濡れ衣悪役令嬢、偽聖女の治癒魔法を暴きます

Luno

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3 治癒の光

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転入から三日。セレスティアはすでに学院の話題の中心になっていた。
明るく天真爛漫。それでいて礼儀正しい彼女に、男子生徒たちは夢中のようだ。一方、女子生徒たちの反応は分かれていた。

「平民のくせに、男子の注目を集めて……」

廊下で聞こえてくる陰口。主に貴族の令嬢たちからで、そのほとんどは嫉妬から来ているようにみえる。
一方、平民出身の女子生徒や、心の優しい令嬢たちは、むしろ好意的だった。

「セレスティアさんって本当に人懐っこくて、話しやすいのよ」
「昨日、落とした本を拾ってくれて…そこから会話が広がって仲良くなったの!すごく優しかったわ」

まるで学院全体が、セレスティアを中心に渦を巻いているかのように――。

「ヴィオレッタ様、例の件ですが…」

放課後の生徒会室で、ミレイユが書類を抱えて近づいてきた。最近の彼女は、以前より口数が少ないが、それはセレスティアの話題が広がってきてからなのは明白だった。

「孤児院への寄付の件ね。準備は整ってる?」

「はい。明日の午後、院長先生が受け取りに来られます」

私は微笑んだ。王都の外れにある聖テレサ孤児院。そこへの定期的な支援は、私が生徒会に入ってから始めた活動の一つだった。

「今回は冬物の衣類と、学用品が中心よね」

「はい。それから、ヴィオレッタ様が個人的に用意された絵本も。物語を楽しみながら自然と読み書きが身につくような内容のものばかりですので、きっと子供たちも夢中になってくれますよ」

ミレイユの表情が少し和らいだ。
彼女も平民出身だからこそ、恵まれない子供たちへの支援の大切さを理解してくれている。孤児院の支援は、彼女も特に精力的に取り組んでくれていた。

「子供たちが喜んでくれるといいわね。知識は誰にも奪われない財産だから。せめて文字を読めるようになれば、将来の選択肢も広がるでしょう」

その時、廊下から騒がしい声が聞こえてきた。

「大変だ!中庭で生徒が倒れたぞ!」

私とミレイユは顔を見合わせ、すぐに駆け出した。

◇◇◇

中庭に着くと、異様な静けさが漂っていた。
人だかりの中心で一人の男子生徒が苦しそうに地面に倒れている。誰もがどうしたらいいかわからず、立ち尽くしていた。

「道を開けて!」

私が声を上げ駆け寄ると、生徒たちは一斉に道を開けた。
倒れているのは、二年生のマルクス。いつもは元気すぎるくらいの彼が、青白い顔で苦しんでいる。額には脂汗がびっしりと浮かび、呼吸も浅い。

「マルクス!しっかりして。誰か、保健室へ——」

治療魔法が使える先生を呼ぼうとした時、人混みの向こうから澄んだ声が響いた。

「お待ちください、ヴィオレッタ様」

セレスティアが軽やかな足取りで前に出てきた。

「私にお任せください!」

そういってセレスティアはマルクスのそばに駆け寄る。

「セレスティアさん?今は一刻を争うわ。マルクスを早く保健室に運ばないと——」

「大丈夫です!私、治癒魔法が使えるんです。彼、本当に苦しそうで…私の力なら助けられます!」

「治癒魔法…?でもそれは…」

周囲がざわめいた。それは伝説の聖女だけが使えたという、もはや失われた術。現代では誰も使えないはずの力だった。

するとセレスティアは周囲の反応など気にも留めない様子で、マルクスに詰め寄る。

「セレスティアさんっ!まって!」

私が止める間もなく、セレスティアは両手をマルクスにかざしていた。

次の瞬間——

彼女の掌から、見たこともない美しい光が溢れ出した。それは温かく、優しく、まるで春の陽だまりがキラキラと輝いているような――。

「すごい…」
「なんて美しい光なんだ」
「こんな綺麗な輝きは見たことがないぞ!」

生徒たちが息を呑む中、マルクスの顔色が見る見るうちに良くなっていく。やがて灰色がかっていた肌に健康的な血色が戻ると、荒かった呼吸も穏やかになっていく。そして彼はゆっくりと目を開けた。

「あれ…俺、どうして…」

「よかった!本当によかった…」

セレスティアがほっと安心したような笑みを浮かべる。額に汗を浮かべながらマルクスの体調を気遣う様子は、さながら女神のようだった。

「すごいわ、セレスティアさん。でも、大丈夫?顔色が——」

「いえ、大したことではありません」

彼女はさらりと私の心配を受け流した。

「困っている人を見過ごすことなんて、できませんから」

その言葉に、周囲から感嘆の声が次々と上がる。

「信じられない…失われたはずの治癒魔法を」
「しかも自分の体力を削ってまで」
「まるで伝説の聖女様みたいだ」

私は複雑な気持ちで、その光景を見つめていた。確かに素晴らしい。でも私は生徒会副会長として、きちんと確認しなければと思った。

「セレスティアさん。治癒魔法は何百年も前に失われた術のはずです。どこでその術式を学ばれたんですか?古い文献にも詳細はあまり残されていないはずですが…。それにあなたの顔色を見る限り、かなりの魔力を消耗されたようです。学院には適切な手順書もありませんし、今後は保健室の先生と相談してから——」

「ヴィオレッタ」

低い声に振り返ると、レオン殿下が立っていた。

「見事な治癒魔法だったね」

彼はセレスティアを見つめながら続けた。

「失われた術を自在に使いこなすとは、天賦の才能というべきか。ヴィオレッタ、あまり堅苦しいことを言うものじゃない。彼女は純粋な善意で行動したんだから」

いつもは誰に対しても公平な彼が、今は明らかにセレスティアを庇っている。

「あ、レオン殿下…」

セレスティアが振り返る。疲労で青ざめた顔に、薔薇のような赤みが差した。
セレスティアが頬を染めて俯いたその一瞬、彼女の視線が人混みの中を探すように動いたような気がした。

…誰かを探している?

「君のような才能ある生徒が転入してくれて、学院としても心強いよ」

「そんな、私はただ……」

「謙遜することはない。失われた術を使えるなんて、まさに奇跡だ」

レオン殿下は振り返ると、私にも視線を向けた。

「ヴィオレッタ、君も同じ意見だろう?」

私は複雑な気持ちを押し殺して頷いた。

「ええ、もちろんです。このような貴重な才能を持つ方が学院にいてくださるのは心強いですね。セレスティアさん、改めてありがとうございます。マルクスを助けてくださって」

(でも、本当に大丈夫なのかしら。失われた術を、何の代償もなく使えるなんて…)

私が礼を述べると、セレスティアは少し驚いたような顔をした。まるで、私から感謝されるとは思っていなかったかのように。

「いえ、当然のことをしただけです」

彼女はそう言って微笑んだ。その笑顔は確かに美しかったが、なぜか私の胸に小さな違和感を残した。
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