ボクたち、孫代行をやってみました

makotochan

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 家に帰った拓海は、海斗と七海、美咲の三人に、LINEで五千四百円の売上金があったことを報告した。記録用のファイルに、日付と金額を記入する。
 もらった現金は、学習机の鍵のかかる引き出しの中にしまった。
 その後、パソコンを立ち上げ、メールをチェックした。
 メールは、二通来ていた。
 一通は、最近申し込んだメルマガだった。
 そして、もう一通は、知らない男性からのメールだった。題名に、『チラシを見ました』と書かれてある。
 拓海は、本文に目を移した。
 孫代行の依頼メールだった。営業日に指定した水曜日と土曜日、日曜日のどれでも構わないということも書かれてあった。
 拓海は、何か特別な希望があるかどうかを聞くためのメールを返信した。

 月曜日、給食を終えた昼休みの時間、校庭の隅の用具入れ小屋の前に、拓海たち四人は集まった。
 春の暖かな日差しが降り注ぐ校庭では、大勢の生徒たちが、鬼ごっこやボール遊びなどをして遊んでいた。
 拓海からの報告を聞くために四人は集まったのだが、商売をしていることを周囲に知られたくなかったので、人目につかない校庭の隅にやってきた。
 拓海は、三人に、昨日の出来事を詳しく説明した。出された食事や買い物の内容までをも、具体的に説明する。
 「オムライス、おいしかった?」拓海の腕を軽くたたきながら、美咲が聞いてきた。
 「すごい、おいしかった。卵も、ふわとろでさぁ」家のオムライスは、正直、卵を焼きすぎなのではないかと、拓海は、前から感じていた。
 「ハンバーグは、どうだった?」美咲が、さらに聞いてくる。
 「おいしかったよ」
 「拓ちゃんが一日相手をしてあげたことを、満足してもらえたみたいだった?」七海が、本質的なことを聞いてきた。
 「うん。また連絡したら来てもらえますかって言われた。知り合いにも、ボクたちのことを教えてくれるって言っていたし」
 「広めてほしいよなぁ」海斗が、目を輝かせた。頭の中で、金儲けをしているシーンをイメージしているみたいに見えた。
 「広まったら、いいよねぇ」美咲も、浮かれている。
 「これからも孫代行を続けていくうえで、こういうことは気を付けなきゃみたいなことはなかったの?」七海一人が冷静だった。
 「とくにはないけど……。でも、買い物に付き合うときは、用心した方がいいかもね」拓海は、藤本さんと二人でショッピングモールへ行った時のことを思い返した。もちろん、誰とも顔を合わせることはなかったのだが、しばらくは、びくびくしながら歩いていた。
 「友達に見られる分には何とでも言い訳できるけど、問題は、家族だよな」海斗も、同じことを心配していた。
 「実際に、家族に見られたときは、なんて言い訳すればいいのかな?」
 「友達の家のおじいちゃんやおばあちゃんと一緒に買い物に来たっていうのも、変だしね」
 「たまたまその場で仲良くなった人と一緒に行動していました、みたいに言うしかないんじゃないのかな?」
 美咲が口にした言い訳が、今のところは最善であるように、拓海も感じていた。

 藤本さんに関する話を一通り終えた拓海は、もう一件、メールで連絡が来ていることを三人に伝えた。そのうえで、三人の予定を確認する。
 ゴールデンウィークまでは、特別な予定のある人間はいなかった。
 「その人は、いつでもいいって言ってきているんだよね?」海斗が、依頼者の都合を確認した。
 拓海が、そうだよ、と返事をする。
 「昨日は拓海が行ってくれたから、今度は、ボクたち三人のうちの誰かが行かなくちゃならないわけだけど」
 「どうする?」美咲が、海斗と七海の顔を、交互に見回した。
 「じゃんけんでもする?」七海が、じゃんけんで決めることを口にする。
 「ちょっと待って」拓海は、じゃんけんを始めそうになった三人の手を遮った。何か特別な希望があるかどうかを聞いたメールの答えが返ってきていなかったからだ。もしかしたら、性別を指定してくるかもしれない。
 「どうしよう。スケベな爺さんだったら」希望があるかどうかを確認しているということを耳にした美咲が、不安げな表情を浮かべた。
 「美咲は、相手が爺さんの場合は、止めにする?」
 「七海は、構わないの?」
 「私は、別に構わないけど」
 「私も、構わないんだけどね」
 どっちなんだよ、と拓海は思った。反面、女子が心配するのは当然だとも思った。最近、小さな女の子がいたずらされる事件が、よく起こっているからだ。
 「拓海は、どう思っているんだよ?」
 「何が?」
 「男性の依頼者の家に、女子が向かうことに関してだよ」
 「本人が構わないんだったら、いいんじゃないのかなと思っているけど」
 と言いつつも、拓海の胸に迷いが生じていた。女子が男性の依頼者のもとへは向かわないことにしてしまうと、四人で均等に対応することが難しくなる。ローテーション管理を任されている自分の負担も増す。しかし、一人暮らしの男性の家に女子を向かわすのも、危険と言えば危険だ。
 「そこまで神経質にならなくても、いいんじゃないの?」
 「でも、男の家に女が一人で行くんだよ」
 さばさばした表情の七海とは対照的に、美咲は、不安がぬぐえずにいるようであった。
 「だったら、美咲は一人暮らしの男の人の家には行かないということにして、男性から依頼があった場合は、極力オレと拓海とで対応するっていう風にすればいいじゃん。手が回らない時や、相手が女子を希望してきた時は、七海に行ってもらうってことでいいんじゃないの」
 「でも、そんな風にしたら、拓海君の管理が大変になるんじゃない?」
 「そうだろうけどさ。拓海は、どうなんだよ? そうなると面倒くさいから、反対か?」
 海斗からの問いかけに、拓海は、迷いを引きずっていた。正直、管理が面倒くさくなるのは目に見えている。しかし、男の家に女子を向かわせるのも心配だ。
 「別に、いいけどさ」拓海は、曖昧に返事をした。
 「今度から、男の人から依頼の連絡が来たときは、一人暮らしかどうかを聞くことにしたら? 男の人からの依頼でも、家族と一緒に暮らしている場合は、危険は少ないと思うし。そのうえで、どうしてもっていうときにだけ順番を変えるみたいにすれば、管理もマシになるんじゃない?」
 七海の意見に、拓海は頷いた。
 こうして、今後、男性から依頼があった場合は、一人暮らしかどうかの確認を行うことになった。
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