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本編
19 社交界のお華たち
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リリアナは扇子を優雅に閉じて、取り巻きの令嬢たちに向き直る。
「皆様、改めてご紹介させていただきます。こちらは私の姉、リゼナです」
そして、一人ずつ丁寧に紹介を始めた。
「こちらはアメリア・ベルトラン伯爵令嬢」
リリアナが示した先には、栗色の髪を複雑に結い上げた令嬢が立っていた。エメラルドグリーンのドレスが、彼女の薄茶色の瞳を引き立てている。小柄で華奢な体つきは、まるで小鳥のようだ。
「詩作がお得意で、王都の文芸サロンでも評判なんですよ」
アメリアが慌てて礼をした。頬が緊張で赤く染まっているが、黒いドレスの威圧感に怯えているようにもみえる。
「お、お目にかかれて光栄ですわ、リゼナ様」
「こちらこそ、アメリア様。詩作をなさるのね。私、詩を読むのは大好きなのだけれど、作るのは苦手で……どんな詩を書かれるの?」
「あの、主に自然を題材にした詩を……」
「まあ、素敵っ!」
リゼナは目を輝かせる。
「自然の中には、言葉では表現しきれない美しさがありますものね。なのにそれを詩という形で捉えられるなんて、素晴らしい才能だわ!」
アメリアの頬が、今度は嬉しさでほんのりと染まった。
「そんな風におっしゃっていただけるなんて.....初めてです......」
「そうなの?誰しもが感じると思うけれど…。いつか作品を見せていただけるかしら?きっと、新しい世界を発見できるはずだわ」
リゼナの穏やかな返答で、アメリアの緊張が少し解けた。
リリアナの微笑みには一瞬、わずかな硬さが混じる。リゼナはそれを見逃さなかった。
アメリアが自分との会話にすっかり心を奪われている様子を、リリアナも当然察しているのだろう。
「そして、こちらはソフィア・モンターニュ侯爵令嬢」
次にリリアナが示した先には、赤茶色の髪を一つに編み込んだ令嬢が立っていた。日に焼けた健康的な肌と、しっかりとした体格が、いかにも活動的な印象を与える。クリーム色のドレスを着ているが、その姿勢の良さは馬上での鍛錬を物語っていた。
「代々、優れた名馬を育てることで知られるご家門ですの」
「まあ、名馬を育ててらっしゃるのね」
リゼナの目が興味深そうに輝いた。
「馬を育てるというのは、きっと深い愛情と忍耐が必要なのでしょうね。単に世話をするだけでなく、一頭一頭の性格を理解して……」
「えっ……?」
ソフィアのオレンジ色の瞳が、驚きで見開かれた。夕焼けのような瞳が戸惑いに揺れ、そばかすの浮いた頬が赤くなる。
「まさにその通りですわ!でも、そんな風に理解してくださる方は珍しくて……」
ソフィアが感激したように身を乗り出しかけたが、ふと何かを思い出したように言葉を続けた。
「あの、リゼナ様は乗馬もなさるのですか?リリアナ様から、最近落馬されたと伺いましたけれど……」
ソフィアの一言に、リリアナの笑顔が一瞬だけ強張った。しかし、すぐに心配そうな表情を作ると慌てたように口を挟む。
「ええ、そうなんです。お医者様からも、しばらくは馬に近づかない方が良いと……」
「ああ、落馬のことね」
リゼナは落ち着いた様子で言うと、リリアナの心配をやんわりと制した。
「確かに一度は落ちたけれど、幸い大きな怪我もなく…。今思えば、あれも必要な経験だったのかもしれないわ。今度はもっと馬と心を通わせられそうな気がするの」
リゼナの言葉を聞いたソフィアの表情が少し和らいだ。失敗を前向きに捉え、馬との関係をより深く理解しようとするリゼナの姿勢に、馬を愛する者として共感するものがあったようだ。
「今まではただ乗ることばかり考えていたけれど、本当は馬の気持ちを理解することが大切なのだと気付けたわ」
「まあ……!」
ソフィアの表情が一変した。まるで同志を見つけたかのような喜びが、その顔に浮かぶ。
「その通りですわ!馬は本当に賢くて、私たちの気持ちをちゃんと理解してくれるんです!ちゃんと心を通わせれば、信頼し合える関係になれるのですよ」
「まあっ。馬に対してそれほど深い愛情をお持ちのソフィア様なら、きっと素晴らしい子たちと信頼関係を築いていらっしゃるのでしょうね」
「リゼナ様……」
ソフィアの声に感動が滲んだ。
「あの、もしよろしければ、今度うちの馬たちに会いにいらっしゃいませんか?きっと父も、馬の心を理解しようとされるリゼナ様なら喜んでお迎えすると思います」
「お心遣いありがとう、ソフィア様。そんな素敵なお申し出をいただけて嬉しいわ」
「とんでもないですわ!」
ソフィアの声には心からの喜びが込められていた。リゼナは温かい微笑みを浮かべる。
「ふふ、でしたらお言葉に甘えて、後日ぜひお邪魔させていただきますね。今から楽しみで仕方ないですわ」
その時、涼やかな声が会話に割り込んだ。
「乗馬も良いですけれど、まずは家名の名誉をお考えになってはいかがかしら?」
「皆様、改めてご紹介させていただきます。こちらは私の姉、リゼナです」
そして、一人ずつ丁寧に紹介を始めた。
「こちらはアメリア・ベルトラン伯爵令嬢」
リリアナが示した先には、栗色の髪を複雑に結い上げた令嬢が立っていた。エメラルドグリーンのドレスが、彼女の薄茶色の瞳を引き立てている。小柄で華奢な体つきは、まるで小鳥のようだ。
「詩作がお得意で、王都の文芸サロンでも評判なんですよ」
アメリアが慌てて礼をした。頬が緊張で赤く染まっているが、黒いドレスの威圧感に怯えているようにもみえる。
「お、お目にかかれて光栄ですわ、リゼナ様」
「こちらこそ、アメリア様。詩作をなさるのね。私、詩を読むのは大好きなのだけれど、作るのは苦手で……どんな詩を書かれるの?」
「あの、主に自然を題材にした詩を……」
「まあ、素敵っ!」
リゼナは目を輝かせる。
「自然の中には、言葉では表現しきれない美しさがありますものね。なのにそれを詩という形で捉えられるなんて、素晴らしい才能だわ!」
アメリアの頬が、今度は嬉しさでほんのりと染まった。
「そんな風におっしゃっていただけるなんて.....初めてです......」
「そうなの?誰しもが感じると思うけれど…。いつか作品を見せていただけるかしら?きっと、新しい世界を発見できるはずだわ」
リゼナの穏やかな返答で、アメリアの緊張が少し解けた。
リリアナの微笑みには一瞬、わずかな硬さが混じる。リゼナはそれを見逃さなかった。
アメリアが自分との会話にすっかり心を奪われている様子を、リリアナも当然察しているのだろう。
「そして、こちらはソフィア・モンターニュ侯爵令嬢」
次にリリアナが示した先には、赤茶色の髪を一つに編み込んだ令嬢が立っていた。日に焼けた健康的な肌と、しっかりとした体格が、いかにも活動的な印象を与える。クリーム色のドレスを着ているが、その姿勢の良さは馬上での鍛錬を物語っていた。
「代々、優れた名馬を育てることで知られるご家門ですの」
「まあ、名馬を育ててらっしゃるのね」
リゼナの目が興味深そうに輝いた。
「馬を育てるというのは、きっと深い愛情と忍耐が必要なのでしょうね。単に世話をするだけでなく、一頭一頭の性格を理解して……」
「えっ……?」
ソフィアのオレンジ色の瞳が、驚きで見開かれた。夕焼けのような瞳が戸惑いに揺れ、そばかすの浮いた頬が赤くなる。
「まさにその通りですわ!でも、そんな風に理解してくださる方は珍しくて……」
ソフィアが感激したように身を乗り出しかけたが、ふと何かを思い出したように言葉を続けた。
「あの、リゼナ様は乗馬もなさるのですか?リリアナ様から、最近落馬されたと伺いましたけれど……」
ソフィアの一言に、リリアナの笑顔が一瞬だけ強張った。しかし、すぐに心配そうな表情を作ると慌てたように口を挟む。
「ええ、そうなんです。お医者様からも、しばらくは馬に近づかない方が良いと……」
「ああ、落馬のことね」
リゼナは落ち着いた様子で言うと、リリアナの心配をやんわりと制した。
「確かに一度は落ちたけれど、幸い大きな怪我もなく…。今思えば、あれも必要な経験だったのかもしれないわ。今度はもっと馬と心を通わせられそうな気がするの」
リゼナの言葉を聞いたソフィアの表情が少し和らいだ。失敗を前向きに捉え、馬との関係をより深く理解しようとするリゼナの姿勢に、馬を愛する者として共感するものがあったようだ。
「今まではただ乗ることばかり考えていたけれど、本当は馬の気持ちを理解することが大切なのだと気付けたわ」
「まあ……!」
ソフィアの表情が一変した。まるで同志を見つけたかのような喜びが、その顔に浮かぶ。
「その通りですわ!馬は本当に賢くて、私たちの気持ちをちゃんと理解してくれるんです!ちゃんと心を通わせれば、信頼し合える関係になれるのですよ」
「まあっ。馬に対してそれほど深い愛情をお持ちのソフィア様なら、きっと素晴らしい子たちと信頼関係を築いていらっしゃるのでしょうね」
「リゼナ様……」
ソフィアの声に感動が滲んだ。
「あの、もしよろしければ、今度うちの馬たちに会いにいらっしゃいませんか?きっと父も、馬の心を理解しようとされるリゼナ様なら喜んでお迎えすると思います」
「お心遣いありがとう、ソフィア様。そんな素敵なお申し出をいただけて嬉しいわ」
「とんでもないですわ!」
ソフィアの声には心からの喜びが込められていた。リゼナは温かい微笑みを浮かべる。
「ふふ、でしたらお言葉に甘えて、後日ぜひお邪魔させていただきますね。今から楽しみで仕方ないですわ」
その時、涼やかな声が会話に割り込んだ。
「乗馬も良いですけれど、まずは家名の名誉をお考えになってはいかがかしら?」
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