元魔王は気弱な貴族令嬢に転生しました

Luno

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序章

プロローグ_2

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「無理よ。私は人間の王たちと『魔法契約』を結んだの」

リゼリアの言葉に、セイルの顔から血の気が引いた。

「彼らは追い詰められていたわ。内乱、飢え、民の不満、それらは全て限界に達していた。それでも『自分たちが間違っていた』とは言えないから、無理やり戦を続けていたの。…そして見つけた。『魔王討伐』という物語をね」

「まさか……」

「魔王である私の心臓と引き換えに、戦争を終わらせる契約よ。破ったら王族の血は根絶やし…!ふふ、なかなか良い取引でしょ?」

リゼリアはくすっと笑った。

「契約の内容は『勇者の剣が魔王に触れたら、その命が絶たれる』こと。これで魔王討伐の英雄譚も完成ってわけよ」

セイルの剣が、がくりと下がった。全てが仕組まれていたことを理解して。

「なんでリゼが、そんな契約を…。王なんて殺せばよかったじゃないか!!そしてこの戦争をさっさと終わらせて僕のところに戻ってきてくれれば…。リゼは強いんだからそんなこと、一瞬でできるはずじゃないか…」

「…殺せないのよ」

「……え?」

「私も戦争が始まってから知ったのだけど、初代国王と私の祖先は契約を結んでいたの。互いの血筋を殺さないという、絶対の魔法契約よ」

(元凶である王を殺そうなんて、一番初めに考えたわよ)

「そんな、待ってくれ…!なら民を駆り出している王家は…」

「ええ、民は契約に守られてないから、私の魔獣にも殺されるわ。でも王族は別よ。魔獣は私自身の一部だから、私と同じ契約に縛られる。王族には指一本触れられないの」

セイルは言葉を失った。

「な…なら、他の魔族に頼めば…」

「王城には聖騎士がいることを忘れたの?あの聖魔法の中じゃ、普通の魔族は力を発揮できないのよ。あれを突破できるのは私くらいだったけど…私は契約で手が出せない。ほんと、私の祖先を殴り飛ばしてやりたいわ」

「…僕も手伝いたいくらいだよ」

必死に笑おうとするセイルを見て、リゼリアは目を伏せる。

(…あなたを預けて姿を消した時、私はあなたが普通の人生を送ると思ってた。あの時、一緒にいる選択をしていれば、あなたと共に戦争を終わらすこともできたかもしれないわね…今更こんな事考えても遅いけれど)

リゼリアは小さく息をついた。

「まあとにかく、王族は最初から自分たちは絶対に死なないって知ってたの。だから安全な玉座で、民だけが死ぬ戦争を続けられたのよ」

「そんな…じゃあ今まで戦って命を落とした民は…」

「王族の欲を満たすための道具ってところかしら。自分は死なないと知った上で、『国のため』『魔王を倒すため』と送り出し続けたんだもの。…私にとっては違ったけれど」

「リゼ……」

「ごめんね、セイル。本当は、あなたともっと一緒にいたかったけど…この長い戦争を終わらせるには、この方法しか思いつかなかったの。それに――まさかあなたが勇者だなんて思わなかったから…つらいことをお願いすることになるわね」

リゼリアの声は、かすかに震えていた。

「……王を殺す。そうすれば契約は——」

「無駄よ」

リゼリアは静かに首を振った。

「魔法契約は一度結んだら解除できないの。王を殺しても、私は助からない。契約を果たすしかないのよ」

セイルの拳が震えた。
私はセイルの拳を両手で包む。

「いいのよ、私が決めたことだもの。それよりも、この先の世界をあなたに見届けてほしいの。この終わらせ方が、本当に正しかったのか――誰も憎まなくていい世界になるのか」

(――ただの独りよがりだったのかもしれない。でも、もう後戻りはできないわ)

「…もし私が間違っていたそのときは……セイルが正しいと思う道を選んで。人間でありながら、魔族の私を家族と呼んでくれたあなたなら、きっとできるわ」

長い沈黙の後、セイルが口を開いた。

「……わかった。リゼが命をかけて作る平和を、僕が守る。そして証明してみせる。君の選択は間違ってなかったって。だからもう、心配しないで」

セイルの言葉に、リゼリアは安心したように微笑んだ。そして自身の胸に手を当てると、赤く光る小さな宝玉がそっと現れる。

「私の『欠片』をあなたに託すわ」

「欠片…?」

「私の魔力の一部よ。何の役に立つかは分からないけど…今まで一緒にいられなかった分、これからはずっとそばにいるから」

宝玉がセイルの胸元へ静かに吸い込まれていく。

「温かい…。リゼの体温みたいだ」

セイルは泣きそうな顔で笑いながら言った。
リゼリアはその光が吸い込まれていくのを見届け、セイルの手に握られた剣にそっと指先を添える。

「さぁこれで……契約は果たされるわ」

その瞬間、淡い光が彼女の体を静かに包み込みはじめる。
セイルの目が見開かれる。これが、本当の別れなのだと悟った。

「ありがとう、勇者セイル。私の大切な弟……大好きよ」

「リゼ…そんな…!待ってくれ!僕はまだ――」

セイルの叫びが遠くなるのを感じながら、リゼリアは静かに目を閉じた。
空を見上げ泣き崩れるセイルの背後で、黒空に一筋の赤星が流れていく。

それは、三百年後。
魔王がとして再び目覚める運命を告げる、始まりの合図だった。

◇◇◇

時は流れ――

「――嬢様。お嬢様っ!起きてください!」

荒々しくもけだるげな女の声が、頭の奥に響いてきた。

「いつまで寝てるんですか…もう朝です!早く目を覚ましてください、ったく、これだから…」

がつんと乱暴に何かが机に置かれる音と共に、頭蓋骨を砕かれるような激しい痛みが走った。

「……っ…うっ…!」

瞳を開けた瞬間、そこには見知らぬ天井が広がっていた。
白い漆喰に、金の装飾が施された天井。豪華なはずなのに、なぜかみすぼらしく感じる。

(……何?この天井...見覚えがない)

頭がぼんやりとして、思考がまとまらない

(ここは...どこ?私は……)
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