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第五章 エイセルの街

エリザベートの場合(7)

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「私はそんなあの子の面倒を見ながら、魔物を狩り、街を目指して歩いていたわ。とは言っても、あの子は何も話さないし反応もしなかったから、ただ闇雲に街道を歩いていただけなんだけどね」

 そう言ってリースは苦笑した。

「そんな風に過ごして1週間ぐらい経った頃、この街、エイセルに着いたの。私、その時この街を見て笑っちゃったわ。エルフの里では森の外は疫病が蔓延した汚らわしい世界だって言うのよ?そりゃあ、病気が零とはとても言えないけどね」

 リースはそう言って苦笑した。

「それから冒険者ギルドで登録して今に至るわ。……この説明で大丈夫かしら?」
「え、ええ……」

 サラリと言われた結構重い事情に、エリザベートはそれ以上何も言えなかった。

「それでさっきの話なんだけど、あなた、友達と手分けして犯罪者を捕まえているって言ったわよね?」
「ええ」

 その返答にリースは微笑んで言った。

「それなら私、力になれると思うわよ」
「えっ?」
「実のところを言うとね、私ここの所毎日のように襲われて、その度に倒して警備兵に突き出していたんだけど……面倒臭くなっちゃったのよ」
「ちゃったって……」

 エリザベートはその言葉に唖然とした。

「それでさっき纏めて捕まえて、粗方警備兵に届けてやってきたの」
「そ、そうなの?」
「ええ。それで残ったやつらもさっき下で呑んでいた時に襲ってきたから、とりあえず縄で縛って隣の部屋に転がしてある。今リアリスが見張っているわ。多分それで全員だと思うわよ」
「えっ?」

 事態のあまりの急展開にエリザベートは頭がついていかなかった。

「リオナもいるけれど、見に行く?」
「ええ、お願い」

 リースの提案に、エリザベートは大きく頷いた。

 隣の部屋はある意味で地獄絵図だった。

「あなたたちみたいなやつらがいるからお母さんは!」
「ちょっ!リオナ!止めなさい!」

 全部で5人いる男たちはそのうち4人が顔をパンパンに腫らして床に倒れており、まったく動かなかった。残った1人もリオナが泣きながら殴っていた。

「はなして!」

 止めようとするリアリスを振り払い、リオナはただひたすら殴り続けた。
 エリザベートはその光景に気が遠くなった。

「何……これ……」

 半狂乱で泣き叫びながら、血で真っ赤に染まった拳で男たちを殴りつける幼女。その姿はエリザベートが今まで見たことがある何よりも、経験したことがある何よりも恐ろしかった。
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