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孫代行の話をもう少し詳しく聞かせてと藤本さんからせがまれた拓海は、四人で商売のアイデアを考えたときのことやチラシを作ったときのことなどを話した。藤本さんも、楽しげに話を聞いてくれた。
「いろいろと大変だったでしょう」
「そんなでもなかったですけど……。ノリでやっちゃったみたいな感じでしたから」
「でも、みんなで意見をまとめていくのとかも、大変なんじゃないの? 誰か、まとめ役がいるのかしら?」
「一応、ボクがリーダーをやっています」
「あら、そうだったの。でも、あなたなら、リーダーに相応しいと思うわ」
藤本さんが、相応しいという言葉を何度も繰り返した。
拓海は、相応しいが繰り返されるたびに否定した。たまたまくじ引きで選ばれただけなのだということも説明する。
「そうだとしても、あなたには、リーダーになる素質があるのだと思うわ」藤本さんは、完全に買いかぶっていた。藤本さんは、自分が物事を決められないタイプの人間なのだということを知らない。そのような場面に直面すると、いろいろなことが頭に浮かんできてしまい、決断ができなくなってしまうのだ。
拓海の脳裏に、決められずにいる自分のことを冷ややかに見つめている七海の顔が浮かび上がった。拓海の胸が、切なさでいっぱいになる。
「何か、あなたを困らせることを言ってしまったのかしら……」落ち込んだ様子の拓海を目にした藤本さんの表情も曇った。自分のことを気にかけてくれていることが、拓海に伝わった。
拓海は、悩みを口にしたくなった。
「ボクって、決められない人間なんです」
「決断力がないってことなの?」
「はい……。決めなきゃいけないと思えば思うほど、いろんなことが頭に浮かんできて、それでテンパってしまって、決められなくなるんです。だから、ボクは、絶対にリーダーなんかには向いていないんです」
「そうね。リーダーには、決断が求められるものね」
「だから、ボクにはリーダーなんかは務まらないんですけど、くじ引きに負けちゃったから、仕方がないからやっているだけなんです」
「そうだったの……。でも、あなたは、決断できる人間になりたいと思っているのでしょう?」
「はい」
「だったら、これを機会に、決断できるようになってみればいいんじゃないのかしら?」
藤本さんが、リーダーに選ばれたのを機に、決断ができる人間へと生まれ変わってみたらどうだということを口にした。
拓海も、このままではいけないと思っていた。決められない自分にストレスを感じることが多かったからだ。周りからも、良くは思われない。何よりも、男らしくない。でも、どうしたらよいのかがわからないのだ。
「いろいろなことを考えちゃうんでしょう?」考えにふける拓海に、藤本さんが問いかけてきた。
拓海は頷いた。いろいろなことが頭に浮かんできてしまい、そして、いろいろと考えてしまうのだ。
「私も、そうだったのよ。いろいろと考えてしまうタイプだったの。でもね、ある時に気づいたの。あーでもないこーでもないと考えるのって、無駄じゃないのかなってね。とりあえずこうしてみようって決めてみて、失敗したなと感じたら、その時にもう一度考えてみたらいいんじゃないのかなってね」
「でも、どうするのが一番ましかっていうのを判断するのって、難しくないですか?」
「何が一番ましかなんて、誰にもわからないと思うわ。だって、これから先に起こることをわかる人なんていないのだから。その時点では一番良い答えだと思ったとしても、状況が変われば、よくない答えに変わってしまうこともあるわけでしょう。だったら、都合のよくないことが起こったらまた考えるということを条件に、その時に一番いいと思ったことで決めてしまうのが、良いやり方なのではないのかしら」
藤本さんが言うことは、わからないでもなかった。とりあえず決めて、都合の悪いことが起こったら、その時点で考えることにすれば、気持ちも楽になる。
わかってはいるのだが、サクッと決めることができないのだ。できることならば、失敗はしたくない。周囲にも迷惑をかけたくない。だから、何が一番ましなのかをじっくりと考えてしまう。
拓海は、そのことを口にした。
「失敗も、取り返しのつくものと取り返しのつかないものとがあるのだと思うのだけど」すかさず、藤本さんが言葉を返してくる。
「取り返しがつく失敗って、どんなことですか?」拓海には、ピンと来なかった。失敗は、文字通り失敗だろうと思っていたからだ。
「自分にとって良くない結果が出た時点で、考えて軌道修正することで、その後は良い方向へ持っていくことができるようなことよ。例えば、いくつかの答え中で一つが正解だったときに、正解でないものを選んでしまったとしても、正解でないと気づいた時点で違うものを選び直していけば、正解を出せないままことが進むことは避けられるわけでしょう? あるいは、選んだことによる結果が自分の望んでいないものだったときに、そのような結果になるのだということを覚えることで、次からは失敗をせずに済むようになることもあるじゃない。ほら、失敗は成功のもとっていう言葉だってあるわけだし。身の回りで起こることのほとんどが取り返しのつくことなのだと思うし、成功につながることでもあるんだから、失敗することを恐れずに、積極的に決断したほうがいいのだと、私は思うわ」
「人に迷惑をかけることがあってもですか?」
「ある程度のことは、仕方がないのじゃないのかしら。人様に全く迷惑をかけずに生きていくことなんてできないわけだし。自分が決めたことで他人に迷惑が及んだのなら、迷惑の程度を最小に食い止めようとしながら、その後は迷惑をかけないための決断をすればいいと思うの。そういう姿勢が見えれば、周りの人も、悪くは思わないと思うわ」
そういうものなのかなと、拓海は思った。
自分が間違った判断をして、その結果周囲に迷惑が及んでも、フォローする姿勢を見せれば、周りは悪く思わないものなのだろうか。
自分は、周囲の目を気にしすぎているのかもしれない。お前のせいでこうなったみたいに言われるのが嫌で決められないことがあったことは事実だった。
いつから、そのように思うようになっていたのだろう。
拓海は、過去の記憶を思い起こした。周囲の人間からお前のせいでこうなったのだと責められたことが何度かあった。そのことが原因で、人に迷惑をかけることが怖くなり、失敗することを恐れるようになっていた。
他人に迷惑をかけずに生きることなどできないのだという藤本さんの言葉がよみがえってきた。長く生きてきた藤本さんが言うのだから、そういうものなのだろう。迷惑をかけずに生きることができないのであれば、迷惑をかけたときにちゃんとした対応を取ればよいのだという考えも的を射ているような気がする。
そんな風に考えれば、自分も楽になれるのかもしれないな。
拓海は、何かがすっきりとしたように感じた。
そっと、視線を藤本さんの方へ向けてみる。
藤本さんは、やさしい笑顔を浮かべていた。
「いろいろと大変だったでしょう」
「そんなでもなかったですけど……。ノリでやっちゃったみたいな感じでしたから」
「でも、みんなで意見をまとめていくのとかも、大変なんじゃないの? 誰か、まとめ役がいるのかしら?」
「一応、ボクがリーダーをやっています」
「あら、そうだったの。でも、あなたなら、リーダーに相応しいと思うわ」
藤本さんが、相応しいという言葉を何度も繰り返した。
拓海は、相応しいが繰り返されるたびに否定した。たまたまくじ引きで選ばれただけなのだということも説明する。
「そうだとしても、あなたには、リーダーになる素質があるのだと思うわ」藤本さんは、完全に買いかぶっていた。藤本さんは、自分が物事を決められないタイプの人間なのだということを知らない。そのような場面に直面すると、いろいろなことが頭に浮かんできてしまい、決断ができなくなってしまうのだ。
拓海の脳裏に、決められずにいる自分のことを冷ややかに見つめている七海の顔が浮かび上がった。拓海の胸が、切なさでいっぱいになる。
「何か、あなたを困らせることを言ってしまったのかしら……」落ち込んだ様子の拓海を目にした藤本さんの表情も曇った。自分のことを気にかけてくれていることが、拓海に伝わった。
拓海は、悩みを口にしたくなった。
「ボクって、決められない人間なんです」
「決断力がないってことなの?」
「はい……。決めなきゃいけないと思えば思うほど、いろんなことが頭に浮かんできて、それでテンパってしまって、決められなくなるんです。だから、ボクは、絶対にリーダーなんかには向いていないんです」
「そうね。リーダーには、決断が求められるものね」
「だから、ボクにはリーダーなんかは務まらないんですけど、くじ引きに負けちゃったから、仕方がないからやっているだけなんです」
「そうだったの……。でも、あなたは、決断できる人間になりたいと思っているのでしょう?」
「はい」
「だったら、これを機会に、決断できるようになってみればいいんじゃないのかしら?」
藤本さんが、リーダーに選ばれたのを機に、決断ができる人間へと生まれ変わってみたらどうだということを口にした。
拓海も、このままではいけないと思っていた。決められない自分にストレスを感じることが多かったからだ。周りからも、良くは思われない。何よりも、男らしくない。でも、どうしたらよいのかがわからないのだ。
「いろいろなことを考えちゃうんでしょう?」考えにふける拓海に、藤本さんが問いかけてきた。
拓海は頷いた。いろいろなことが頭に浮かんできてしまい、そして、いろいろと考えてしまうのだ。
「私も、そうだったのよ。いろいろと考えてしまうタイプだったの。でもね、ある時に気づいたの。あーでもないこーでもないと考えるのって、無駄じゃないのかなってね。とりあえずこうしてみようって決めてみて、失敗したなと感じたら、その時にもう一度考えてみたらいいんじゃないのかなってね」
「でも、どうするのが一番ましかっていうのを判断するのって、難しくないですか?」
「何が一番ましかなんて、誰にもわからないと思うわ。だって、これから先に起こることをわかる人なんていないのだから。その時点では一番良い答えだと思ったとしても、状況が変われば、よくない答えに変わってしまうこともあるわけでしょう。だったら、都合のよくないことが起こったらまた考えるということを条件に、その時に一番いいと思ったことで決めてしまうのが、良いやり方なのではないのかしら」
藤本さんが言うことは、わからないでもなかった。とりあえず決めて、都合の悪いことが起こったら、その時点で考えることにすれば、気持ちも楽になる。
わかってはいるのだが、サクッと決めることができないのだ。できることならば、失敗はしたくない。周囲にも迷惑をかけたくない。だから、何が一番ましなのかをじっくりと考えてしまう。
拓海は、そのことを口にした。
「失敗も、取り返しのつくものと取り返しのつかないものとがあるのだと思うのだけど」すかさず、藤本さんが言葉を返してくる。
「取り返しがつく失敗って、どんなことですか?」拓海には、ピンと来なかった。失敗は、文字通り失敗だろうと思っていたからだ。
「自分にとって良くない結果が出た時点で、考えて軌道修正することで、その後は良い方向へ持っていくことができるようなことよ。例えば、いくつかの答え中で一つが正解だったときに、正解でないものを選んでしまったとしても、正解でないと気づいた時点で違うものを選び直していけば、正解を出せないままことが進むことは避けられるわけでしょう? あるいは、選んだことによる結果が自分の望んでいないものだったときに、そのような結果になるのだということを覚えることで、次からは失敗をせずに済むようになることもあるじゃない。ほら、失敗は成功のもとっていう言葉だってあるわけだし。身の回りで起こることのほとんどが取り返しのつくことなのだと思うし、成功につながることでもあるんだから、失敗することを恐れずに、積極的に決断したほうがいいのだと、私は思うわ」
「人に迷惑をかけることがあってもですか?」
「ある程度のことは、仕方がないのじゃないのかしら。人様に全く迷惑をかけずに生きていくことなんてできないわけだし。自分が決めたことで他人に迷惑が及んだのなら、迷惑の程度を最小に食い止めようとしながら、その後は迷惑をかけないための決断をすればいいと思うの。そういう姿勢が見えれば、周りの人も、悪くは思わないと思うわ」
そういうものなのかなと、拓海は思った。
自分が間違った判断をして、その結果周囲に迷惑が及んでも、フォローする姿勢を見せれば、周りは悪く思わないものなのだろうか。
自分は、周囲の目を気にしすぎているのかもしれない。お前のせいでこうなったみたいに言われるのが嫌で決められないことがあったことは事実だった。
いつから、そのように思うようになっていたのだろう。
拓海は、過去の記憶を思い起こした。周囲の人間からお前のせいでこうなったのだと責められたことが何度かあった。そのことが原因で、人に迷惑をかけることが怖くなり、失敗することを恐れるようになっていた。
他人に迷惑をかけずに生きることなどできないのだという藤本さんの言葉がよみがえってきた。長く生きてきた藤本さんが言うのだから、そういうものなのだろう。迷惑をかけずに生きることができないのであれば、迷惑をかけたときにちゃんとした対応を取ればよいのだという考えも的を射ているような気がする。
そんな風に考えれば、自分も楽になれるのかもしれないな。
拓海は、何かがすっきりとしたように感じた。
そっと、視線を藤本さんの方へ向けてみる。
藤本さんは、やさしい笑顔を浮かべていた。
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