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家に帰り、晩御飯を済ませ、授業の予習と復習を終わらせた拓海は、新しいチラシの内容を考え始めた。
ざっくりとした考えはあった。四人のメンバーのプロフィールを載せたらよいのではないかという考えである。そうすることで、チラシを受け取った人も、どんな人が来てくれるのかということのイメージを持つことができ、連絡してみようかという気になるのではないだろうか。
しかし、そこから先の考えが、スムーズに進まなかった。
プロフィールといっても、いろいろとある。たくさん書きすぎると、一枚の紙に収まらなくなる。おじいちゃんやおばあちゃんたちが目にするチラシなので、小さな字でちょこちょこと書くわけにもいかない。
一度チラシを作ったことで、この程度の字数に収めなければならないということも、頭の中に入っていた。
拓海は、頭を悩ませた。
自分が考えると宣言したものの、なかなか考えがまとまらない。
部屋の時計を見た。時計の針は、午後十時前を差していた。
普段は、十時半から十一時くらいの間には寝るようにしている。
この感じだと、ずるずると夜中まで考えてしまいそうな気がした。
(どうしよう、どうしよう……)拓海の胸の中の声が発した。決断できない苦しみが、胸を襲う。
その時だった。スマホのLINEの着信ランプが光った。
拓海は、スマホを手に取った。LINEの送り主は七海だった。七海と海斗、美咲との間で、LINEグループ上でのやり取りをしているが、今回のメッセージは、グループを介さずに直接送られてきた。
メッセージの内容は、新しいチラシに、メンバーのプロフィールを載せたらよいのではないかという意見だった。一緒に考えようよという気持ちを伝えるスタンプも送られてきた。
拓海は、うれしくなった。七海は、自分だけにメッセージを送ってくれている。二人だけの間で秘密の共有が始まるような錯覚に陥った。
拓海は、自分もそう考えているのだが、どのようなことを書いたらよいのか悩んでいることを伝えた。
送信メッセージに既読が付き、すかさず、メッセージが送り返されてくる。
「いろいろとは書けないよね」
「だよね。字を小さくするわけにもいかないし」
「拓ちゃんは、どんなことを書こうと思ったの?」
「名前と身長体重、好きなアーティストや食べ物、趣味、得意な科目、他にもいろいろと浮かんできて、まとめられないんだけど」
「そんなに書く?」
「書けないのはわかっているんだけど、絞れないんだよ」
「字数って、前の時くらいがいいんでしょ?」
「だって、字を小さくしたら歳をとっている人は読みづらいって、七海が言ったじゃん」
「そうだったっけ?」
「そうだよ」
「私は、おじいちゃんやおばあちゃんが孫に関して知りたがることを書けばいいんじゃないのかなって思っている」
「例えば?」
「今、はまっていることとか」
「興味のあることってこと?」
「うん。おじいちゃんやおばあちゃんの家に遊びに行ったとき、いつも聞かれない?」
「聞かれるね」
「でしょ。たぶんそれって、孫代行を利用してくれるおじいちゃんやおばあちゃんたちも同じだと思うのよ」
「そうだね。そうしようか」
「そうしてみて」
「好きな食べ物も、あった方がいいかもな。一緒に食事をするパターンが多いから」
「賛成」
「それくらいでいいのかな?」
「実はね、面白いことが浮かんでいるんだけど、私たち四人の顔のイラストを描いて、吹き出しの中に一言メッセージみたいなものを入れるのって、どう思う?」
「メッセージって、どんな?」
「おじいちゃんやおばあちゃんたちに向けた応援メッセージ」
「明るく楽しく生きていきましょう、みたいな?」
「そんな感じのこと」
「海斗、そういうの、できるのかな?」
「できるんじゃない? 彼、グラフィックオタクだから」
最初のチラシも、イラストやレイアウト関係は、海斗に任せていた。
七海とやり取りをしたことで、拓海の頭の中が整理されていった。すっきりとしたチラシのイメージが、頭の中で浮かんでくる。
拓海は、そのことを伝えたうえで、チラシの案をまとめてメールで送ると七海に伝えた。
そんな拓海に向って、七海から、思いもよらないメッセージが返されてきた。
「最近の拓ちゃん、頑張っているね」
目からハートが飛び出た女の子のスタンプも押されている。
拓海の胸の鼓動が高鳴った。頑張っているとは、どういう意味なのだろう。
拓海の中で、独りよがりの妄想が広がっていった。もしかして、七海は……。
しばらく経った後、メッセージを返した。
「ゴメン。トイレに行っていた。頑張っているって、どういうこと?」
心の動揺を悟られないように、言い訳をする。
七海からの返事は、すぐに来た。
「自分から率先してやろうとするようになったじゃん。決断も早くなったし」
「そうかな?」
「今回のリーダーになってから、拓ちゃん、変わったように思うな」
「自分じゃ、わかんないけど」
「変わったよ。かっこよく見える」
再び、拓海の胸の鼓動が高鳴った。本当に、今の自分は、七海の目から見て、かっこよく映っているのだろうか。だとしたら、この調子で、今後も頑張っていかなければならない。
「もう遅いから、そろそろLINE止めるね」
七海から送られてきたメッセージを確認した拓海は、スマホの時間表示を見た。時刻は、午後十時半を過ぎていた。かなり長い時間、二人だけでLINEを続けていた。
拓海は、充実感を覚えた。
「わかった。また明日ね」メッセージを送り返す。
すかさず、七海から就寝スタンプが送られてきた。
拓海も、スタンプを送り返した。
ざっくりとした考えはあった。四人のメンバーのプロフィールを載せたらよいのではないかという考えである。そうすることで、チラシを受け取った人も、どんな人が来てくれるのかということのイメージを持つことができ、連絡してみようかという気になるのではないだろうか。
しかし、そこから先の考えが、スムーズに進まなかった。
プロフィールといっても、いろいろとある。たくさん書きすぎると、一枚の紙に収まらなくなる。おじいちゃんやおばあちゃんたちが目にするチラシなので、小さな字でちょこちょこと書くわけにもいかない。
一度チラシを作ったことで、この程度の字数に収めなければならないということも、頭の中に入っていた。
拓海は、頭を悩ませた。
自分が考えると宣言したものの、なかなか考えがまとまらない。
部屋の時計を見た。時計の針は、午後十時前を差していた。
普段は、十時半から十一時くらいの間には寝るようにしている。
この感じだと、ずるずると夜中まで考えてしまいそうな気がした。
(どうしよう、どうしよう……)拓海の胸の中の声が発した。決断できない苦しみが、胸を襲う。
その時だった。スマホのLINEの着信ランプが光った。
拓海は、スマホを手に取った。LINEの送り主は七海だった。七海と海斗、美咲との間で、LINEグループ上でのやり取りをしているが、今回のメッセージは、グループを介さずに直接送られてきた。
メッセージの内容は、新しいチラシに、メンバーのプロフィールを載せたらよいのではないかという意見だった。一緒に考えようよという気持ちを伝えるスタンプも送られてきた。
拓海は、うれしくなった。七海は、自分だけにメッセージを送ってくれている。二人だけの間で秘密の共有が始まるような錯覚に陥った。
拓海は、自分もそう考えているのだが、どのようなことを書いたらよいのか悩んでいることを伝えた。
送信メッセージに既読が付き、すかさず、メッセージが送り返されてくる。
「いろいろとは書けないよね」
「だよね。字を小さくするわけにもいかないし」
「拓ちゃんは、どんなことを書こうと思ったの?」
「名前と身長体重、好きなアーティストや食べ物、趣味、得意な科目、他にもいろいろと浮かんできて、まとめられないんだけど」
「そんなに書く?」
「書けないのはわかっているんだけど、絞れないんだよ」
「字数って、前の時くらいがいいんでしょ?」
「だって、字を小さくしたら歳をとっている人は読みづらいって、七海が言ったじゃん」
「そうだったっけ?」
「そうだよ」
「私は、おじいちゃんやおばあちゃんが孫に関して知りたがることを書けばいいんじゃないのかなって思っている」
「例えば?」
「今、はまっていることとか」
「興味のあることってこと?」
「うん。おじいちゃんやおばあちゃんの家に遊びに行ったとき、いつも聞かれない?」
「聞かれるね」
「でしょ。たぶんそれって、孫代行を利用してくれるおじいちゃんやおばあちゃんたちも同じだと思うのよ」
「そうだね。そうしようか」
「そうしてみて」
「好きな食べ物も、あった方がいいかもな。一緒に食事をするパターンが多いから」
「賛成」
「それくらいでいいのかな?」
「実はね、面白いことが浮かんでいるんだけど、私たち四人の顔のイラストを描いて、吹き出しの中に一言メッセージみたいなものを入れるのって、どう思う?」
「メッセージって、どんな?」
「おじいちゃんやおばあちゃんたちに向けた応援メッセージ」
「明るく楽しく生きていきましょう、みたいな?」
「そんな感じのこと」
「海斗、そういうの、できるのかな?」
「できるんじゃない? 彼、グラフィックオタクだから」
最初のチラシも、イラストやレイアウト関係は、海斗に任せていた。
七海とやり取りをしたことで、拓海の頭の中が整理されていった。すっきりとしたチラシのイメージが、頭の中で浮かんでくる。
拓海は、そのことを伝えたうえで、チラシの案をまとめてメールで送ると七海に伝えた。
そんな拓海に向って、七海から、思いもよらないメッセージが返されてきた。
「最近の拓ちゃん、頑張っているね」
目からハートが飛び出た女の子のスタンプも押されている。
拓海の胸の鼓動が高鳴った。頑張っているとは、どういう意味なのだろう。
拓海の中で、独りよがりの妄想が広がっていった。もしかして、七海は……。
しばらく経った後、メッセージを返した。
「ゴメン。トイレに行っていた。頑張っているって、どういうこと?」
心の動揺を悟られないように、言い訳をする。
七海からの返事は、すぐに来た。
「自分から率先してやろうとするようになったじゃん。決断も早くなったし」
「そうかな?」
「今回のリーダーになってから、拓ちゃん、変わったように思うな」
「自分じゃ、わかんないけど」
「変わったよ。かっこよく見える」
再び、拓海の胸の鼓動が高鳴った。本当に、今の自分は、七海の目から見て、かっこよく映っているのだろうか。だとしたら、この調子で、今後も頑張っていかなければならない。
「もう遅いから、そろそろLINE止めるね」
七海から送られてきたメッセージを確認した拓海は、スマホの時間表示を見た。時刻は、午後十時半を過ぎていた。かなり長い時間、二人だけでLINEを続けていた。
拓海は、充実感を覚えた。
「わかった。また明日ね」メッセージを送り返す。
すかさず、七海から就寝スタンプが送られてきた。
拓海も、スタンプを送り返した。
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