濡れ衣悪役令嬢、偽聖女の治癒魔法を暴きます

Luno

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12 【SIDE】セレスティア_3

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セレスティアの心臓が跳ねる。

「アルベルト様!!私ずっと…ずっとお会いしたくて——」

「ヴィオレッタ」

アルベルトはセレスティアの言葉を遮り、ヴィオレッタに視線を向けた。
ヴィオレッタを見る瞳は、先ほどまでの冷たさとは違い、心配そうな色が浮かんでいる。

「ベルトラン教授が呼んでいる。俺も同席するから一緒に行こう」

「え、ええ…」

アルベルトはそれだけ言うと、ヴィオレッタを促すように踵を返す。

(えっ?もう行っちゃうの!?私がいるのに!)

セレスティアは慌てて声をかけた。

「あのっ、アルベルト様!」

その声にアルベルトは振り返る。

「……。…お前が聖女、と呼ばれているやつか」

「はい!セレスティア・ローズと申します」

「ちょうどいい。お前には言っておくことがある」

(言っておくこと…?もしかして、聖女認定された後に起きる接触イベント!?)

セレスティアは期待に胸が膨らむが、その期待はすぐに打ち砕かれた。

「ところかまわず治癒魔法をかけるのをやめろ」

「……え?」

「何の魔力検査も受けていない者が、軽率に他者へ魔法をかけるなど非常識にもほどがある」

「ど、どういうことでしょうか!」

「そのままの意味だ」

「そんな、非常識だなんて…!私の治癒魔法はみんなに感謝されています!実際、怪我だって治して——」

「結果が出ているから問題ない、とでも言いたいのか?」

アルベルトの目が冷たく光った。

「人の魔導路には限界がある。それを超えた魔力を流し込めば、相手の魔道路は破壊され、二度と魔法が使えなくなる危険性があるというのに。お前は対象の魔力の容量を確かめてから治癒を行っているのか?」

「まどうろ…?容量…?」

(どういうこと…?何を言ってるの…?)

セレスティアは言葉に詰まった。ゲームにそんな設定はなかった。
アルベルトは戸惑うセレスティアを一瞥し、呆れたように息を吐いた。

「まさか魔法の基礎すら理解していないとはな。学院の生徒でも一年で習う内容だ」

(は?そんなの聞いてないし知らないんだけど!)

いや、聞いていなかったのはセレスティアの方だった。ゲームの知識があるからと、授業はまともに聞いていなかったのである。

「で、でも私は聖女として——」

「聖女だと?」

アルベルトの声がより一層低くなる。

「周囲に持ち上げられて調子に乗っているようだが、学院が認定したわけでもない。そもそも神殿の見極めを受けたわけでもないが、学院内で無許可の医療行為を繰り返している。これがどれほど問題か、わからないほど愚かなのか?」

(っ……!)

頭が真っ白になった。こんな言われ方をされるなんて思ってもいなかった。

「ひどい…私はただ、みんなの役に立ちたくて…」

セレスティアは目に涙を浮かべ、すがるように見上げるが、アルベルトは眉一つ動かさない。

「はぁ、泣けば許されると思っているなら、救いようがないな」

「なっ…!」

セレスティアの顔が怒りと羞恥で赤くなる。

「ひどすぎます…!どうしてそこまで言われなきゃいけないんですか…!」

「…話にならないな」

アルベルトはそう言って背を向ける。

「待ってください!私はヴィオレッタ様のことを心配して——」

「お前が何を考えているかは知らないが、今後一切ヴィオレッタに近づくな。俺にもな」

「アルベルト、なにもそんな言い方をしなくても…」

ヴィオレッタが困ったように口を挟んだ。

(は…?なんでお前がでてくるの?)

ヴィオレッタがアルベルトを止める様子に、セレスティアの中で黒い感情がぐるぐると渦を巻いた。

「…すまない。だが、これ以上お前が傷つくのを黙って見ていられない」

「アル…」

2人の親密な雰囲気が、セレスティアを更に苛立たせる。

(おかしい。こんなのおかしいっ…!アルベルト様は私に興味を持つはずなのに!エドワードの件でヴィオレッタの本性は分かったはずでしょ!?この女が故意に雷撃を当てたって思うはずなのに…!)

アルベルトは再びセレスティアに視線を向け、どこか怒りを押し殺すような声で言った。

「先ほどお前がヴィオレッタと交わしていた話は聞いていた。生憎、ヴィオレッタが一人になることはない。俺がそばにいるからな」

「誤解です!私はただ、ヴィオレッタ様のお力になりたくて…」

「ご親切なことだ。だが、お前の『力』とやらは必要ない」

(…………っ)

一切の余地のない拒絶に、セレスティアは言葉を失った。

「行くぞ、ヴィオレッタ」

「……ええ」

アルベルトはヴィオレッタの歩調に合わせるように、ゆっくりと歩き出す。
彼女を守るように並んで歩く愛しい人を見ながら、セレスティアはその場に立ち尽くしていた。

(…おかしい)

握りしめた拳が震える。

(おかしい、おかしい、おかしい…!)

アルベルトの冷たい視線が脳裏に焼きついて離れない。対称的にヴィオレッタを見る時の優しい表情。
そして、セレスティアを庇うようにアルベルトを窘めた、ヴィオレッタを思い出す。

(なんであの女だけ…!アルベルト様は私を好きになるはずなのに…!)

いや違う。アルベルト様は悪くない。アルベルト様は騙されているだけだ。

(全部あの女…ヴィオレッタがバグってるせいでストーリーがめちゃくちゃになってるじゃん!ふざけんなよ!!)

顔が歪んでいく。いつも被っていた聖女の仮面は、もうどこにもなかった。
歪んだ怒りは、やがて冷たく凝固していく。

(……バグは、直さないといけない――)

その瞳に、暗い光が宿る。黒い靄が、彼女の周囲でかすかに揺らめいた。

(でも直らないなら——消去するしかないよね)

校舎裏の影が、じわじわとセレスティアを飲み込んでいく。
その瞳の奥で、黒い何かがちらりと光った。
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