濡れ衣悪役令嬢、偽聖女の治癒魔法を暴きます

Luno

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「皆さん、朝から何を騒いでいるの?」

私が呼びかけると、生徒たちは道を開けた。

「あ、あの……」

セレスティアと呼ばれた少女は、私を見ると怯えたように身を縮めた。

「初めまして、私は生徒会副会長のヴィオレッタ・ヴァンクールです。転入生のセレスティア・ローズさんですね?」

「は、はい!よろしくお願いします、ヴィオレッタ様」

彼女が顔を上げた瞬間、その瞳の美しさに息を呑んだ。エメラルド色の瞳が、まるで木の葉に滴る雫のように艶めいている。

「おや、朝から賑やかだね」

聞き慣れた声に振り返ると、そこにはレオン殿下が立っていた。金髪が日の光に照らされ、まるで物語の王子様のような風貌をしている。私の婚約者にして、将来の伴侶。恋愛感情はお互いにないけれど、知性と品格を兼ね備えた彼を、私は信頼している。

セレスティアはレオン殿下の方を向いて、頬を赤らめている。だが一瞬、その視線が私の隣にいるアルベルトに向けられたような気がした。

(……気のせいかしら?)

「兄上」

低い声と共に、ダミアン殿下も姿を現した。レオン殿下とは対照的な黒髪に、鋭い藍色の瞳。第二王子である彼は、いつも何かを警戒しているような目をしている。

「ダミアンも来たのか」

「学院長に魔法学の新カリキュラムについて相談がありまして」

ダミアン殿下は素っ気なく答えた。

「僕はこれで」

そう言ってダミアン殿下はレオン殿下に一礼すると、一瞬だけ私の方を見て、まるで何か言いたげな表情を見せた。でもすぐに視線を外し、足早に立ち去った。

「相変わらず人付き合いの悪い弟だ」

レオン殿下が小さくため息をついた。

「まあいい。それよりヴィオレッタ、この騒ぎは?」

「転入生の方がいらしたので、ご挨拶をと思いまして。セレスティア・ローズさんです」

私が説明すると、レオン殿下の視線がセレスティアに向けられた。彼の瞳に、ほんの一瞬、興味の色が浮かぶ。

「転入生とは珍しい。おっとこれは失礼。私はレオン・エルディア。よろしく、セレスティア嬢」

「あ…よろしくお願いいたします、レオン様」

セレスティアが頬を赤らめて俯く。しかしその瞬間、周囲がざわついた。私も思わず眉をひそめてしまう。学院とはいえ、王族に対しては「殿下」と呼ぶのが礼儀だ。

「セレスティアさん」

私は優しく、でも毅然とした声で注意した。

「王族の方々には『殿下』とお呼びするのが——」

「いや、構わないよ、ヴィオレッタ」

レオン殿下が軽く手を上げて私を制した。

「転入したばかりで、礼儀作法に慣れていないのは当然だ。ただ——」

彼はセレスティアに向き直った。

「今後は『殿下』と呼んでもらえるかな?君のためでもあるんだ」

「も、申し訳ございません、レオン殿下!」

セレスティアは真っ青になって深々と頭を下げた。

「私、平民の出で、そういった作法を知らなくて……本当に失礼いたしました」

その時、アルベルトが口を開いた。

「礼儀作法は学院で学べばいい。ヴィオレッタ、俺は先に戻っている。書類がまだ山ほどあるからな。レオン殿下、失礼いたします」

そう言って、アルベルトはレオン殿下に軽く会釈すると、生徒会室へ向かって歩き出した。

「相変わらず素っ気ないな、アルベルトは」

「仕事熱心なだけですよ、殿下」

セレスティアの視線が、去っていくアルベルトの背中を追っているのに気づいたのは、私だけだったろうか。

「それよりもセレスティア嬢」

レオン殿下の優しい声で、セレスティアは我に返る。

「知らなかったことを責めはしない。むしろ、素直に謝罪できる君の姿勢は立派だよ」

セレスティアはレオンの言葉に安堵したような表情を浮かべ、その瞳には涙がたまっている。

「あ、ありがとうございます、殿下……」

レオン殿下の表情が、明らかに変わった。今まで見たことのない、興味深そうな眼差しでセレスティアを見つめている。平民でありながら、これほど素直で美しい少女——彼にとって新鮮な存在なのかもしれない。

私の胸に、小さな不安がよぎった。レオン殿下と私の関係は、愛情ではなく信頼で結ばれている。でも、もし彼が他の誰かに心を奪われたら……?
いえ、考えすぎよ。レオン殿下はそんな軽薄な人じゃない。

「では私はこれで。セレスティア嬢、学院生活を楽しんでくれたまえ」

レオン殿下はそう言った後、私の方を向いた。

「ヴィオレッタ、生徒会室まで送ろう。定例会議の件で確認したいこともある」

「ありがとうございます、殿下。ミレイユ、セレスティアさんの案内をお願いできる?」

「……はい、ヴィオレッタ様」

ミレイユの返事には、明らかに不満が滲んでいた。セレスティアを直接見たことで、嫉妬心が決定的になったようだ。

「よろしくお願いします、ミレイユさん」

セレスティアが無邪気に微笑みかけてきた時、ミレイユの拳がかすかに震えた。同じ平民なのに、なぜこうも違うのか。ミレイユは「平民のくせに」と陰口を叩かれ続けたのに、セレスティアは「平民なのに美しい」と称賛される。
不公平だ、という感情が、ミレイユの胸の奥で黒く渦巻いていた。

◇◇◇

生徒会室に戻る途中、レオン殿下が私に話しかけてきた。

「珍しいね、平民の転入生とは」

「ええ、でも実力があれば身分は関係ありません。ミレイユのように」

「君らしい考え方だ」

「そういえば、今月の定期報告会は参加できそうですか?」

「ああ。今回は時間ができそうだ。いつも君に任せきりで申し訳ないと思っているよ」

「いいえ、殿下には殿下の務めがありますから」

「助かるよ。それと来月の学院視察だが、今年は父上が直々にお越しになる」

「陛下が直接?いつもは宮内大臣や教育担当の大臣の方々では…」

「今年は特別らしい。建国300年を来年に控えて、次世代の人材育成を重視したいらしい」

「なるほど…それは準備も一層入念にしなければなりませんね」

「ああ。生徒会の運営手腕も評価の対象になるからね。それから、優秀な生徒の実技披露も例年通り行うが…」

彼は少し考えるような素振りを見せた。

「あの転入生、セレスティア嬢も候補に入れることになるかもしれない」

「転入したばかりなのにですか?」

「父上は新しい才能に興味をお持ちだ。特に平民から優秀な人材が出ることを歓迎されている。もし彼女に特別な才能があれば、の話だが」

「分かりました。彼女の様子も含めて、注意して見ておきます」

「では、また定例会で詳細を詰めよう」

レオン殿下は優雅に一礼すると、王族専用の塔へと向かって行った。

(陛下が直接お越しになる…もしセレスティアさんが本当に特別な力を持っていたら、国王陛下の前で披露することになるかもしれないわね)
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