濡れ衣悪役令嬢、偽聖女の治癒魔法を暴きます

Luno

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旧校舎を離れ、アルベルトと並んで歩く。

(助かったわ…まさかアルベルトが来るなんて…。今までどこにいたのかしら)

事件以来、アルベルトの姿をほとんど見かけなかった。

「…大丈夫か」

「ええ、平気よ」

黙って歩いていたら心配させてしまったみたいだ。

「それよりどうしてあそこに?最近姿を見せなかったのに、急に現れるなんて」

「調べ物をしていた。孤児院や教会の古い記録を当たっていたんだが…その帰りに、お前が旧校舎から出てくるのを見かけてな」

「孤児院…?」

「ああ。そのまま様子を見ていたら、あの転入生との会話が聞こえてしまったんだ」

「…そうなのね」

「声をかけるか迷ったんだが…お前の顔を見たら黙っていられず…すまない」

(……っ)

切なそうな表情で言うアルベルトを、私は直視できなかった。
顔をそらしながら答える。

「いいのよ。正直、あの状況を抜け出す方法が思いつかなくて…むしろ助かったわ。でもどうして孤児院の記録なんて調べてたの?」

「…あの女の身元を洗っていたんだ。孤児院出身なのに姓があることが気になってな」

「それは学院長が『詮索しないように』と仰っていたじゃない。私も疑問ではあったけれど、表に出せない血筋の子がいることなんて、貴族じゃ珍しくないわ」

「隠し子、ということか」

「ええ。『ローズ』なんて聞いたことのない姓だったから、本当の家名を隠すための偽名かと思っていたの」

「俺も最初はそう考えたんだが、最近の学院の状況を見て気になってな。あの女について学院長に再度確認したが…具体的な説明は何もなかった。ただ彼女を庇うばかりでな」

「学院長がそんな曖昧な対応をするなんて…よほど知られたくない事情があるのかしら?…実は隠された皇女様だったり…?」

私は冗談交じりに言ってみた。

「馬鹿をいうな。あんな品性のない女が皇女だとしたら国が滅びる」

「ちょっと!何もそこまで言わなくても…さっきのセレスティアさんに対する態度も――」

私は思わず笑いそうになったが、ふとセレスティアの言葉を思い出してしまう。彼女がうっとりと語ったあの言葉。

——とても素敵な方で…思わず見惚れちゃいました。

「…ねえアルベルト、あなたはセレスティアさんのこと…どう――」

「興味がない」

間髪入れずに返ってきた。

「……まだ最後まで言ってないんだけど」

「どう思うか、と聞きたかったんだろう。興味がない。以上だ」

「興味がないって…今じゃ彼女、学院中で『聖女様』と呼ばれてるのよ?みんな夢中なのに」

「だからどうした。周りが聖女だと騒いでいても俺の目にはそう映らないからな」

「だからって…本当に何とも思わないの?」

「…やけにつっかかるな」

アルベルトが足を止めて、こちらを見る。

「なんだ、あの女が俺に惚れていると言っていたのが気になるのか?」

「えっ…!?ち、違っ……どうしてそれを……」

「最初から聞いていたと言っただろう。『素敵な方で見惚れた』とか何とか。…どうでもいいが」

「そ、そうだったわ…。…っ別に、気になってるわけじゃ…」

顔が熱い。なんで私が動揺してるの。

「そうか」

ちらりと見たアルベルトの顔が、わずかに緩んでいた。

「……何笑ってるのよ」

「笑っていない」

「笑ってるじゃない」

「気のせいだ」

そう言いながらも、口元の緩みは消えない。
私はわざとらしく溜息をつくと、軽い口調で言った。

「まあ、あんなに可愛くて綺麗な子に好かれてるなら嬉しくもなっちゃうわよね」

「あれのどこが可愛くて綺麗なんだ。厚かましくて目障りの間違いだろう」

「あなた…そんな冷たい人だったかしら…」

アルベルトは足を止めた。

「……俺が優しくしたいと思うのはお前だけだ」

言葉が止まった。

「……え?」

「俺はお前のことで手一杯なんだ。他の奴を気にかける余裕なんてない……それだけだ」

彼は前を向いたまま、淡々と言った。

「……っ」

思わず顔をそらす。胸がいたい。

(なんでこんなこと聞いてしまったのかしら。聞いたら苦しくなるだけだって、わかってたのに…まだ、気持ちを捨てきれていなかったのね)

私は無理やり気持ちを押し込めると、明るく微笑んだ。

「……そう。あなたって本当に変わってるわね。おかげで生徒会の仕事がはかどって助かるわ」

「……」

アルベルトは何も言わなかった。

(……ごめんね、アル)

応えたい。本当は応えたい。
でも私にはもう、その資格がない。

レオン殿下の婚約者に選ばれたあの日、この気持ちには蓋をしたつもりだった。そうしなければ、私と真剣に向き合おうとしてくれていた殿下に、あまりにも失礼だから。

たとえ今その婚約が揺らいでいたとしても、それを言い訳に蓋を開けるわけにはいかない。

「…早く教授のところへ行きましょう。待たせてしまうわ」

「…ああ」

短い返事。それ以上、アルベルトは何も言わなかった。
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