも、そもそも何を売るのかという話の方が先だと思うんだけど、正直、何も思いつかない」七海が、頭を抱えた。
「現実問題、物を売るパターンの商売は厳しいと思う」拓海も、率直な感想を口にした。
物を売るパターンの商売の場合、売った値段から仕入れた値段を引いた金額が自分たちの儲けになる。安い商品だと、一つ売っても儲けは少ない。高い商品の場合は、儲けは大きくなるが、少ししか仕入れられない。そもそも、売れ残ったら、後が続かなくなる。
拓海には、物を売るパターンの商売で成功するイメージが湧いてこなかった。
拓海は、その思いを口にした。
他の三人も、同じように感じていた。
何のアイデアも浮かんでいなかった拓海は、その話を持ちかけられたらどうしようかと内心ひやひやしていたが、誰も口にすることはなかった。
そして、土曜日を迎えた。
午前中の授業を終え、給食を食べ、清掃を終えた四人は、下校途中に、二日前に行ったファミレスに立ち寄った。
ファミレスに到着したのは、午後二時過ぎだった。今回は、ドリンクバーだけを注文した。
それぞれが、好きなドリンクをグラスに入れ、テーブルに着く。
「どういうふうに進めていく?」七海が、商売のアイデアをまとめるための話の進め方を、みんなに問いかけた。
「拓海の司会進行で進めていけばいいんじゃないの」海斗が、当然だろうという顔つきで意見を言う。
「オレが司会をするの?」
「だって、リーダーじゃん」
「頑張ってね」
美咲までもが、当然だろうという表情を向けてきた。
拓海には、反論する余地などなかった。
(どう進めていけばいいんだよ……)拓海は、混乱した。自分自身がアイデアを整理できていなかったからだ。後の三人がちゃんとしたアイデアを考えてきていたら、どうすればいいのだろう。リーダーのくせに何で考えてこなかったんだと言われるにきまっている。
拓海の頭の中に、七海の呆れたような顔が浮かんできた。
(仕方がない)覚悟を決めた拓海は、話を進めることにした。
「あのさぁ、みんな、アイデアを考えてきたんだよね。だから、一人ずつ発表していって、その中で一番良さそうなものをみんなで選ぼうと思うんだけど。それで、いいよね?」
誰も、嫌だとは言わない。
「じゃぁ、まず、海斗から聞いていっていいかな?」拓海は、トップバッターに海斗を指名した。みなの視線が海斗に集まる。
「実はさぁ……」海斗が、困ったなという表情で口ごもった。
拓海は、海斗が言葉をつづけるのを待った。
「ごめん。いろいろと考えてみたんだけどね、これはという内容が思い浮かばなくて……」海斗が、両手を合わせ、ごめんなさいのポーズを取った。
拓海は、気が楽になった。自分だけが責められる心配がなくなったからだ。
いたわるように、「一生懸命考えた結果思い浮かばなかったのなら、仕方がないよ」と、海斗のことを慰める。
「じゃぁ、次、七海は?」
「実は、私もね……」
七海も同じだった。
商売とは何なのか、商売をするためにはどのようなことが必要なのかということを考え、書き出したまでは良かったのだが、では何をするのかという話になると、まったくイメージが浮かんでこなかったということだった。
七海は、書き出したものを、パソコンからプリントアウトして持ってきていた。
続いて話を聞いた美咲も、具体的なアイデアは浮かんでいなかった。
三人の話を聞いた拓海は、自分も何も思いつかなかったのだ、ということを打ち明けた。
目を合わせた四人は、一斉に噴き出した。拓海以外の三人もみな、自分だけがアイデアを整理できていなかったらどうしようかとひやひやしていたようである。
「せっかく集まったんだからさぁ、この場で、みんなで考えてみたらいいんじゃないの?」美咲が、三人の顔を見回した。
そうだねと海斗が頷く。
「七海が、いろいろとまとめていたでしょ。そこから話を始めればいいんじゃない?」
海斗に言われた七海が、一度しまったプリントアウトしたメモを取り出し、四人の間に広げた。
「説明してよ」海斗が、七海を促す。
「わかった。じゃぁ、一個一個説明するね。まず、商売って、二パターンあると思ったの。物を売るパターンと何らかのサービスをするパターン。物を売るパターンの場合は、売る物を仕入れるためのルートとお金が必要で、何らかのサービスをするパターンの場合は、よそがやっていないようなサービスみたいなものが必要だと思うの。いずれの場合も、私たちの商売をアピールするための広告が必要だし、活動するための時間も必要だわ」
さすがは、理論派の七海だった。拓海が、頭の中でそれとなく考えていたことを、上手に説明してくれていた。改めて、彼女のことを頭がいいと感じた。
七海の説明は、海斗と美咲にも伝わった。
拓海は、七海が説明してくれたことをもとにして、四人で議論を進めていくのがいいと思った。
「物を売るパターンの商売の場合、ネックになるのはお金だよね。正直、みんな、いくらくらいなら出せるのかな?」
拓海の問いかけに、三人は、互いの顔を見合わせた。
「ちなみに、オレは、五万円くらいなら何とかなるけど……」拓海は、正直に打ち明けた。
毎年正月にもらうお年玉のうちの半分は自由に使ってもいいと親から言われており、そのお金と毎月の小遣いの残りをひそかに貯めていた。
(こんなことになるんだったら、あんなことに使わなけりゃよかったな……)拓海の頭に、明らかに無駄遣いしたと思われることが浮かんできた。
海斗と七海、美咲も、自由になるお金の金額を打ち明ける。
みな、似たり寄ったりの内容だった。
「こんなんじゃ、心もとないな」海斗が、顔をしかめる。
「金額がどうのこうのよりも、そもそも何を売るのかという話の方が先だと思うんだけど、正直、何も思いつかない」七海が、頭を抱えた。
「現実問題、物を売るパターンの商売は厳しいと思う」拓海も、率直な感想を口にした。
物を売るパターンの商売の場合、売った値段から仕入れた値段を引いた金額が自分たちの儲けになる。安い商品だと、一つ売っても儲けは少ない。高い商品の場合は、儲けは大きくなるが、少ししか仕入れられない。そもそも、売れ残ったら、後が続かなくなる。
拓海には、物を売るパターンの商売で成功するイメージが湧いてこなかった。
拓海は、その思いを口にした。
他の三人も、同じように感じていた。
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