元魔王は気弱な貴族令嬢に転生しました

Luno

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本編

8話 リゼナの日記_2

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〇月〇日
マーサが屋敷を出ることになった。リリーの宝石をマーサが盗んだって…。
でも、そんなはずない。絶対に違う。
マーサは、私がまだ小さかったころからずっとそばにいてくれた。

髪をとかしてくれたり、眠れない夜に歌を歌ってくれたり…お母様がいなくなったあとも、ずっと優しくしてくれた。
そんな人が、宝石なんて盗むはずないって…何度もそう言ったけど、誰も聞いてくれなかった。
お父様がいたら、きっと止めてくれたのに。

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〇月〇日
ヴィルが最近、ずっと忙しそう。
前は、たまに一緒に本を読んでくれたり、庭で魔法の練習を見てくれたりしたのに。

「まだ魔法も出ないのに、練習なんか意味ないだろ」って言われた。

目も合わなかった。……たぶん、がっかりされてるんだろうな。

────────────
〇月〇日
リリーと話すことが少なくなった。
昔みたいに一緒にお菓子を作ったり、おそろいの髪飾りをつけたりしなくなった。

それに、最近すごく笑顔が可愛くなった。私の前では、ちょっとだけ違う顔だけど……。
私のこと、どう思ってるのかな。聞くのがこわい。

────────────
〇月〇日
お義母様の顔を見るだけで、息がしづらくなった。
朝食のときも、廊下ですれ違ったときも、怒られているわけじゃないのに、身体がぎゅってなる。
リリーやヴィルと話しているときは、あんなに優しそうなのに。
……私だけ、違う目で見られてる気がする。

────────────
〇月〇日
最近、侍女がよく代わる。前までいた子がいなくなって、いつの間にか知らない人がいる。
「別の持ち場に行っただけ」と言われたけど……本当にそうなのかな?
なんだか、最近は人の言葉をすぐに信じられなくなってきた。

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〇月〇日
お父様にお手紙を出した。もう何通書いたか覚えてないくらい。
ちゃんとマーサのことも書いたし、お兄様やリリーのことも書いた。
でも……返事はまだこない。遠くにいるから、仕方ないって思いたいけど…。
返事がほしい。お父様の字を、声を、会えなくても少しだけ感じたい。

────────────

ページを繰るたび、胸の奥がじわりと熱くなっていく。
日記に綴られた少女の「願い」と「孤独」が、リゼリアの心を揺さぶってやまなかった。

(…家族に認められたくて、居場所がほしくて頑張っていたのにどうしてもうまくいかなかった女の子…。あの子はずっとここでひとりだったのに、諦めずに生きていたのね)

リゼリアはそっと手を止め、目を閉じた。

「だいたい、わかったわ。あなたが、どんなふうにここで生きてきたのか。……それだけは、忘れないでおくわ。リゼナ」

だがその直後、ページの隙間から一枚の紙片がふわりと落ちた。

──それは、日記の切れ端。

周囲のページとは違い、わざと破られたような痕があった。
破られ、一度くしゃくしゃにした形跡がある一枚だった。

リゼリアは静かにそれを拾い上げる。

────────────
〇月〇日
また食事を抜かされた。
理由はやっぱりわからない。お義母様に、何か気に障ることをしちゃったのかもしれないけど、わからない。
聞いても答えてくれないし、謝っても「黙って。あっちに行きなさい」の一言で終わっちゃう。

お腹がすいて眠れなかったから、夜中にこっそり厨房まで行った。
そしたら使用人の子が、パンの耳をくれたの。すごく美味しくて、幸せだった。
だって、たくさんお話しできたから。こんなに楽しくお話しできたのはいつぶりだろう。

でも…ユナがパンの耳を盗んだって、屋敷を出ていくことになった。
…また、大切な人がいなくなる。私のせいで!

私が、空腹を我慢できなかったから。

────────────

ページの端ではインクがにじんでいた。
涙を拭うことも忘れて、必死に想いを綴ろうとした痕跡がある。

「ひどい…理由も言わずに食事を抜くなんて…。これじゃなにがいけなかったのかわからないじゃない。それにパンのかけらを分けてくれた優しい子まで追い出すなんて」

リゼリアの声が震えた。
これは虐待以外の何物でもない。
そして誰一人として、この少女を守ろうとしなかったし、数少ない味方は次々と消えていった。

「……同じね。魔族だからって理由で虐げられていた子供たちと。何の罪もないのに、理不尽に差別されて、飢えて……」

あの時の自分には力があったから、全てを壊してでも守ると決めることができた。

――けれど、目の前のこの少女は?

この屋敷という牢獄の中で、声をあげることも許されず、ひとりきりで泣き続けていた。
助けを呼ぶことさえできない、そんな閉ざされた世界で。

「リゼナ、頑張ったわね。私は、あなたのためにここにいるわ」

その言葉は誰に聞かれることもなく、空気に溶けて消えていく。
なぜリゼナの体に、リゼリアの魂が入ったのは分からない。だが、リゼリアはこのからだに宿ったのが自分でよかったと思った。

「あなたの苦しみを無駄にしたくない。なぜリゼナの体に私の魂が入ったのかは分からないけど、あなたの痛みに恥じない生き方をしてみせるわ」

この体の少女、リゼナが叶えられなかった願いを胸に、この人生を大切に生きていこう。

そう心に誓った瞬間、空気がふわりと揺れ、紫の宝石があしらわれた日記帳が夕陽の光を受けて輝いた。

もう自分はただのリゼリアではなく、リゼナという少女の人生を引き継いだ、新しい存在なのだと。

こうしてリゼリア――いや、リゼナの新しい物語が、静かに幕を開けた。
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