13 / 14
13 蓋をしたもの
しおりを挟む
旧校舎を離れ、アルベルトと並んで歩く。
(助かったわ…まさかアルベルトが来るなんて…。今までどこにいたのかしら)
事件以来、アルベルトの姿をほとんど見かけなかった。
「…大丈夫か」
「ええ、平気よ」
黙って歩いていたら心配させてしまったみたいだ。
「それよりどうしてあそこに?最近姿を見せなかったのに、急に現れるなんて」
「調べ物をしていた。孤児院や教会の古い記録を当たっていたんだが…その帰りに、お前が旧校舎から出てくるのを見かけてな」
「孤児院…?」
「ああ。そのまま様子を見ていたら、あの転入生との会話が聞こえてしまったんだ」
「…そうなのね」
「声をかけるか迷ったんだが…お前の顔を見たら黙っていられず…すまない」
(……っ)
切なそうな表情で言うアルベルトを、私は直視できなかった。
顔をそらしながら答える。
「いいのよ。正直、あの状況を抜け出す方法が思いつかなくて…むしろ助かったわ。でもどうして孤児院の記録なんて調べてたの?」
「…あの女の身元を洗っていたんだ。孤児院出身なのに姓があることが気になってな」
「それは学院長が『詮索しないように』と仰っていたじゃない。私も疑問ではあったけれど、表に出せない血筋の子がいることなんて、貴族じゃ珍しくないわ」
「隠し子、ということか」
「ええ。『ローズ』なんて聞いたことのない姓だったから、本当の家名を隠すための偽名かと思っていたの」
「俺も最初はそう考えたんだが、最近の学院の状況を見て気になってな。あの女について学院長に再度確認したが…具体的な説明は何もなかった。ただ彼女を庇うばかりでな」
「学院長がそんな曖昧な対応をするなんて…よほど知られたくない事情があるのかしら?…実は隠された皇女様だったり…?」
私は冗談交じりに言ってみた。
「馬鹿をいうな。あんな品性のない女が皇女だとしたら国が滅びる」
「ちょっと!何もそこまで言わなくても…さっきのセレスティアさんに対する態度も――」
私は思わず笑いそうになったが、ふとセレスティアの言葉を思い出してしまう。彼女がうっとりと語ったあの言葉。
——とても素敵な方で…思わず見惚れちゃいました。
「…ねえアルベルト、あなたはセレスティアさんのこと…どう――」
「興味がない」
間髪入れずに返ってきた。
「……まだ最後まで言ってないんだけど」
「どう思うか、と聞きたかったんだろう。興味がない。以上だ」
「興味がないって…今じゃ彼女、学院中で『聖女様』と呼ばれてるのよ?みんな夢中なのに」
「だからどうした。周りが聖女だと騒いでいても俺の目にはそう映らないからな」
「だからって…本当に何とも思わないの?」
「…やけにつっかかるな」
アルベルトが足を止めて、こちらを見る。
「なんだ、あの女が俺に惚れていると言っていたのが気になるのか?」
「えっ…!?ち、違っ……どうしてそれを……」
「最初から聞いていたと言っただろう。『素敵な方で見惚れた』とか何とか。…どうでもいいが」
「そ、そうだったわ…。…っ別に、気になってるわけじゃ…」
顔が熱い。なんで私が動揺してるの。
「そうか」
ちらりと見たアルベルトの顔が、わずかに緩んでいた。
「……何笑ってるのよ」
「笑っていない」
「笑ってるじゃない」
「気のせいだ」
そう言いながらも、口元の緩みは消えない。
私はわざとらしく溜息をつくと、軽い口調で言った。
「まあ、あんなに可愛くて綺麗な子に好かれてるなら嬉しくもなっちゃうわよね」
「あれのどこが可愛くて綺麗なんだ。厚かましくて目障りの間違いだろう」
「あなた…そんな冷たい人だったかしら…」
アルベルトは足を止めた。
「……俺が優しくしたいと思うのはお前だけだ」
言葉が止まった。
「……え?」
「俺はお前のことで手一杯なんだ。他の奴を気にかける余裕なんてない……それだけだ」
彼は前を向いたまま、淡々と言った。
「……っ」
思わず顔をそらす。胸がいたい。
(なんでこんなこと聞いてしまったのかしら。聞いたら苦しくなるだけだって、わかってたのに…まだ、気持ちを捨てきれていなかったのね)
私は無理やり気持ちを押し込めると、明るく微笑んだ。
「……そう。あなたって本当に変わってるわね。おかげで生徒会の仕事がはかどって助かるわ」
「……」
アルベルトは何も言わなかった。
(……ごめんね、アル)
応えたい。本当は応えたい。
でも私にはもう、その資格がない。
レオン殿下の婚約者に選ばれたあの日、この気持ちには蓋をしたつもりだった。そうしなければ、私と真剣に向き合おうとしてくれていた殿下に、あまりにも失礼だから。
たとえ今その婚約が揺らいでいたとしても、それを言い訳に蓋を開けるわけにはいかない。
「…早く教授のところへ行きましょう。待たせてしまうわ」
「…ああ」
短い返事。それ以上、アルベルトは何も言わなかった。
(助かったわ…まさかアルベルトが来るなんて…。今までどこにいたのかしら)
事件以来、アルベルトの姿をほとんど見かけなかった。
「…大丈夫か」
「ええ、平気よ」
黙って歩いていたら心配させてしまったみたいだ。
「それよりどうしてあそこに?最近姿を見せなかったのに、急に現れるなんて」
「調べ物をしていた。孤児院や教会の古い記録を当たっていたんだが…その帰りに、お前が旧校舎から出てくるのを見かけてな」
「孤児院…?」
「ああ。そのまま様子を見ていたら、あの転入生との会話が聞こえてしまったんだ」
「…そうなのね」
「声をかけるか迷ったんだが…お前の顔を見たら黙っていられず…すまない」
(……っ)
切なそうな表情で言うアルベルトを、私は直視できなかった。
顔をそらしながら答える。
「いいのよ。正直、あの状況を抜け出す方法が思いつかなくて…むしろ助かったわ。でもどうして孤児院の記録なんて調べてたの?」
「…あの女の身元を洗っていたんだ。孤児院出身なのに姓があることが気になってな」
「それは学院長が『詮索しないように』と仰っていたじゃない。私も疑問ではあったけれど、表に出せない血筋の子がいることなんて、貴族じゃ珍しくないわ」
「隠し子、ということか」
「ええ。『ローズ』なんて聞いたことのない姓だったから、本当の家名を隠すための偽名かと思っていたの」
「俺も最初はそう考えたんだが、最近の学院の状況を見て気になってな。あの女について学院長に再度確認したが…具体的な説明は何もなかった。ただ彼女を庇うばかりでな」
「学院長がそんな曖昧な対応をするなんて…よほど知られたくない事情があるのかしら?…実は隠された皇女様だったり…?」
私は冗談交じりに言ってみた。
「馬鹿をいうな。あんな品性のない女が皇女だとしたら国が滅びる」
「ちょっと!何もそこまで言わなくても…さっきのセレスティアさんに対する態度も――」
私は思わず笑いそうになったが、ふとセレスティアの言葉を思い出してしまう。彼女がうっとりと語ったあの言葉。
——とても素敵な方で…思わず見惚れちゃいました。
「…ねえアルベルト、あなたはセレスティアさんのこと…どう――」
「興味がない」
間髪入れずに返ってきた。
「……まだ最後まで言ってないんだけど」
「どう思うか、と聞きたかったんだろう。興味がない。以上だ」
「興味がないって…今じゃ彼女、学院中で『聖女様』と呼ばれてるのよ?みんな夢中なのに」
「だからどうした。周りが聖女だと騒いでいても俺の目にはそう映らないからな」
「だからって…本当に何とも思わないの?」
「…やけにつっかかるな」
アルベルトが足を止めて、こちらを見る。
「なんだ、あの女が俺に惚れていると言っていたのが気になるのか?」
「えっ…!?ち、違っ……どうしてそれを……」
「最初から聞いていたと言っただろう。『素敵な方で見惚れた』とか何とか。…どうでもいいが」
「そ、そうだったわ…。…っ別に、気になってるわけじゃ…」
顔が熱い。なんで私が動揺してるの。
「そうか」
ちらりと見たアルベルトの顔が、わずかに緩んでいた。
「……何笑ってるのよ」
「笑っていない」
「笑ってるじゃない」
「気のせいだ」
そう言いながらも、口元の緩みは消えない。
私はわざとらしく溜息をつくと、軽い口調で言った。
「まあ、あんなに可愛くて綺麗な子に好かれてるなら嬉しくもなっちゃうわよね」
「あれのどこが可愛くて綺麗なんだ。厚かましくて目障りの間違いだろう」
「あなた…そんな冷たい人だったかしら…」
アルベルトは足を止めた。
「……俺が優しくしたいと思うのはお前だけだ」
言葉が止まった。
「……え?」
「俺はお前のことで手一杯なんだ。他の奴を気にかける余裕なんてない……それだけだ」
彼は前を向いたまま、淡々と言った。
「……っ」
思わず顔をそらす。胸がいたい。
(なんでこんなこと聞いてしまったのかしら。聞いたら苦しくなるだけだって、わかってたのに…まだ、気持ちを捨てきれていなかったのね)
私は無理やり気持ちを押し込めると、明るく微笑んだ。
「……そう。あなたって本当に変わってるわね。おかげで生徒会の仕事がはかどって助かるわ」
「……」
アルベルトは何も言わなかった。
(……ごめんね、アル)
応えたい。本当は応えたい。
でも私にはもう、その資格がない。
レオン殿下の婚約者に選ばれたあの日、この気持ちには蓋をしたつもりだった。そうしなければ、私と真剣に向き合おうとしてくれていた殿下に、あまりにも失礼だから。
たとえ今その婚約が揺らいでいたとしても、それを言い訳に蓋を開けるわけにはいかない。
「…早く教授のところへ行きましょう。待たせてしまうわ」
「…ああ」
短い返事。それ以上、アルベルトは何も言わなかった。
10
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
悪役令嬢、休職致します
碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。
しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。
作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。
作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした
由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。
無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。
再び招かれたのは、かつて母を追放した国。
礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。
これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。
悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。
二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。
けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。
ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。
だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。
グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。
そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる